アダムズ『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』上・下
完全にウサギ目線。ウサギたちの大冒険ファンタジー。
ファイバーは、小柄なウサギだったが、ふしぎな予知能力を持っていた。
ある日とつぜん、恐怖に襲われる。
平和なサンドルフォードのウサギ村に、大変な危機が迫っている!みんな死んじゃう!今すぐ、全員で移動しなきゃ!
兄のヘイズルと一緒に、長ウサギに訴えたが、相手にされない。
しかしヘイズルはファイバーを信じた。
頼もしい友人ピグウィグと、仲間たちを説きふせ、その晩、11匹のウサギが新天地を目指してウサギ村から旅だった。
理想の地は、海を越え山を越え・・・なんて遠方ではなく、人間の物差しで測れば、わずか数キロ先の丘。
けれどもその数キロが、ウサギたちにとっては、まさに命がけの大冒険なのだった。
敵はキツネや犬や人間ばかりでない。
小さな小川も、ウサギたちにとっては激流。
整備された広場は、ウサギたちにとっては、身を隠すところのない恐怖の土地。
しかし、一番の敵は、実は同じウサギ同士なのだった。
途中でカウスリップのウサギたちに出合う。
彼らは毛艶良く太り、親切で、ウサギ村も信じられないくらいに安全にできていた。
が、なぜかウサギたちには活気がなかった。
恐ろしい秘密が隠されていたからだった。
命からがら抜け出したヘイゼルたち。
痛む足を引きずりながら、苦心惨憺、ようやく目的の丘、ウォーターシップ・ダウンにたどりつく。
そこは、期待通りの素晴らしい土地だった。
旅の途中で合流したウサギもいて、数も増えていた。
が、まだのんびり安住はできなかった。
なぜなら、そこに集まったのは、全員が雄だったから。
雌が一匹もいなければ、いずれこの群れは消滅してしまう。
なんとかして、どこからか、雌を連れて来なくては!
雌を獲得するミッションは、それまでの苦労をはるかにしのぐ過酷なものとなった・・・
(注:通常ウサギは1羽2羽と数えますが、本では匹で数えているため、ここでも匹に統一しました。)
ウサギたちを擬人化しています。
ウサギたちは、議論し、組織を作って規律ある行動をとり、策略を巡らし、ときには物語を語ります。
人間はほとんど出て来ません。出てくるときは、たいてい、恐るべき敵として。
1回だけ、親切な女の子と獣医がちらっと登場します。
それ以外は全編、ウサギ、うさぎ、ウサギの話です。
予知能力をもつファイバー。
新しいウサギ村の長に成長していくヘイズル。
誰よりも力強く、そして情の深いピグウィグ(スライリ)。
話し上手なダンディライアン。
頭の良いブラックベリ。
体はちっちゃいけど一生懸命で忠実なピプキン。
力強くて落ち着いたシルバー。
その他のメンバーも、それぞれ個性豊かで、とても魅力的。
それから忘れてはならないのが、ユリカモメのキハール。
ウサギたちの次に重要な登場人物、否、登場生物です。
ウサギというのは、生物界の中では、とても弱い動物です。
ましてこの子たちはアナウサギ。
ノウサギより体が小さく、ノウサギほどの脚力も持久力もありません。
ほんの数百メートル進むだけでクタクタになってしまうような動物です。
そのウサギたちが、知恵を出し合い、勇気を振り絞って、敵と戦っていきます。
冒険を重ねるうちに、ウサギたちも成長していきます。
最初から強かったピグウィグはますます勇猛果敢に。
臆病なピプキンも勇敢な行動がとれるように。
中でも、ヘイズルの変化がすばらしい。
最初はただの若衆ウサギでした。
まだ地位も役職もない、平凡な若者でした。
それが、旅を重ねるうちに、最初は成り行きから指導者となってしまいます。
ヘイズルには、ピグウィグほどの戦闘能力も、ファイバーのような予知能力も、ダンディライアンのような話術も、ブラックベリのような頭の回転もありませんが、勇気と決断力は、どのウサギにも負けません。
強い信念と、冷静な判断力で、ウサギの群れを率いていきます。
さいごには、誰からも心から信頼される、立派な長ウサギに成長します。
ウサギたちのアクション冒険ファンタジー。
たっぷり楽しんでください。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』上・下
- 著:リチャード・アダムズ Richard Adams
- 訳:神宮輝夫訳(じんぐう てるお)
- 出版社:評論社 評論社文庫
- 発行:1980年
- NDC:933(英文学)イギリス長編小説
- ISBN:(上)4566021084 9784566021082 : (下)4566021092 9784566021099
- 405ページ、342ページ
- 原書:”Watership Down” c1972
- 登場ニャン物:無名の猫がちょい役でほんの少し
- 登場動物:アナウサギ、ユリカモメ、ねずみ、他。
【推薦:きな様】
動物を主人公とした冒険ファンタジーを読む時に気になることのひとつに「どこまでどんな風に擬人化されているか」というのがあります<私だけかしらん^^;
この物語に出てくるうさぎたちにも擬人化が施されていますが、それがなんとも絶妙なんです。
サンドルフォード村に暮らすうさぎたち。平和なはずのその村に、迫り来る未曾有の危機を感じたヘイズル以下若き雄うさぎたちが、長老たちの反対を押し切って新天地を求める冒険の旅に出る!彼らを待ち受けるものとは?!
人間の目から見ると、それは数キロの旅にすぎないのですが、作者は「うさぎ視点」を貫きます。
自動車は不愉快な煙を吐き出す「フルドド」になり、普通の小川は激流となってうさぎたちの行く手を阻み・・・その中をうさぎたちは知恵を絞り、なけなしの勇気を出して進んでいきます。
一見理想郷に思えるカウスリップ(わなの村)に隠された秘密、そしてエフラファの将軍と呼ばれるウーンドウォンドとの対決。
若き長ヘイズル、彼の親友で小さくて臆病ながら不思議な能力を持つファイバー、「漢(おとこ)だぜ!」と声をかけたくなるようなビグウィグ、語り部のダンディライアン、頭脳明晰なブラックベリ、たくましいバックソーンなどなど、キャラ立ちまくりなのも素敵です。
「何百年かの伝統を持つイギリスの寓意的なファンタジーの伝統の正統的な後継者」(神宮さんの解説より)にして、動物冒険ファンタジー中でも随一の面白さ!
・・・あ、興奮しすぎてしまって^^
失礼して「シルフレイ」(文中に出てくるうさぎ語)してまいります~。
(2004.06.30)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。