横溝正史『本陣殺人事件』『黒猫亭事件』
『金田一耕助ファイル2』。
この本には、名探偵・金田一耕介シリーズの短編が3編おさめられている。
本のタイトルになっている「本陣殺人事件」、それから「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の計3つである。
そのうち、猫が出てくるのは「本陣殺人事件」と「黒猫亭事件」の2つ。
「本陣殺人事件」
本陣とは、江戸時代、大名や幕府役人・勅使などが休泊した、公認の宿のこと。当然、その地方きっての旧家、よほど由緒正しい家柄でなければ本陣にはなれなかった。
敗戦の混乱と価値感変遷の後でも、農村ではいつまでも、本陣の誉は揺るがなかった。
しかも彼らのいうよい家柄とは、必ずしも優生学や遺伝学的見地から見た、よい血統を意味するのではないらしい。旧幕時代、代々名主を勤めたとか、庄屋であったとかいえば、たといその家から、遺伝による疾病が続出していても、よい家柄で通るのである。
(p.18)
そんな旧家で起こった悲劇。
新婚初夜に、跡取り息子の長男と、結ばれたばかりの新妻が、日本刀で滅多切りにされるという凄惨さ。
現場に残された、不気味な三本指の血糊。
そして、誰が弾いたのか、あたりに響いた琴の音。
いかにも金田一シリーズらしい、おどろおどろしい事件である。
「玉」という猫の名が何か所か出てくる。
事件が起こったのは玉が死んだ直後で、生きた玉は登場しないのだけれども、その玉の死を悲しみ、墓を掘ったり墓参りしたりするシーンがさりげなく描写される。
そしてこの「玉の墓」が最後にけっこう重要な場所となるのである。
・・・と、これは、普通なら推理小説の書評には書かないネタバレだけど、ここは猫サイトなのであえて書いてしまったのだ。
さて、猫の墓と殺人事件とどのような関係があるのか?
古臭くて薄気味悪い、旧家の人々の妄想的プライドを、じっとり楽しんでください。
「黒猫亭事件」
「黒猫亭」という名前からおおいに期待したのだが、猫はほんの脇役だった。
とはいえ、ちゃんと黒猫は出てくる。「本陣殺人事件」と違って、生きた「クロ」である。もう生きてないクロも・・・そう、死んで墓に埋められるクロも出てくる。
そうなのだ。「本陣殺人事件」に続いて、ここでも、猫の死と墓が、事件上のちょっとしたポイントとなっているのである。
ところでこの一遍は、「顔のない屍体」事件として書かれたものとなっている。
本文によれば、探偵小説には、3大トリックがあるという。
「一人二役」「密室の殺人」それから「顔のない屍体」がそれだという。
「密室の殺人」は、「本陣殺人事件」で描かれた。
そしてこの「黒猫亭事件」こそは「顔のない屍体」トリックだというのである。
どのように屍体に「顔が無い」のか、それをここに書くわけにはいかないから、それは読んでのお楽しみ、ということで(汗)。
(2011.11.11.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『本陣殺人事件』
金田一耕助ファイル2
- 著:横溝正史(よこみぞ せいし)
- 出版社:角川文庫
- 発行:初版昭和48年(1973年)、改版平成23年(2011年)
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784041304082
- 407ページ
- 登場ニャン物:玉(「本陣殺人事件」)、クロ(「黒猫亭事件」)
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 本陣殺人事件
- 車井戸はなぜ軋る
- 黒猫亭事件