グールド『三毛猫の遺伝学』

グールド『三毛猫の遺伝学』

 

なぜ、三毛猫の雄は少ないのか、遺伝学の素人が調べまくる!

私にとってこの本は非常に面白かった。久しぶりのヒットといってもよいくらいに。

内容は、題名通り、三毛猫という毛色を遺伝学的に解明しようとしたもの。

著者は偶然三毛猫の雄と同居することになり、強い好奇心を覚える。どうして三毛猫はほとんどが雌なのだろう?なぜ三毛猫の雄はこれほどまでに珍しいのだろう?

著者はそれまで遺伝学については全くの素人だったが、三毛猫の謎を解こうと文献をあさりはじめる。この本は著者の5年にわたる三毛猫研究の成果である。

遺伝学について多少なりとも知識のある人なら、この本はすらっと簡単に読めるだろう。内容的に難しいところは全然ないし、文章も、学者の難解な文章と違い、非常に平易で分かりやすい。

遺伝学をまったく知らない人の場合は、少々とまどうかも知れない。専門用語は本当に必要最小限しか使っていないのだが、それでも、「減数分裂」とか「キメラ」とか「クラインフェルター症候群」など、どうしても使用を避けられない専門用語がいくつか出てくる。

が、そういう耳慣れない単語は文中でちゃんと分かりやすく説明してあるし、巻末には用語集もある。
その用語集を見ればわかるがたった4ページ分だ。普通の遺伝学専門書なら、その数倍は専門用語が並んでいるところだ。よくまあこれっぽっちの用語でこれだけの本を書けたと感心してしまう程少ない。

この本は、遺伝学の入門書としても、うってつけだと思う。メンデルから最新の学説まで、遺伝学上の発見や出来事が、順を追って面白く書いてある。お陰様で私の頭の中まで、すっきり整理された感じ。

とは言え、著者の目的はあくまで三毛猫の遺伝学的解明にある。だから話は常に猫に、三毛猫に戻ってくる。そこが猫好きの私としてはたまらなく楽しい。

グールド『三毛猫の遺伝学』

グールド『三毛猫の遺伝学』

ところで、遺伝学とは関係のない箇所で、1箇所だけ非常に面白おかしく思った記述がある。少し長文だが引用する。

西暦1000年までに、ネコは中国から日本に渡った。日本ではペットとしてかわいがられ、ネズミをとらせるなどとんでもないとされた。このような状況が数百年続くあいだに、小さな害獣ネズミたちは爆発的に増えていった。ネズミの大好物はカイコだった。カイコは一三世紀から一五世紀にかけて日本の主要産業であったが、そういう事態になってもまだ、日本人は貴重な宝物のネコを害獣退治に使おうとはせず、そのかわりにネズミを脅かす作戦にでた。いたるところにネコの絵や彫刻を置いてみたのだが、案の定、効果はほとんどなく、いつのまにか、わるいのはネコだということになってしまった。一七世紀までには、穀物の収穫にも絹の生産にも深刻な影響が現れるようになり、ネコの人気は下落し、ようやく日本人も目を覚ましたのである。「何人もネコを飼ってはならぬ」というおふれがだされた。すべてのネコは野良ネコとして、ネズミにとってはたいへん迷惑だが人間にとっては有益な仕事に従事するようになった。そういうわけで、穀物と絹は救われたのである。
page100

日本人の皆様、どうですか、この日本ネコ史は?これぞ‘東洋の神秘ジパング’と思われていた頃のなごり?残滓?欧米人にとって日本という国は今尚遠い国なんだな~と思わせる記述だと私は思った。

勿論、昔の日本でも、ネコはネズミ捕りに活躍した。一部の猫達が、大事に屋敷内に繋がれ愛玩されていたのは事実であるが、そもそもネコはネズミ捕りの為に輸入されたのである。そしてそのネズミ捕り能力が高く評価されたからこそ、ネコを飼っていない(飼えない)人や場所に、せめてものネコの絵を置いて、少しでもその御利益にあやかろうとしたのである。(猫絵については「猫絵の殿様」に詳しい。)

それから、この「おふれ」とは、一条の辻に立ったという高札のことか(慶長7年{1602年}「一,洛中猫の綱をとき、放ちがひにすべき事、一、同じく猫うりかひ停止の事」)。あるいは、貞享二年(1685年)の「ならせ給ふ御道へ、犬猫出るとも苦しからず、今より後、つなぎをく事あるべからず」等、五代将軍綱吉(1646-1709)の一連の生類憐れみ政策のことをさすのか。が、それなら、猫の価値が下がるどころか猫を含める生類全体の価値が非常に高まった時期というべきではないかと思うのだが。

ところで、もしこの本を読んで遺伝学に興味を持たれたら、次はリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」を是非お読み下さいね。遺伝学上の必読書です。

(2004.01.22)

グールド『三毛猫の遺伝学』

グールド『三毛猫の遺伝学』

グールド『三毛猫の遺伝学』

グールド『三毛猫の遺伝学』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『三毛猫の遺伝学』

  • 著:ローラ・グールド Laura Gould
  • 監修:七戸和博(しちのへ かずしろ)・清水眞澄(しみず ますみ)
  • 訳:古川奈々子(ふるかわ ななこ)
  • 出版社:翔泳社
  • 発行:1997年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4881355333 9784881355336
  • 304ページ
  • 原書:”Cats Are Not Peas” c1996
  • 登場ニャン物:ジョージ、マックス、他
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

  • 1 はじめにジョージありき
  • 2 ジョージはどこからやってきたのか?
  • 3 ジョージの祖先
  • 4 性に関する昔の学説
  • 5 遺伝学の起源
  • 6 科学者たちはいつ、なにを見たのか?
  • 7 初期の三毛ネコ論文
  • 8 性に関する最近の学説
  • 9 最近の三毛ネコ論文
  • 10 ネコが袋から飛びだした―秘密の解明
  • 用語解説
  • 年譜
  • あとがき
  • 監修者あとがき
  • 索引

 

著者について

ローラ・グールド Laura Gould

カリフォルニア大学バークレー校にて言語学を専攻。プログラマー、大学講師などの経歴を持つ。コンピュータ言語学、テクノロジーの社会学的意義、思考の革新的伝達峯にいたるまで、あらゆる方面の活動に従事。夫、二匹の猫、そしてたくさんの野生の動植物とともに、北カリフォルニアの荒野に在住。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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グールド『三毛猫の遺伝学』

8

猫度

8.5/10

面白さ

8.5/10

情報度

7.0/10

猫好きさんへお勧め度

8.0/10

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