アリストテレス『動物の発生について』

岩波書店「アリストテレス全集11」。
アリストテレスの動物学五大著作の五番目として、彼の思想を知る上でも重要な研究書であり、後世に与えた影響も大きい作品です。
構成
全部で5巻からなっています。以下、ごく簡単に各巻の内容を。
第一巻
動物の発生の原因、始原、雄と雌の生殖器官について、精液や月経血について、動物と植物の区別について、等。
第二巻
発生の仕組み、精液の蘇生、胎児について、交配種が生殖不能な原因、等。
第三巻
鳥類の発生、軟骨魚類の発生、それ以外の魚類の発生、自然発生のしくみ、等。
第四巻
性別の決定のしかたや発生、奇形・障碍について、等。
第五巻
胎児の各器官について、ひとの白髪について、動物の体色・声・歯について、等。

アリストテレスの「目的論」や「性差」について
アリストテレスは、自然を「目的」によって秩序づけられているとしています。体のどの部位も、どんな機能も、すべて「目的」があるというのです。
さて、自然がなすあらゆることは「必要」のためか、または「より善いこと」のためであるとしたら、睾丸という部分が存在することも、以上のいずれかを原因としているはずである。
(page 30)
より「目的」にあった、より複雑な機能を持つ動物ほど、より「優れた」動物だとアリストテレスは考えます。その頂点に立つのは、もちろんヒトです。
また性別については、常に雄のほうが雌より上とされています。
すべての動物は精液から生じるし・・・
(page 52)
なぜ「精液」なのかをいろいろ書いていますが、当然ですが現代の生物学とはかけ離れた内容で、私たちの目にはおよそ「科学的」とはいえない内容です。けれども古代ギリシアの人々にとってはこれこそ科学の最先端な学説だったんだろうなと推測できるような議論展開ではあります。
月経血は、雄に生殖液が生じるのと同じように、雌に生じるものであって、二種類の精液状の放出が同時に生じることはあり得ないわけだから、雌が発生のために精液を提供しないことは明らかである。もし雌に聖域が存在するとしてら、月経血のほうは存在しないはずだから。
(page 80)
※注:太字は原書では傍点。
ところで、最初に運動を引き起こす原因――――そこに事物の本質的あり方についての説明規定と形相が内臓している――――は自然本性において素材よりも善いし、より神的であるから、より優れたものはより劣ったものから分かれているほうが善い。そのために、雄が雌から分かれているいることが可能であるものの場合、それが可能であるかぎりにおいて、雄は雌から分かれているのである。すなわち、生まれてくるものにとって、雄としての運動の始原にあたるものはより善いもの、より神的なものとして存在しているいうわけである――――これに対して、雌のほうは素材にあたる。(後略)
(page 104)
雌は発生の場所を提供する素材にすぎない、というわけです。というのも、
雌というのは損なわれた状態にある雄のようなものであるし、月経血も精液ではあるが、純粋ではないもののことである。
(page 130)
アリストテレスは、あらゆるものが火・空気・水・土の四元素の、熱・冷・乾・湿という性質の組み合わせ方で構成されると考えました。動物達については、とくに重要なのは「火」で、熱いか冷たいかでその動物の完成度がかなり規定されます。さらに、湿っているか、乾いているか。男はより熱くすぐれていて、女は冷たいから男より劣っている、というように。
さて、雄が何らかの始原および原因であって――――雄であるのは「何かをなす能力がある」ということによってであり、雌であるのは「能力がない」ということによってである――――この能力と無能力の境目は、(後略)
(page 251)
2025年に生きている雌である私から見れば、アリストテレスの説明は納得できないものだらけです。あまりに四元素にこだわりすぎて、すべてをそれで説明するのはちょっと無理がありすぎると感じます。がんばっているのはわかるけど、そうはならんだろ、みたいな。
また、生物に優劣をつけるのも私としては気持ちの善いものではありません。ヒトの雄こそがもっとも完成された理想型、つぎがヒトの雌。動物としては「胎生」がもっとも完成度が高く、水の中に卵を産む生き物は完成度が低く、自然発生する生き物(蛆など)はもっとも未完成、のような。生物に優劣なんてないのに、と思ってしまいますが、これが今から2300年以上前の考え方、紀元前350頃の思想なんですよね。
・・・いえ、今でもそういう「人間至上主義」は非常に根強く、確固たる地位を持って続いているのも事実ですけれども。
というわけで。
当時の人々の考え方や、現代まで続く思想の根源などを知りたい方には、なかなか面白い書物だと思います。けれども、もちろん、現代人の我々が「生物学的な面で」学べるものはありません。『動物誌』ではひたすら「アリストテレス、すごい!」と感嘆した私ですが、この『動物の発生について』では正直、「どうしてそうなるの?そりゃないだろ」が多かったです。
とはいえ、読んでよかったとも思います。西洋人の思想を知るにはやはりアリストテレスは不可欠ですから。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像にあえてボカシをいれる場合があります。ご了承ください。

目次(抜粋)
- 凡例
- 本文の内容目次
- 第一巻
- 第一章 本書の目的 動物の発生の原因となる運動の始原について
- (中略)
- 第二十三章 動物と植物との間の区別
- 第二巻
- 第一章 発生のしくみという観点に立った動物の分類、動物の体の諸部分の生成
- (中略)
- 第八章 半ロバが生殖不能であることの原因
- 第三巻
- 第一章 卵を産むもの(一)――――鳥類の卵と卵からの発生
- (中略)
- 第一一章 ひとりでに発生するもの――――殻皮動物の発生のしくみ
- 第四巻
- 第一章 雄と雌の性別の決定とその原因
- (中略)
- 第一〇章 動物の妊娠期間
- 第五巻
- 第一章 本巻の主題、胎児の睡眠、眼の性状
- (中略)
- 第八章 歯の発生について
- 解説
- 索引
著者について
アリストテレス(Aristoteles)
- 生没年:紀元前384年〜紀元前322年
- 出身地:古代ギリシャ・マケドニア王国スタゲイラ
- 師匠:プラトン(ソクラテスの弟子)
- 弟子:アレクサンドロス大王の家庭教師
- 学派:逍遙学派(リュケイオン創設者)
- 主な分野:哲学、倫理学、論理学、自然科学、生物学、政治学、詩学など
- 代表的な思想:
- 「四原因説」(質料因・形相因・作為因・目的因)
- 「中庸」の倫理(過剰と不足の間にある徳)
- 「三段論法」による論理体系
- 称号:「万学の祖」— あらゆる学問を体系化した功績から

『動物の発生について』
アリストテレス全集11
- 著:アリストテレス 古希: Ἀριστοτέλης、古代ギリシア語ラテン翻字: Aristotélēs
- 訳:今井正浩(いまい まさひろ)、濱岡剛(はまおか たけし)
- 出版社:株式会社 岩波書店
- 発行:2020年
- NDC:131.4(古代哲学)アリストテレス、ペリパトス派
- ISBN:9784000927819
- 373+13ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:多数



