マクブライド『ウサギの不思議な生活』

発見のよろこび。観察するたのしみ。〈ワイルドライフ・ブックス〉シリーズ。
この本は、イギリスに生息するウサギたちについて詳細に書かれた本です。
イギリスには現在、3種類のウサギたちが生息しています。
どこにでも見られるのが、穴うさぎ(ラビット)。実は800年前に大陸から持ち込まれた新参者です。現在、世界中でペットにされているウサギはこのアナウサギです。
開けた草原に多いのが、ヤブ野ウサギ(ブラウン・ヘア)。これも2000年ほど前に古代ローマ人とともにやってきた新参者です。
珍しいウサギが、雪ウサギ(ブルー・ヘア)。実は雪ウサギたちこそが、イギリス列島に昔から生息してた在来種です。北極圏や山岳地帯に適応したウサギで、イギリス列島からヨーロッパ大陸~シベリア東部まで広く分布しています。日本の北海道にも、亜種のエゾユキウサギが生息しています。

文章は平易だし、漢字にはフリガナがふってあって、子供でも読めるつくりですが、内容は濃いです。ウサギと暮らしている大人でも知らないことが多く書いてあるのではないでしょうか。
たとえば、切歯(門歯)の話。たぶん、ほとんどの人はウサギの切歯は上2枚下2枚の4枚だと思っていますよね?でも実際には、上の切歯は4枚あるんです。2枚のよく見える大きな切歯の後ろに、小さな「小切歯」が2枚、クサビのように生えているのです。ご存じでしたか?
穴ウサギと野ウサギの違いについても丁寧に書いてあります。巣の作り方、敵からの逃げ方、生まれたての赤ちゃんの姿、その他。
恐ろしい話も書いてあります。イギリスに穴ウサギが持ち込まれて爆発的に増えた結果、農業その他に大きな”被害”が出ました。そこで穴ウサギを減らすため、1953年、粘液腫という病気が人間によって持ち込まれました。粘液腫は穴ウサギに特有の伝染病で、ヒトやその他の動物には感染せず、野ウサギにさえあまり感染しません。
この粘液腫の効果は絶大でした。なんとわずか2年で、イギリスの穴ウサギの99%が死に絶えてしまったのです。
しかし、穴ウサギたちは生き残りました。早くも1970年代には粘液腫に対する抵抗力をもったウサギたちが現れたのです。1980年代には、粘液腫以前の水準の20%にまで回復、その後も順調に増え続けています。
しかし粘液腫の影響を受けたのは穴ウサギたちだけではなかったのです。99%もの穴ウサギがいなくなった結果、イギリスの植生は大きく変化してしまいました。自然の「草刈り隊」が消滅したからです。植生が変化した結果、そのに生息する生き物たちも影響を受けました。地上の生き物たちが変化した結果、空の生き物たち、ハヤブサなどの生息域も影響されました。イギリス農村地帯の景観も変わってしまいました。
それらの影響は、穴ウサギが抵抗力をもって数を回復するよりも、回復に時間がかかったのです。粘液腫前とはすっかり自然の様子がかわってしまった地域もあるそうです。

穴ウサギたちは、以前のイギリス人にとって重要な食料であり毛皮でもありました。穴ウサギがペット化されたのは、愛玩動物として可愛がるためでは無く、肉や毛皮を取るためです。その後、穴ウサギの食料需要は減りましたが、現在でも食べられています。著者はウサギが好きでウサギの研究をしているにもかかわらず、ウサギを食べることに対しても何の抵抗を感じていないような書き方で、ウサギを食べる習慣のない日本人としては、かなり違和感を感じてしまいます。
と、違和感を感じる文章もあるとはいえ、全体としては、ウサギについてよく書かれていると思います。残念ながら、世の中のウサギの本といえば「ペットのウサギの飼育書」ばかりで、野生のウサギたちについて書かれた本は実に少ないのです。これほど身近で、世界中に広く生息している動物なのに。
野生のウサギたちについて知りたい方におすすめの一冊です。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像にあえてボカシをいれる場合があります。ご了承ください。

目次(抜粋)
- 1 いろいろなウサギ
- 2 ウサギの特徴
- 3 穴ウサギの行動
- 4 結婚と子育て
- 5 歴史
- 6 研究と文化
- 訳者あとがき
- 索引
- 参考文献・ウサギの関連団体
著者について
アン・マクブライド Anne McBride
動物行動学者。穴ウサギの社会・保育行動の研究で博士号を取得。ウサギ研究者の第一人者である。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『ウサギの不思議な生活』
〈ワイルドライフ・ブックス〉シリーズ
- 著:アン・マクブライド Anne McBride
- 訳:斎藤慎一郎(さいとう しんいちろう)
- 出版社:(株)晶文社
- 発行:1998年
- NDC:487 脊椎動物
- ISBN:9784794946973
- 209+ⅲページ
- モノクロイラスト(カット)
- 原書:”Rabbits & Hares” (c)1986
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:ウサギたち、ノウサギたち



