多様性生物学『蚊の不思議』
嫌われ者の蚊だけど。
蚊と付き合いのない日本人なんて、おそらくいない。私も勿論、生まれたときから、蚊には悩まされてきた。
にも関わらず、蚊については驚くほど無知だ。知っていることといえば、血を吸うのは雌で、刺されれば痒い、という程度。
ネット本屋をぶらついていて、偶然この本をみつけたとき、迷わず購入ボタンをクリックしたのは、当然の成り行きだった。これほど身近な存在でありながら、これほど知られていない“蚊”ってどんな生き物なんだろう?
地球上では、今なお、年間、マラリア3-5億人、フィラリア症1億2000万人、日本脳炎数万人、デング熱1億人、黄熱20万人など、世界人口のほぼ10%、5-7億人に上がる人々が何らかの蚊のうつす感染症で苦しみ、200万人以上が亡くなっている。
(p.222)
これが世界の現状。「刺されると痒い」だけの、呑気な話では済まされない。
1992年までに世界各地から記録された蚊科は約3200種もあるそうだ。我が日本に生息する蚊は、15属127種。うち、15属72種が琉球列島(トカラ列島から与那国島)に生息するという。
しかしその全部が人から吸血するわけではない。全く吸血せずに産卵する種や、人以外の動物を好む蚊もいる。そもそも蚊成虫の主食は花の蜜とかわいいもの。
悪玉はほんの一部の種で、多くの蚊は人間に危害を与えることなく、生態系の一因として巧みに生き延びている。
(p.V)
この本は、11人の研究者による、様々な蚊についての論文を集めたもの。それぞれで完結しているので、どの章から読み始めても良い。竹に開いた小さな穴の中で育つボウフラ。空飛ぶ殺虫剤にたとえられる大きな蚊。蚊を食べる蚊。マラリアの研究。その他。今まで知らなかった蚊の興味深い生態が目の前に展開する。
少々専門的ではあるけれど、一般の人が読んでも面白い本だと思う。蚊に興味のある方、悩まされている方、読んでみてください。
(2009.4.20.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『蚊の不思議』
多様性生物学
- 編著:宮城一郎(みやぎ いちろう)
- 出版社:東海大学出版会
- 発行:年
- NDC:486.9(昆虫類)
- ISBN:9784486015789
- 254ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:蚊たち
目次(抜粋)
蚊とはなにか(宮城一郎)
蚊の吸血の不思議―吸血機構と吸血性の進化(茂木幹義)
竹林にすむ蚊―ヤンバルギンモンカの生態(岡沢孝雄)
やぶ蚊たちの四季(砂原俊彦)
樹洞にすむ蚊と動物群集(増田貞滋)
世界でもっとも大きく美しい蚊―空飛ぶ殺虫剤:オオカ(堀尾政博)
蚊を食べる蚊―カクイカ(當間孝子)
蚊の暮らしからわかること―ネッタイシマカの適応と分化(津田良夫)
マラリア防圧の指導者・大浜信賢先生とオオハマハマダラカ(宮城一郎)
人は世につれ、蚊は人につれ(高木正洋)
かゆいばかりか病気をうつす蚊―大丈夫か日本は!?(上村清)
ラオスのハマダラカとマラリア(小林潤)
おわりに
参考文献
索引