パターソン『永遠の絶滅収容所』

パターソン『永遠の絶滅収容所』

副題:動物虐待とホロコースト

「胸くそが悪くなるような」本です。

第1章がはじまってすぐ、おそろしい描写が続きます。人間が、人間以外の生き物=家畜たち=を去勢するために行った方法の数々です。

たとえば、牛乳を得るためには、まず、母牛を妊娠・出産させなければお乳は出ません。産まれた子牛は当然、母乳を飲もうとします。それをどうやって阻止し、子牛から乳を奪うか。

  • 仔を屠畜して皮を剥ぎ、藁や草を詰め、母の尿をなすりつけて、母のところにもっていく。
  • 仔牛の鼻面に棘の羽をゆわえつけて乳首をくわえられないようにする。
  • 仔牛の後頭部に先の尖った棒を先端が鼻面に向かうようにくくりつけて、母に近づけないようにする。
  • 鋭い釘を仔牛の鼻孔に挿入し飲もうとするとチクチク刺すようにする。
  • 仔牛の口の奥にはみ(馬具)のように棒をくくりつけて飲めないようにする。
  • 上唇に穴をあけ木の根を突き刺して両端を縛る。
  • その他、その他・・・

(以上、page 28-29より抜粋してまとめ)

 

読んでいるだけで胸くそが悪くなるでしょう?こんな感じで、去勢の方法、妊娠のさせ方、お乳を飲ませない方法、効率的な飼育の仕方、そして、屠畜の方法などが、事細かく描かれているのです・・・!!

カバーの折り返しには、このような紹介文が載っています。

 

ナチスの残虐なユダヤ人等の虐殺はなぜ起こったのか?なぜ家畜のように殺せるのか?動物なら殺すことも許されるのか?人類は、動物を家畜化し、屠畜することから、残虐さを学び、戦争と虐殺を繰り返してきたのではないのか?本書は、動物の家畜化、奴隷制からジェノサイドまで、人類による虐待と殺戮の歴史を辿り、制度的な動物の搾取と殺戮を止め、罪なき犠牲者である動物を護ることこそが、ある生命は他の生命よりもっと価値があるという世界観を克服し、搾取と殺戮の歴史に終止符を打つことができると説く。

パターソン『永遠の絶滅収容所』

   

動物の屠畜と人間への暴行虐殺は直結している

私がはじめてホロコーストの恐ろしさを肌で感じたのは、フランクルの『夜と霧』(霜山徳爾訳、みすず書房「フランクル著作集Ⅰ」)を読んだときでした。たしか大学生になってまだ間もない頃だったと記憶しています。フランクル(Viktor Emil Frankl, 1905-1997年、オーストリア)は精神科医・心理学者です。ホロコーストに自身が収容されながら、冷静に周囲を観察し、学者の目で心理分析をして、『夜と霧』という世界的名著を残しました。(今は新しい翻訳も出ています。未読の方はぜひお読み下さい。人生必読の一冊。)

 

フランクル著作集

 

検索によれば、ホロコーストによる犠牲者数は、ユダヤ人が約600万人、プラス、数百万人の非ユダヤ人(ポーランド人、ソ連軍捕虜、ロマ人、障害者など)、合計で1,100万〜1,700万人にものぼります。それほどの人々がナチス・ドイツとその協力者によって殺害されたと推定されているのです。にわかには信じられない、まさにとんでもない数字です。・・・ちなみにの東京都の推計人口は約1,427万人(2026/02/01時点)。つまり、東京の人間を一人残らず殺したのと同じようなものです。しかもホロコーストが本格化した第二次世界大戦直前のドイツ人口はたった約6500万~6900万人だったというのだから狂気です。数字だけのひどく乱暴な比較でいえば、西日本人と東北人が協力して東京都人を皆殺しにしちゃったくらいの割合でしょうか。人間がそれほどの大虐殺を実行したという事実には恐怖しかありません。

しかし、です。

国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、「2020年に屠殺された牛・鶏・豚・羊の合計は、73,162,794,213頭(731億6279万4213頭)」82億人が、毎年々々、731億頭羽の動物達を殺しているのです。ホロコーストどころの数字じゃありません。

 

歴史的胃ベンドでの犠牲者数の一覧
参考資料(本書資料ではありません)

 

著者は、人類が人類に対してあれほどの大差別・大虐殺を実行できた背景には、それを家畜で練習していた土台があったからだといいます。

 

いかにして動物の家畜化/奴隷化が人間奴隷制のモデルおよび刺激になってきたか、いかにして家畜の育種が構成断種、安楽死殺害、ジェノサイドのような優生学的措置を導いてきたか、そしていかにして牛、豚、羊、その他の動物の工業的屠畜が少なくとも間接的に、いわゆる最終解決(注)への道を開いてきたか、これまでの章で説明してきた。
(nekohon注)ホロコーストによるユダヤ人大量殺戮のこと。page162

 

著者は、人々が動物、とくに家畜たちをどのように扱ってきたかを、詳細に説明します。それからホロコーストの描写。まったく同じようなことが行われていることがわかります。また家畜たちに戻り、またホロコーストに戻ります。その驚くほどの類似性。

実際のところ、ホロコーストで働いていた人の多くが畜産業出身でした。彼らはホロコーストに収容された人々を、自分たちと同じ人間とは見ませんでした。家畜同様の奴等としか見ませんでした。むしろ家畜以下の存在でした。家畜から肉や乳や卵を奪うように、犠牲者たちからは財産や宝石や金歯や眼鏡まで奪いました。その後、よき家庭人のような顔をして、家族のもとに帰宅していたのです。

第二次世界大戦が終結し、平和な時代が到着すると、人道団体が活躍しはじめます。ようやく、家畜たちの扱いについても、ほんの少しずつですが、配慮が見られるようになります。

しかし、ここでも・・・

「第2部」を締めくくっている文章は、本質をついているだけに、ゾッとするものがあるのです。全部を書き出してしまうと長くなりますので、要点だけを抜き取って記します。

 

(前略)動物の意識をなくさせる屠畜方法は業務をより効率的に、経済的に、殺害を行う人びとにとってよりストレスの少ないものにしたと強調した。(中略)「人道的屠畜方法が労働力利用においてより効率的であり、コストも下がることに気づいた」(中略)屠畜される動物に課せられる重荷については、彼女は言及しなかった。(中略)「人道的屠畜は長い目でみて、精肉工場にとってコスト節約に」なり、「労働の困難さ」を避けるのにも役立つ(中略)。
殺害プロセスの「人道性」は(中略)犠牲者の利益のためではなく、殺害遂行者の福祉のために発展させられたものであることが、強調されねばならない。
(page 198)

 

そう。結局、犠牲者=動物たちのためではない。畜産業や精肉工場にかかわる人々のストレスを減らすために、動物福祉はおこなわれているにすぎないのだ。・・・背筋がゾッとしませんか?

ホロコーストを生き延びた人たち・その家族たち

第3部は、動物達のために活動している人の多くが、ホロコースト生存者であったり、ホロコースト犠牲者の家族や関係者だったりする事実を指摘し、彼らを紹介することに費やされています。またポーランドの作家アイザック・バシュヴィス・シンガーの作品も多く紹介されています(注:『動物の解放』を書いたピーター・シンガーとは別人)。あいにく私はシンガーの作品をひとつも読んでいません。なぜか和訳は出ていないようですが、幸い英訳の電子書籍で読めるようですので、この機会にぜひ読んでみたいと思います。

あらためてヒトという生物種の残忍性を思い知らされた一冊でした。

 

パターソン『永遠の絶滅収容所』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像にあえてボカシをいれる場合があります。ご了承ください。

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目次(抜粋)

第1部 根本的な崩壊

  • 第1章 大いなる分断 人間の優越性と動物の搾取
     文化の大躍進/動物の家畜化/無慈悲と無関心/ほか
  • 第2章 オオカミ、不意腎炎、ネズミ、害虫 他者を動物として中傷する
     アフリカ人/アメリカ先住民族/フィリピンにおける「インディアン戦争」/ほか

第2部 主人の種、主人の人種

  • 第3章 屠畜の工業化 アメリカからアウシュヴィッツへの道
     植民地における屠畜/豚の町/ユニオン・ストックヤーズ/ほか
  • 第4章 群れの改良 家畜育種からジェノサイドへ
     優生学の誕生/アメリカ育種家協会/アメリカの優生学運動/ほか
  • 第5章 涙の誓いなしに アメリカとドイツにおける殺戮センター
     プロセスの洗練/シュート・漏斗・チューブ/病人・弱者・障害者の処理/ほか

第3部 ホロコーストが反響する

  • 第6章 私たちも同じだった ホロコーストを意識する動物擁護活動家
     精神異常と戦う/サバイバーの声/何か恐ろしいこと/ほか
  • 第7章 この境界なき屠畜場 アイザック・バシェヴィス・シンガーの共感的ビジョン
     十一番目の戒律/アメリカへ/恐ろしい形の娯楽/ほか
  • 第8章 ホロコーストのもうひとつの側面 声なき者のために発言するドイツ人
     チス国防軍からアニマルライツへ/反逆し悲しみにつつまれた/ヒトラーの赤ん坊/ほか

あとがき

原注

引用および参考文献

人名索引

事項索引

著者について

チャールズ・パターソン Charles Patterson

著書に『反ユダヤ主義 ホロコーストへの道とその後』(1982年)、『アニマルライツ』(1993年)、『公民権運動』(1995年)ほか。

戸田清(とだ きよし)

著書に『環境的構成を求めて』、『環境学と平和学』ほか。訳書に『動物の権利』、『動物の解放』、『絶滅のゆくえ』、『生物多様性の危機』、ほか。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『永遠の絶滅収容所』

動物虐待とホロコースト

  • 著:チャールズ・パターソン Charles Patterson
  • 訳:戸田清(とだ きよし)
  • 出版社:緑風出版
  • 発行:2007年
  • NDC:480(動物学)
  • ISBN:9784846107062
  • 396ページ
  • 原書:”Eternal Treblinka : Our Treatment of Animals and the Holocaust” c2002
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:牛、豚、羊、鶏、ほか家畜たち
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