ネヴィル『猫に精神科医は必要か』

ネヴィル『猫に精神科医は必要か』

 

猫は複雑な精神構造を持っています。

著者のネヴィル氏は、イギリス人。動物の行動療法の専門家。ペット行動カウンセラー協会(APBC)の創立者のひとりで、動物保護教育協会のメンバーでもある。

本書では、猫のさまざまな問題行動の例とその解決法が書いてある。神経症、ストレスとトラウマ、攻撃行動、スプレー、トイレのしつけ、その他その他。さらにスプレーひとつにしても、6つの相談例とその対処法が書いてある。

もし問題行動を起こす猫の飼い主であれば、この本に書かれた症状のどれかには当てはまる可能性が高そうだ。その対処法を読んでうまくすれば問題行動が収まるだろうし、うまくいかなくとも、少なくともそのような行動で悩む飼い主は自分一人だけではないのだと慰められるだろう。問題行動がない猫の飼い主であれば、うちの子はなんていい子なんだろうとますます愛猫を愛せるようになるかもしれない。

症例は非常に多いのだが、それだけに、治療法は詳細に書く紙面が足りなかったのか、あまり事細かくは書いていない。もし本当にその症例で悩んでいる人がいたら、書かれていることだけでは物足りなく感じるかもしれない。もっとも、猫という動物は高度に個性的だから、ある猫の治療法をいくら細かく書いたところで、別の猫にそっくり適用できるはずはなく、だからこの本のように、治療の方向を示す程度しか書けないのかもしれない。

ただひとつ。この本では猫は外出自由が普通と見なされているので、日本の読者はその点は注意して読んでください。日本の町の作り方と、イギリスの町の作り方では、全然構造が違う。日本の家は南向きを理想としているがイギリスの家は東西南北関係なく、すべて道路に向いている。多くの人々が金持ちも貧乏人も関係なく長屋に住んでいる。そしてその長屋の後ろにバックヤードが連なっている。個々のバックヤードは板塀で仕切られているけれど、猫にとって板塀なんてキャットアスレチックのようなもの。いわば長屋という城壁で囲まれたキャットアスレチック付きの広い庭みたいなものだ。もちろん車もこない。だから猫達は安心して遊べる。日本の普通の家では、私は完全室内飼いが理想だと思う。でなければ、庭を囲っての完全敷地内飼い。

ちょっと面白いと思ったのは、次の記述。

ペットフードメーカー協会の調査によると、イギリスで猫を飼っているのは社会経済層のうち中間より上のグループであり、犬は中間より下の層で人気が高いという。
page15

どちらかといえば日本と逆ではないだろうか。日本では高価な血統書犬はステータスシンボルのようなところがあって、値段の高い犬を飼っている人ほど威張っている。日本では昔から犬を庭で飼うことが多く、犬を飼っている=庭付き持ち家、というイメージがあったからかもしれない。または日本人は犬より血統書という‘物’の‘価値’を尊重する嫌な傾向があるからかもしれない。

(2005.1.16)

ネヴィル『猫に精神科医は必要か』

ネヴィル『猫に精神科医は必要か』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫に精神科医は必要か』

  • 著:P.ネヴィル Peter Neville
  • 訳:竹内和世(たけうち かずよ)・竹内啓(たけうち あきら)
  • 出版社:講談社
  • 発行:1996年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:406154229X 9784061542297
  • 269ページ
  • 原書:”Do Cats Need Shrinks?” c1990
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

  • まえがき
  • 1章 猫、犬、そして人間
  • 2章 人と猫との関係
  • 3章 猫に精神科医は必要か?
  • 4章 神経質、恐怖症、不安をめぐる問題
  • 5章 絆の問題
  • 6章 ストレスとトラウマが引き起こす問題
  • 7章 猫の攻撃行動
  • 8章 尿噴射とそのほかの不潔なにおいづけ行動
  • 9章 トイレのしつけ
  • 10章 猫にみられる奇妙な行動
  • エピローグ
  • 訳者あとが

 

著者について

ピーター・ネヴィル Dr.Peter Neville

イギリス・ランカスター大学で生物学を専攻。動物福祉のための大学連合(UFAW)でのらネコ、モグラ、アザラシの行動および人間と動物の関係についての研究に携わる。猫の行動とペットの問題行動治療の開発についての研究で博士合取得。現在、ペット動物行動学センターにおいて行動療法の実施、教育、研究に従事している。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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ネヴィル『猫に精神科医は必要か』

8.6

猫度

9.5/10

面白さ

8.0/10

情報度

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

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