ドッドマン『うちの猫が変だ!』

ドッドマン『うちの猫が変だ!』

 

猫の問題行動を、心理療法で治療する。

アメリカはタフツ大学獣医学部・行動薬理学教授が書いた本。早い話が、猫の心理療法の話と考えて良い。

突然キレる猫、毛布を食べる猫、飼い主を攻撃する猫、真夜中に鳴き叫ぶ猫、家具で爪を研ぐ猫、仲が良かった猫同士が急に喧嘩するようになった、等々。それら「問題行動」を起こした猫達の心理を分析し、心理学的にまた薬学的に(つまり投薬によって)“治療”する話の数々が書いてある。

著者のもとには多くの飼い主達が「藁にもすがる思いで」駆け込んでくる。その猫の問題行動を“治療”するか、または安楽死させるかの瀬戸際に立たされた飼い主達だ。著者は、猫をなんとか“治療”して、その猫が捨てられたり、収容施設に持ち込まれたり、安楽死させられたりしないよう、心を砕く。この本に書かれてあるその“治療法”は、日本の飼い主にも参考となるものが多いだろう。本の中では頻繁に鎮静剤などの薬を使っていて、日本では薬は手に入りにくいかもしれないが、行動療法の方はかなり応用できるはずである。

この本の中には恐ろしいことが書いてある。日本の多くの飼い主達がペット先進国としてあがめているアメリカの実体である。

毎年、保護施設に収容されている500万匹の猫のうち、350万匹の猫が、収容場所がないと言うことで、人間の手で始末されている。本当の野良猫は、このうち10パーセント以下である。その他の猫のうちでは、問題行動を起こす猫がかなりの割合にのぼる。そのせいで、家を追い出されたものと思われる。興味深いことは、安楽死させようとして保護施設を訪れる飼い主は、犬に比べて猫の飼い主のほうが多いことである。
これらの事実からも明らかなことは、ネコの飼い主は、自分の猫の問題行動を解決する手段の一つとして、家から追い払うことを選ぶということである。自ら安楽死させるよりは収容施設へ、と考えるらしいが・・・(後略)
page202

 

毎年350万匹も処分されている?なんという数字だ!しかも、これは保護施設で処分された猫達の数字である。西洋人は日本人よりずっと気楽に獣医に安楽死を依頼する。 安楽死させられた猫達の数を含めたらどれほどの数字になるのだろうか。

エリザベス・ヘス氏が「ボクを救ってください」の序文で「毎年2千万匹の動物が全国の保護センターで命を落とすという話を聞いたとき・・・」と書いていたが、猫だけで350万匹なら、猫以外のペット(犬、ウサギ、馬、フェレット、等々)全部を合わせて2000万匹というのはあながち嘘ではなかろう。背筋が寒くなるような数だ。

 

ドッドマン『うちの猫が変だ!』

ドッドマン『うちの猫が変だ!』

しかし、この本を読んでいて、私はかなりの違和感を覚えた。

どうも私自身や私の周囲にいる日本人達と、このアメリカ人達とでは、猫に接する態度が決定的に違うような気がする。猫をまるでイヌのように扱っているように思えてならないのだ。私はアメリカ人については詳しくないが、イギリス人やドイツ人のイヌの躾方は、それは見事だと思っている。彼らはイヌを本当にうまく人間社会に適応させてしまう。私はいつも、日本人の子供より、ドイツ人のイヌの方が10倍もお行儀がよいと本気で思っているくらいだ。

今、アメリカでは猫の数が犬の数を上回ったそうである。猫が一番人気のペットとなった。が、色々な本を読んでいると、どうも猫を犬と同じように躾られると思っているアメリカ人が多すぎるように感じられる。この本の中の飼い主達は、家具で爪を研ぐと言っては爪除去の手術をし、夜中に鳴くといっては声帯手術をし、(繁殖を防ぐ為ではなく)スプレーを止めさせる為に去勢手術し、攻撃性を和らげるために何年も猫に鎮静剤を与え続ける。そのようにして、各自思い通りの猫に仕立て上げていく。

でも猫ってそんな動物だろうか?猫と暮らす為に、そんなことまでしなきゃならないのだろうか?

ネコが爪を研ぐのは当然、不都合なところで研がせないようにすることこそ人間側の知恵というもの。夜中に鳴くのは、何か理由があるからだろう。去勢手術はスプレーを止めさせるという人間側の都合ではなく、不幸なネコを増やさないというあくまで猫側の事情で行うべきだ。猫が人間に対し攻撃的なのは接し方が間違っているからだと思うし、猫同士が攻撃的なら別居させればよいだけだ。鎮静剤を何年も与えてまで同じ部屋に置く必要がどこにあるだろう。

最近の血統書猫はますます大人しく、人間にとって都合のよい性格に作りかえられている。この調子では、やがて犬のように、とんでもなく“品種改良”された猫達がゾロゾロ誕生しそうで恐い。すでにも毛のない猫、足の短い猫、耳の折れ曲がった猫、カーリーヘアーの猫が誕生している。シャムネコはますますとんがってきている一方で、ペルシャの鼻は顔にめり込んでいる。性格も、より大人しく、従順に、八方美人に作りかえられてきている。そのうちにネコでありながらじゃれない、爪も研がない、去勢しなくてもスプレーをしない品種が登場するかもしれない。一日中ぬいぐるみのようにじっと座っているだけ。

それではネコではないと思う。

何年も鎮静剤で大人しくさせられたネコもネコではないと思う。快適な同居の為には、まず相手をよく理解すること。

この本は二通りの読み方ができる本だ。猫を理解したい人が読めば、より理解が深まり、猫との接し方がわかるだろう。が、猫をコントロールしたい人が読んだら、投薬をはじめ猫の操作方法ばかりを読み取り、自分も同じようにして猫を制すればよいのだと思いこむかも知れない。

私は猫は同居する相手であって制する相手ではないと思っている。どうかこの本を真似て薬で安易に猫を制しようとはしないでほしい。

(2003.12.17)

ドッドマン『うちの猫が変だ!』

ドッドマン『うちの猫が変だ!』裏表紙

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『うちの猫が変だ!』

  • 著:ニコラス・ドッドマン Nicholas Dodman
  • 訳:池田雅之(いけだ まさゆき)・伊藤茂(いとう しげる)
  • 出版社:草思社
  • 発行:1999年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4794209290 9784794209290
  • 286ページ
  • 原書:”The cat who cried for help” c1997
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

  • プロローグ
  • 飼い主の傷だらけの人生
  • 家庭に平和をもたらす努力を
  • やつあたり攻撃されて困ったら
  • 猫の中に住む悪魔
  • よく遊び、よく学べ
  • 人間をこわがる猫、猫をこわがる人間
  • トイレをめぐる難問
  • 助けを求めて鳴く猫
  • 爪なき反抗
  • 真夜中に恋のときめき
  • 手あたりしだい口に入れ
  • 毛はストレスとともに去りぬ
  • 猫の本音は「ツイスト・アンド・シャウト」
  • 悲しみに打ちひしがれて
  • エピローグ
  • 訳者あとがき――猫たちから学ぶ共生のための人間学

 

著者について

ニコラス・ドッドマン Nicholas Dodman

タフツ大学獣医縛部の行動薬理学教授。動物行動学を獣医学に応用している人物として世界的に有名。著書に ”The dog who loved too much”(邦訳『うちの犬が変だ!』)がある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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ドッドマン『うちの猫が変だ!』

8.4

猫度

9.9/10

面白さ

7.5/10

情報度

7.5/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

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