書評:岩合光昭『ニッポンの猫』

岩合光昭『ニッポンの猫』

 

有名な猫写真家による猫写真集。

表紙になっているのは、どこにでもいそうな、茶白の猫。野良猫だろうか。毛並みは良くないし、薄汚れて、太い手足はふてぶてしく、しかし屋根瓦にスリスリしている仕草はまさに‘猫’でかわいくて、猫好きなら必ず通りすがりに声をかけずにはいられないだろう。この瞬間を切り取るとはさすがとしか言いようのない、文句のない写真である。

中に集められている写真も。

グラビア風血統書猫なんか1匹もいなくて、どの猫も、ごく普通の、むしろ汚れた、野良猫外猫ばかりで、それが妙に背景にとけ込んでいる。その背景は、これもごく日常的な、むしろ日常的すぎる、生活感あふれる風景で、店頭であったり、民家の軒先であったり、あるいは公園や港や裏路地や・・・

まさに「ニッポンの猫」なのである。

この写真集が高い評価を受けたのも頷ける。平凡で、懐かしく、それでいて、決定的瞬間。

だけど・・・

今の私はあまりにひねくれてしまったので、こういう写真集を、微笑ましく見ることはできないのである。

この写真集が発行されたのは2000年3月。つい10年ほど前。これが50年前の写真集なら手放しで賞賛するところだが。

たった10年前の本が、これ?
これじゃあ、外猫野良猫賛歌じゃないか!

Amazon等の購入者レビューを読んでみる。どれも「癒される」「和む」とのんきな感想・・・

そりゃこの写真を見る人間は、癒されたり和んだりするかもしれないけど、こういう状況に置かれた猫達が、野良猫問題を引き起こしたり、虐待の対象にされたり、駆除・殺処分で捕獲されたり、またこういう猫達から産まれた子猫達が、飢えて病んで泣き叫びながら死んでいく、それを救うために、全国どれほどの猫ボランティアが、当方もない時間と労力と経済的負担を強いられ、周辺住民には「お前等が餌づけするから増えるんだ」とののしられ、時には嫌がらせや訴訟まで起こされて・・・

つい最近(2010/11/26)、民主党が「ペット税導入」を検討し始めたとのニュースが流れた。

『ペットの無責任な飼育放棄などが、行政による処分費用の負担など「負の連鎖」につながっているとして、「地方自治体による登録制を導入して課金も行うことなども含め検討を提言する」とした。
  課税を通じてペットの適切な飼育を促し、税収を処分費用に充てることを想定している。』(読売新聞より抜粋)

つまり、適切飼い主から税金を徴収して、無責任飼い主の尻ぬぐいをさせ、猫達を殺す費用に充てようなんてことを、政府は考えたってわけだ。なんてこった。

そして、この写真集で一見のどかに写っている猫達こそ、そういう「無責任飼育」の結果の猫達じゃないか?
こういう猫達をいかに減らしていくかが、今は大問題になっているんじゃないのか?

なのに、そういう問題提起が一切無く、ただひたすら外猫賛歌って、動物愛好家として、無責任ではないか?

ごめんなさいね。
でも、今の私はどうしても、常にそういう思考回路しか持てないわけで。

岩合さんにお願いします。
もう外猫野良猫の写真は止めて、次からは保健所等の、殺処分待ちの猫達の写真を撮ってください。
もし本当に猫がお好きなら、どうかどうか、そうしてください。

(2010.12.4.)

岩合光昭『ニッポンの猫』

岩合光昭『ニッポンの猫』裏表紙

岩合光昭『ニッポンの猫』

岩合光昭『ニッポンの猫』中表紙

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ニッポンの猫』

  • 著:岩合光昭(いわごう みつあき)
  • 出版社:新潮社
  • 発行:2000年
  • NDC:748 写真集
  • ISBN:4104148024 9784104148028
  • カラー
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:-

 

 

著者について

岩合光昭(いわごう みつあき)

東京生まれ。1970年にガラパゴス諸島を訪れ、自然の驚異に圧倒されたことが契機となって、写真家の道を選ぶ。地球のほとんどの地域を取材し、野生動物を中心として大自然を撮り続け、現在にいたる。「ナショナル・ジオグラフィック」をはじめとする海外のメディアでも高く評価され、1982年から84年まで、アフリカ・セレンゲティ国立公園に滞在して撮影した『おきて』や、三年間長野県地獄谷で設定的にその生態を研究し、長時間にわたる観察のもとに撮影した『スノーモンキー』は英語版も刊行され、全世界で多くの読者を獲得している。主な著書に『海からの手紙』『セレンゲティ』『サバンナからの手紙』(朝日新聞社)、『おきて』『クジラの海』『ライオン家族』『風がいい島』(小学館)、『スノーモンキー』(文・岩合日出子、新潮社)、『海ちゃん--ある猫の物語』(文・岩合日出子、新潮文庫)、『ボサノバ・ドッグ』『ブルース・キャット』(筑摩書房)、『ニッポンの犬』(文・岩合日出子、平凡社)など。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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岩合光昭『ニッポンの猫』

岩合光昭『ニッポンの猫』
6.9

猫度

9.9 /10

面白さ

5.0 /10

画像

9.5 /10

猫好きさんへお勧め度

3.0 /10

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