書評:若竹七海『古書店アゼリアの死体』

古書店アゼリアの死体

軽快なテンポでぐいぐい引き込まれるコージー・ミステリー

相澤真琴は、今年31歳。働き甲斐のあった会社は、あっけなく倒産してしまった。憂さ晴らしに大枚をはたいて有名ホテルに泊まったら、火事になった。幸い真琴は無事だったけど、目の前を焼死した女性の遺体が運ばれて行った。ショックとストレスで脱毛症になったら、怪しげな宗教団体に追いまわされ、逃げようとして足首を捻挫した。

ここまで不運続きではもうどうしようもない、海に行って、人気のないところでひっそり・・・死のうなんてことは、もちろん、考えない。海に向かってバカヤローと怒鳴ってやろうと、海岸に降り立ったら、そこには死体が流れついていて、警察に通報したら連行されて・・・

読んでいる方が疲れそうな展開だが、これはまだ序奏。ここからさらにドタバタ喜劇、否、悲劇?殺人事件が起こるのだから悲劇には違いないのだけど、でも、あまりに明るくスパスパと進んでいくので、やっぱり喜劇に近い。コージーミステリーの王道って感じ。

個性豊かな面々が登場する。嫌味な女、謎めいた女、うぶな娘、うさんくさい男、行方不明の男、意外と頼りになる男。

登場人物が多いわりに、「これ、誰だっけ?」と混乱することなく読めたのは、著者のストーリー展開のうまさか。場面が章ごとに、あるいはひとつの章の中でも、どんどん入れ替わって、いろいろな事件が同時展開で進んでいくのだが、小気味よいリズム感で、主要人物を忘れているヒマもない。あれまあ、あらら?え、そうなの?と、先も見えぬ展開に、ぐいぐい引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。面白かった。

最後の「解説」に書かれている通り、「とにかくスイートで、ロマンティックで、優しく人情味があり、そして何よりユーモラス。」なのに、最後にちょびっとコショウも効かせてあり、ゾワっとした後味が一瞬舌先に残る。この辺もミステリーらしくて良い。

とまあ、本全体のレビューは、アマゾン等を検索すれば沢山出てくるから、この程度にして。

以後は「猫愛護サイトの、愛猫家向け猫本レビュー」の視点で。

猫は出てくる。カフェオレという名の大きな雌。

が、この子、登場人物たちの行きつけのコーヒー専門店に、どっかり座っているだけで、何もしない。「猫ミステリー」とは程遠い、希薄な存在。その点は残念。

けれど、一般的に、猫好き人間には悪い癖があって、必要もないところに、つい猫をちらつかせてしまう。若竹七海とて例外ではなく。例えば、ティッシュボックスの箱には「定期預金はよそより断然・葉先信用金庫」という文字と「猫のイラスト」。この場面で「信用金庫」はともかく、イラストが猫である必然性は全然ないのだが。

と、こんなどうでも良い描写にいちいちひっかかるのも猫好きならでは。こういう「ひっかかり」は数か所でてくるから、楽しみに探してください。

もうひとつ、私がとても気に入った描写。

「確か、きみは昨日、重大な犯罪行為の片棒を担いだんだったな」
途端に幸也は、薬殺寸前の捨て犬と目が合ってしまった貧乏な愛犬家そっくりの、せっぱ詰まった顔つきになった。
「や、やだなー、言いますよ、もちろん。(後略)」
(p.288)

せっぱ詰まった顔を描写するに、こんな表現を使う作家。好きだなあ。

この一文だけで、愛猫家・愛犬家の皆様なら、著者の他の作品も読んでみたいってなりませんか?

(2017年9月18日)

 

「古書店アゼリアの死体」

  • 著:若竹七海(わかたけ ななみ)
  • 出版社 : 光文社 光文社文庫
  • 発行年 :2003年
  • NDC : 913.6 長編推理小説
  • ISBN : 9784334735463
  • 登場ニャン物 : カフェオレ

 

目次

古書店アゼリアの死体 目次

古書店アゼリアの死体

  • 本編(第1章~第11章)
  • おまけ ~前田紅子のロマンス小説注釈~
  • 解説 池上冬樹

 

著者について

若竹七海 (わかたけ ななみ)

東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。1991年、連作短編集『ぼくのミステリな日常』でデビュー、新人離れした力量で注目を浴びる。以降、青春ミステリーから歴史ミステリー、コージー・ミステリー、ホラーまでジャンルを問わず、多彩な作品を次々に発表。主な著書に『スクランブル』(集英社)、『悪いうさぎ』(文芸春秋)、『猫島ハウスの騒動』(光文社)などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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若竹七海

若竹七海

古書店アゼリアの死体

古書店アゼリアの死体
67.5

猫度

1/10

    面白さ

    9/10

      読みやすさ

      9/10

        おすすめ度

        8/10

          Pros

          • 二転三転するプロット、
          • 息もつかせぬスピード感ながら、
          • ロマンスもユーモアもたっぷり
          • ロマンス小説好きなら楽しさ100倍

          Cons

          • 猫の登場があまりに少ない!

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