野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』

野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』

カリスマ獣医師と呼ばれるにはそれなりの理由があったと納得。

目立つ言動、きんきらきんの格好、ド派手な車・・・カリスマ獣医師としてもてはやされ、「カリスマ」という言葉がたちまち死語となった今でも、何かと言えば名前が出てくる。日本一有名な獣医師。そんな野村氏の本だから、どうかと思ったが・・・つまり、あんなにご多忙な方が本なんか書いている暇があるの?と。

第1章の「猫の不思議」は、ちょっと内容が軽いと思った。とはいえ、感心する文章もあった。つぎの部分など、私もまったく同感だ。

Q3 猫は、人間がいなくても生きていけるのではないですか?

生きていけないですね。家畜ですから。
家畜と野生動物の違いは何か。(中略)ひとくちに言いますと、家畜というのは、ネオテニー――幼形成熟なのです。つまり、精神的に一生子供。だから一生独り立ちできない。イエネコは、人間が飼ってはじめてイエネコなんですね。
(中略)
野良猫というのも、飼い主のいないイエネコのことです。人間圏で生きる人間の友だちのはずなのに、捨てられて野生の生活を強いられているわけです。だから、飼い主不在の野良猫は可哀想なんですね。
野良猫を見たら友だちになってあげてください。そして、できれば養子にしてあげてほしいと思います。
page15-7

すごく大事なことが書いてあると思う。世の中には、猫の味方のフリをしながら、猫は野生動物だ野生動物だと連呼しているような人もいるけれど、私はイエネコ種は家畜だと思う。だって脳=精神構造がすっかり変えられちゃっているのだから。そしてまた、家畜とは、ヒトがお世話しなきゃならない存在のことでもある。

第2章の「猫と人間」は、なるほど人気獣医師の話術を見たと思った。適切な言葉を選ぶ頭脳は凡人にはマネできない。

第3章「猫のからだ」は現場の獣医師らしいと思い、そして、その章の最終質問、

「・・・いい仔猫を見分ける方法はありますか」で、
私は、「やられた!」と降参した!

良い仔猫の見分け方は、どの飼育書にも必ず載っている。いわく、健康で活発であること、いわく、物怖じしない好奇心旺盛な子であること。云々。

野村氏も、一応、一番良い仔猫の見分け方を簡単に説明はするが、そのあと、

でも、もしあなたが本当の『命好き』で、お金も知恵もある人であれば、一番悪い子を貰って育ててほしいのです。自然界では生き残れないような、弱々しかったり、奇形の子をこそ貰ってあげて欲しい。あなたには、その余裕があるはずだから。
page113-4 太字=管理人

これです、私が見たかった言葉、待っていた言葉は!( ;∀;)

我が子はできるだけ健康で、性格も頭脳も優良であってほしい、というのは、万国共通の願いだ。それはよく分かる。
が、少しでも余裕のある人はもっと不幸な子達にも目を向けてあげてほしいと、常々思っている。

どの飼育書も健康な仔猫選びばかり推薦していて、それは当然といえば当然なのだろうが、私はいつも寂しく思っていた。
野村氏のような事をはっきり書いてくれる方は拍手喝采の心境だ。

この一文で、私は野村大ファンに豹変した。

さらに、第5章「野良猫の悲劇」をすばらしいと思い、また第6章では「猫と犬」という表現を好ましく思った。
これは猫の本なのだから、「猫と犬」と猫が先にくるのが自然。なのに、多くの猫本は、平然と「犬と猫」と、犬を先に持ってくる。
「犬猫」なら熟語だから犬が先で正しい。しかし、間に「と」の字がはいる場合は、同格なのだから、犬と猫でも、猫と犬でも、どちらでも良いはずだ。細かいことだが。

ただ、最終章の第7章「猫の幸福」で、猫にとって一番幸せなのは、雌は仔猫を育てているとき、オスは交尾をしているとき、と書いてあるのが、少し配慮が足りないと思った。
確かにその通りかもしれない、が、そんなことを書いたら、またまた「不妊手術なんて可哀想」という輩が出てきてしまうではないか。

全体としては、気軽に面白く読めると思う。
特に猫をあまり知らない人たちには、ぜひお勧めしたい。

(2002.12.3)

野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』

野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

『Dr.野村の猫に関する100問100答』

  • 著:野村潤一郎(のむら じゅんいちろう)
  • 出版社:メディアファクトリー
  • 発行:2001年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4840102082 9784840102087
  • 182ページ
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:-

目次(抜粋)

  • 第1章 猫の不思議
    • Q1 猫はどうして「ニャーオ」と鳴くのですか?
    • Q2 「ニャーオ」と「ゴロニャーオ」。鳴き方で意味は違うのですか?
    • その他
  • 第2章 猫と人間
    • Q18 猫は人間のことをどう思っているのですか?
    • Q19 猫の性格は飼い主に影響を受けますか?
    • その他
  • 第3章 猫のからだ
    • Q44 猫の舌にはなぜトゲトゲがあるのですか?
    • Q45 濡れたわけでもないのに、猫が歩いたあと廊下に足跡がつきます。
    • その他
  • 第4章 猫の一般教養
    • Q64 猫の学名は何といいますか?
    • Q65 猫の語源は何ですか?
    • その他
  • 第5章 野良猫の悲劇
    • Q77 さいきん野良猫が少なくなったような気がしますが。
    • Q78 下町の野良猫と山の手の高級猫では、やはり違いはありますか?
    • その他
  • 第6章 猫と犬
    • Q84 猫と犬、どちらが頭がいいですか?
    • Q85 猫と犬、どちらが強いですか?
    • その他
  • 第7章 猫の幸福
    • Q90 猫にとって一番悲しいのはどんなことですか?
    • Q91 猫にとって一番幸せなのはどんなことですか?
    • その他
  • あとがき

著者について

野村潤一郎(のむら じゅんいちろう)

新宿生まれの下町育ち。東京中野・野村獣医科V CENTER院長を務める。120頭を越える動物達が棲む「怪獣館」の主(あるじ)でもある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』

9.1

猫度

9.8/10

面白さ

8.5/10

情報度

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

9.5/10

野村潤一郎『Dr.野村の猫に関する100問100答』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:りえぴ様】

    これは先生の自筆本ではなくて、インタビュー形式でまとめた本です。
    内容は野村先生曰く「心から猫を愛する飼い主の皆さんが、頷いたり驚いたり悲しんだり喜んだりしながら読める、等身大の野村潤一郎式猫飼育書」だそうです。

    文中にでてくる猫のイラストは、全て先生の自筆です。とても上手なのでビックリしました。

    野村先生は飼い主に甘いことを言わないし(むしろ、かなり厳しい)変わった所ばあるので、好き嫌いがはっきり別れる獣医師です。
    本人はキンキラキン、車は何千万円もするという派手な車だし(笑)。しかし生き物を愛する情熱はすごいと思います。

    さらっと肩がこらずに読めました。
    (2002.5.6)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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