谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

 

シートン 旅するナチュラリスト 第2章。

作画:谷口ジロー、原案:今泉吉晴の人気シリーズ。

シートン少年15歳の時の話である。

深い森の中に住む開拓民の農場へシートンは夏をすごしにいった。
そこではトムとジェーン、まだ少女のケイトが暮らしていた。
周辺には人は住んでいなく、すべて自給自足の、森の生活だった。

それこそ、シートン少年が憧れていた生活でもあった。

しかし、ある日、頼りのトムが熱病で倒れてしまう。

トムはシートン少年に女性達の保護を頼んで、治療のために出かけてしまう。
気楽に送り出したシートン達だが、トムがいなくなったあとで、3人は次々と同じ病に倒れ・・・

一方、山ではオオヤマネコが飢えていた。
オオヤマネコは一家のニワトリ達に目を付ける。

シートン達の病は重くなるばかり。
しかも食料は日に日に乏しくなっていく。
残されたのはニワトリ達だけ。
そのニワトリをオオヤマネコもねらっている・・・

最後にはオオヤマネコは室内にまで侵入して、命がけの戦いが繰り広げられる。

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』裏表紙

ここでは、ヒトもオオヤマネコも同等な存在として描かれている。
ヒトも大変だが、オオヤマネコはそれ以上に必死だ。
ヒトの事情と同じように、オオヤマネコの事情もしっかり描いてある。
誰も決してオオヤマネコを責める気にはなれないだろう。

あまりに壮絶な、生きるための戦い。

現代の日本人が忘れたものをギラリと突きつけられたような気になる。
病と闘ったシートン達より、オオヤマネコの運命の方が、読む者の心に重くのしかかる。

アーネスト・トンプソン・シートンといえば、まず思い浮かぶのは「動物記」だろう。
が、彼は作家であると同時に、すぐれた画家であり、博物学者であり、教育者でもあった。
ボーイスカウト/ガールスカウトの原型を作ったのはシートンである。

私は、シートンの作家としての業績もさることながら、教育者としての功績も非常に大きかったと思う。
彼の思想は、彼の生きた時代よりむしろ、現在にこそ、もっと生かされて欲しい。
自然に対する畏敬と理解、動物たちの立場に立って物事を見る習慣、広い視野。
彼が今の世を見たらどれほど嘆くだろうか。

どうぞ、このシートンの動物記をじっくりと味わってください。
谷口ジロー氏は、しっかりと、動物記を描ききっています。

(2006.8.9)

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』中表紙

谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

とても細かい絵で、人間側だけでなく、ヤマネコの苦悩も丁寧に描かれている

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『少年とオオヤマネコ』
シートン 旅するナチュラリスト 第2章

  • 著:作画:谷口ジロー(たにぐち じろー)
  • 原案:今泉吉晴(いまいずみ よしはる)
  • 出版社:双葉社アクションコミックス
  • 発行:2006年
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:457593979x 9784575939798
  • 262ページ
  • 登場ニャン物:オオヤマネコ
  • 登場動物:多数の野生動物達

 

著者について

谷口ジロー(たにぐち じろー)

鳥取県に生まれる。71年「嗄れた部屋」でデビュー。92年「小学館漫画賞・審査員特別賞」、93年「日本漫画家協会賞優秀賞」、98年「手塚治虫文化賞マンガ大賞」、99・01年「文化庁メディア芸術祭優秀賞」等を受章。国外でもフランス・イタリア・スペイン等の国々で数々の漫画賞を受賞。
代表作は「ブランカ」「犬を飼う」「遙かな町へ」「天の鷹」「事件屋稼業」「『坊ちゃん』の時代」(原作関川夏央)、「神々の山嶺」(原作夢枕獏)等。

今泉喜晴(いまいずみ よしはる)

東京都に生まれる。山梨と岩手の山林に小屋を建て、森の野ネズミ・リス・ムササビ等小型哺乳類の生態を研究している。
著書に「がんばれひめねずみ」「空中モグラあらわる」「ウォールデン森の生活」「シートン動物誌・全十二巻」「子どもに愛されたナチュラリストシートン」(児童福祉文化賞・小学館児童出版文化賞受賞)他多数。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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谷口ジロー『少年とオオヤマネコ』

9.3

動物度

9.0/10

面白さ

9.5/10

猫好きさんへお勧め度

9.5/10

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