斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

 

ルドルフ、ついに岐阜へ帰る決心をするが・・・

『ルドルフとイッパイアッテナ』

野良猫のボス、イッパイアッテナ。
飼い猫のブッチー。
元は宿敵、今は仲良しのブルドッグ、デビル。
それから、黒い子猫、ルドルフ。いや、もう1歳だから体は大人にゃ!けど、周囲からは子ども扱いされている。
まあ、野良歴6年のイッパイアッテナから見れば、まだまだ青二才ってことは自覚しているけれど。

4匹は仲良く暮らしていました。
ルドルフは、最近、岐阜のことを以前ほど考えていない自分に気が付きます。
・・・ルドルフは、岐阜市で生まれ育った猫でした。
飼い主は小学生のリエちゃん。お隣のおねえさんとも仲良し。
ところがある日、猫嫌いの魚屋から逃げようとして、長距離トラックに飛び乗ってしまい、この東京に来ちゃったのです。
元飼い猫、それも子猫が、大都会で野良猫として生きていくなんて無理!

ルドルフを助け、教育したのは、大猫イッパイアッテナです。
世渡り上手で、物知りで、ケンカがめっぽう強い。頼りになるボス猫です。
今日はこの人、明日はこの人と、何人もの人間の間を、絶妙な距離感で渡り歩いて、食べ物をもらっていました。

「イッパイアッテナ」という奇妙な名前は、

ぼくが東京ではじめて知り合ったトラねこだ。ノラねこだから、名まえがいっぱいある。それで、最初にあったとき、
「おれの名まえは、いっぱいあってな。」
なんていうもんだから、ぼくは、イッパイアッテナっていうのが名まえかと思っちゃったんだ。
page7-8

と、ルドルフが勘違いしたからで、本名はタイガーというらしいのですが、
名前はイッパイアッテナ、友だちもイッパイアッテナ、
ルドルフはイッパイアッテナという呼び方がすっかり気に入っていて、本猫もまんざらではなさそうな様子なので、そのままイッパイアッテナと呼んでいます。

さて、このイッパイアッテナ。
今でこそ堂々とした野良猫のボスですが、昔は飼い猫でした。
ブルドッグのデビルの家の隣は、空き地になっています。
昔、そこに、ボロ家がたっていました。
そのボロ家を借りていた貧乏な男が、イッパイアッテナの元飼い主です。
元飼い主は、ある日とつぜん、アメリカに渡航してしまい、残されたイッパイアッテナは野良猫になったのでした。

その空き地に、どこかの大金持ちが、家を建てはじめました。
それを知ったイッパイアッテナは、「アメリカにいこうかな」と言い出します。
そして、ルドルフも、自分も岐阜に帰るべきかと考え始めます。

斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

前作より、さらに児童文学として洗練されたように思いました。

説教臭さがなくなり、ハラハラドキドキの冒険や、思わぬどんでん返しが盛り込まれて、児童なら夢中で読むでしょう。
その分、人生訓が減ったようにも思えますが、これは仕方ありません。

でも大事なポイントは抑えてあります。

本当の友情とか愛情とかとは、なによりもまず相手のことを尊重し、そのために自分ができる最大限の努力をすること。

これ、わかりきったことのようでいて、実はすごく難しい。
しばしば、人は、相手のためといいながら、実は自分自身のためだけに動いていることが多いです。
親なんか特にそうですね。
子供のため、子供のためといいながら、自分の夢願望を押し付けて、子供を窒息死させている親、世間には多いでしょう?

この本に登場する動物たちは、そんな押しつけはしません。
大切な友だちが何を一番望んでいるのか、よく観察して、口に出さなくてもそれを正しく察知して、そして、それが実現するように協力します。
友だちのためには命もかけます。
しかし、恩着せがましいことは一切いいません。黙したまま、知らん顔です。
そして、どの子も、猫ではありますが、自分というものを持っていて、その芯からブレません。
なんともカッコイイ。

上記とは関係ないのですが、この本の中に出てくる「緑色のヘビ」ちょっと気になります。
本州在来のヘビであれば、ヒバカリじゃないかと思いました。緑っぽい個体もいますから。でも私が見たヒバカリはどの子もずっと小さく、東京の真ん中にそんな大きなヒバカリがいるのかなあ?
アオダイショウも、光線の具合によって濃い緑に見えないこともないかもしれません。でもふつう、アオダイショウを緑色のヘビとは表現しないでしょう。
で、場所・色・大きさ(長さ)から推測するに、イヤな結論、つまり、「元ペットの輸入ヘビが脱走か遺棄された」というのが一番、それっぽく思われてしまうのです(汗)。
そうでないことを祈ります。
(児童書ですから、そこまで煩く考える必要はないのかもしれませんけど)

斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ルドルフともだちひとりだち』

  • 著:斉藤洋(さいとう ひろし)
  • 出版社:講談社 講談社文庫
  • 発行:2016年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784062934015
  • 207ページ
  • 登場ニャン物:ルドルフ(クロ、クロウ)、イッパイアッテナ(タイガー、他)、ブッチー、ジャック、テリー、他
  • 登場動物:ブルドッグ

 

 

著者について

斉藤洋(さいとう ひろし)

東京都生まれ。中央大学大学院文学研究科修了。1986年、『ルドルフとイッパイアッテナ』で講談社児童文学新人賞受賞、同作でデビュー。1988年、『ルドルフともだちひとりだち』で野間児童文芸新人賞受賞。1991年、路傍の石幼少年文学賞受賞。2013年、『ルドルフとスノーホワイト』で野間児童文芸賞受賞。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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斉藤洋『ルドルフともだちひとりだち』

9.3

猫度

9.9/10

面白さ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

9.0/10

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