児玉小枝『同伴避難』

児玉小枝『同伴避難』

 

副題『家族だから、ずっといっしょに・・・』。・・・新潟県、ありがとう!!

2011年3月11日午後2時46分。
国内観測史上最大、マグニチュード9.0の大地震。
大津波、大火災、原発事故。
犠牲者・行方不明者約1万9千人。
震災直後は40万人以上もの人々が避難した。

著者は、震災直後のあるニュース映像を見て絶句する。

それは、家屋という家屋がすべて倒壊し、一面ガレキとなった場所に、鎖につながれた状態で茫然と立ちつくす1頭の犬の姿でした。
(中略)水も食べ物もなく、身動きできない係留状態で、この犬は、これからどうやって生きていくというのだろう。あまりにも残酷な光景に、私の心は凍りつきました。
(p.3)

人命優先。
それは理解できる。それは仕方ない。
けれども。
動物たちも同じく被災したのだ。

中でも日を追う毎に深刻化していったのが、原発事故による避難で、福島県内の自宅付近に取り残されたペットたちの問題でした。原発から30キロ以内の、ほぼ無人となった地域で、置き去りにされた犬やネコがさ迷い歩いているという情報。庭につながれたままの犬や、室内に閉じ込められたままのネコが、瀕死の状態になっているという情報。
(中略)
 それらの問題の裏には、避難所への入所やバスでの集団避難など、あらゆる場面でペット同伴が認められないという現実がありました。それゆえに、家族の一員であるはずの犬やネコと一緒に避難することができず、残して来ざるをえなかった、というのです。
(p.5)

そう。
実に多くの人々が、信じられないほど多くの人々が、愛する家族を置き去りにして避難した。せざるをえなかった。

けれども、中には果敢に強引に連れ出した家族もいた。そしてそんな家族を受け入れてくれた避難所もあった。

この本は、そんな家族10組と、彼らを受け入れた避難所とを、取材した本である。

震災関係の本は、どれも重苦しく、つらい。読んで涙しない本はない。

ところがこの本は、家や職場や故郷を失った方たちの生活を描きながらも、暖かく、希望さえ感じられるのである。
どの家族も「愛犬を、愛猫を、守ったぞ!」という誇りと喜びに輝いているからだ。
愛犬愛猫たちは、そんな家族を心から信頼し、人間たちを励まし、癒し続けている。

この本を読んで流す涙は、つらい涙ではなく、「ああ、よかったねえ!」の涙である。

福島県郡山市に住んでいたある一家は、愛犬のれお君を連れて避難した。
当てどもなく車を走らせながら、もしどこへ行っても『犬はダメ』と断られたら、放射能は気になるものの避難はあきらめてれお君と一緒に自宅に帰る覚悟だった。

が、新潟の避難所に飛び込んだとき、『犬も一緒でいいですよ』と言われ、驚き喜ぶ。

また、南相馬市から逃れてきたた女性は、愛猫2ニャンと移動中に放浪する猫を発見して保護、計3ニャンと増えて避難生活に入った。

 

新潟県は、多くのペット同伴避難を受け入れてくれた。

過去2度の地震の経験から、避難される方たちが、家族の一員であるペットも一緒に連れて来られるだろうという認識は持っていましたので、当然、今回も避難所における被災ペットへの支援が必要になると想定して、3月18日、緊急に動物救済本部を立ち上げ、県内すべての市町村で、ペット同伴避難者の受け入れ態勢を整えました。』とは、新潟県生活衛生課・動物愛護衛生係長の白井和也さん。
(p.112)

中越大震災(2004年)・新潟県中越沖地震(2007年)の2回の悲劇が、苦しみが、こんな優しい思いやりを育てたのだ。
新潟県が、原発事故の福島県の隣県であったことも僥倖だった。

そういえば、越後(今の新潟)の国では間引きをしなかったと、何かの本で読んだ記憶がある。

間引き、つまり、生まれたばかりの(人間の)赤ん坊を、闇に葬る行為である。残酷だが仕方なかった。知識もコンドームもピルも無く、堕胎手術もできず、他に娯楽も少なかった時代。出産率だけは今よりずっと高かっただろう。しかし貧しい百姓は、あるいは不作の年には、産まれた子全員を育て上げる余裕はなかった。間引きは公然の秘密として広く行われていた。

その間引きが、越後では行われなかったという。あれほど雪深く厳しい土地なのに。

間引きをしない代価は高かっただろう。越後獅子とは子どもの大道芸に他ならないし、娘たちは飯盛女(遊女)として十代半ばで売られた。

苦しいとわかっていながら間引きをしなかったのは、越後の人々は、「小さな命」をいつくしむ気持ちがとりわけ高かったからとはいえないだろうか。そしてそんな越後だからこそ、良寛さんのような人物も排出されたのではないだろうか。良寛さんが愛したのは子供だけでない。自分の体にたかるノミ・シラミさえ慈しんだという。また、友人の娘さんが嫁入りするときに「心得書き」を頼まれて、八か条を書いて与えたが、そのひとつに「上をうやまひ 下をあはれみ しやうあるもの とりけだものにいたるまで なさけをかくべき事」と書いた。

「生あるものは、鳥獣にいたるまで、情けをかけなければいけません」

その心情が、今の新潟にもなお残っているのかもしれない。だから、新潟県はどこよりも暖かくペットたちを受け入れてくれたのかもしれない。

無力な私は、新潟県に、ただただ深く頭を下げる事しかできないのである。

(2012.3.21.)

児玉小枝『同伴避難』

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児玉小枝『同伴避難』

児玉小枝『同伴避難』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『同伴避難』
家族だから、ずっといっしょに・・・

  • 著:児玉小枝(こだま さえ)
  • 出版社:日本出版社
  • 発行:2011年
  • NDC:369(社会福祉)
  • ISBN:9784798410937
  • 127ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:クーちゃん、ライト君、なつめちゃん、しろみちゃん、みそにちゃん
  • 登場動物:犬たち

 

目次(抜粋)

  • はじめに
  • 新潟市体育館
    • 「普通に生活していたら、こんな風にれおを傷つけることもなかったのに・・・」
    • 「いつも無邪気うなミントに『父ちゃん頑張れよ!』って言われてる気がする」
    • その他
  • 三条市体育文化センター
    • 「クンクンを見殺しにするわけにはいかない。私は歩いてでも迎えに帰る」
    • 「ゴンタは俺の孫みたいなもんだから、いっしょにいてやるのは当たり前」
    • その他
  • 老人憩いの家「夕映荘」(長岡市)
    • 「私の気持ちをわかって『大丈夫だよ』って励ましてくれてる気がして・・・」
    • 「避難所に入れなかったとしても、一緒に車の中で寝ればいいと思ってた」
  • 新潟西総合スポーツセンター
    • 「この子たち3匹かかえてるから、なんとか仕事を探して頑張りたい――」
  • あとがき
  • 私たちにできること
  • 動物愛護団体によって被災地から救出されたペットたち
  • ペットと暮らす人のための防災マニュアル

 

著者について

児玉小枝(こだま さえ)

広島県生まれ。フォトエッセイスト、どうぶつ福祉ネットワーク代表。言葉を持たないどうぶつたちの代弁者としてメッセージを発信することをライフワークにしている。著書に『どうぶつたちへのレクイエム』『どうぶつたちに、ありがとう』(いずれも日本出版社刊)、『明るい老犬介護』(桜桃書房刊)がある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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