うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻

TVアニメ2026年1月放送開始。

人間を超える知能と、チンパンジーを超える身体能力を併せもつ、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーと、恋人のルーシー。チャーリーの兄弟で同じくヒューマンジーのオメラス。彼らと、彼等をめぐる人々の争い、欲望、陰謀の数々。

生物の「種」とは何か。「種差別」とは何か。世界中で翻訳が進んでいる話題のコミックです。

TVアニメの監督は津田尚克。ダーウィン事変アニメ公式サイト

ストーリー

オメラスに連れ去れたルーシーを必死に探すチャーリーたち。ついにその居場所が判明し、いそいで救出に向かう。チャーリーたちだけではない。警察+FBI勢、ゴードン一味、さらに、賞金狙いの一般市民まで押し寄せる。チャーリーとオメラスの死闘。ルーシーは無事に助け出せるのか?政府にも一般市民にも命を狙われているオメラスの運命は?

 

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻

感想

それにしても、自称「いち活動家にすぎない」第45話「Human Nature」page 80ゴンゾの活躍がすごいです。あのオメラスのパンチを防御してしまうのですから。オメラスは、警察やFBIの武装隊でさえ簡単に壊滅させるほど強く素早く動き、とても並の人間が立ち向かえる相手ではありません。この男、何者?(ゴンゾという名前に、ついゴンベ国立公園=ジェーン・グドールが野生チンパンジーの観察をおこなったところ=を連想しちゃった私です・・)。

 

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻

 

さて。

 

この「巻09」でもっとも重要だと思った台詞は、オメラスとチャーリーのこの会話でしょう。「第45話 Human Nature」で、オメラスはこう言います。

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻

ここでオレは学んだ
人間についてすべてを
人間は、
生まれてすぐ狭いケージに閉じ込められなくていい
体毛を刈られ 体液を絞られなくていい
飢えなくていい
餌を強制されなくていい
実験道具にされなくていい
産んだ子を奪われなくていい
殺されて皿にのせられなくていい
不妊を強いられなくていい
無理矢理交配させられなくていい
その人間の特権を
人間どもに教えるためにここで15年間を耐えてきた

(page 66-68)

これに対してチャーリーはこう答えます。

君が言っているのも”特権”じゃなくて”権利”だと思う
それは割と最近生まれた・・・
まだおぼつかない”コンセプト”だ
現生人類ホモ・サピエンスの30万年のほとんどの期間それは存在しなかったはずだし
いまも十分に実現されていない
人間にとって一番の脅威は人間だから
でもそのか弱いコンセプトを
大事に守りながら広げてきたのも人間だ
それはこの先ヒト以外の種にも広がるかも知れないし
逆にヒトの中ですら狭まるかも知れない
ボクにはわからないけど――
いまはそれを広げてほしいって思ってるよ

(page 69-71)太字は原書では傍点

人類は、ホモ・サピエンシに進化したあとも長い間、飢えに苦しめられてきました。文明が発達した後も、支配下層の人々は簡単に殺されたり、家族や財産を奪われたり、強姦されたり、強制労働させられたりしました。”人権”の概念が、性別や人種や階級を超えて、”人”全体に広がったのは、実はつい最近のことです(アフガン等一部の地域ではいまだ女性の人権はみとめられていませんが)。

「特権」とは、特定の個人や集団のみが享受できる特別な利益や地位のことです。一方、「権利」とは、すべての人が生まれながらに平等に持っているものです。

チャーリーは、オメラスが並べた「人間の特権」は、実は人なら誰でも生まれながらに自然に持っているもの(権利)だといっています。歴史上、一部の「特権をもつ人間に」それはさまたげられてきました。しかし人々は長い時間をかけて、本来の「権利」を人間社会全体に広げてきました。そして、その本来当然なはずの「権利」が、ヒト以外の種にも広がることを願っているとチャーリーはいっています。それらはヒトの「特権」なんかではなく、生物種全体の「権利」なのだから、と。

もっとも、チャーリーは「権利」ではなく「コンセプト」だといっていますけれど。コンセプト、つまり、概念とか、構想、理念、考え方等の意。つまり、人間社会の間でさえ、それは「権利」とは言い得ないほどまだ弱いものに過ぎない、ということでしょうか。(ましてそれがヒト以外の種に広がるのはいつの時代になることやら・・・ため息)

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻
一般人までおしかけてオメラスを殺そうとする

 

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻
サラ・ユアン博士さえオメラスを殺そうとする

 

うめざわしゅん『ダーウィン事変』09巻
チャーリーだけが、オメラスの生存を願う

 

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 第43話 Where Is My Mind?
  • 第44話 ”ホーム”
  • 第45話 Human Nature
  • 第46話 種
  • 第47話 たったひとつの冴えたやり方

著者について

うめざわしゅん

作品集『パンティストッキングのような空の下』が「このマンガがすごい!」2017(宝島社)のオトコ編第4位にランクインし、話題になる。本作『ダーウィン事変』にて「マンガ大賞2022」大賞受賞、第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞、「このマンガがすごい!」2022のオトコ編10位ランクイン、フランスの第50回アングレーム国際漫画祭にてBDGest’Artsアジアセクション賞受賞、フランス・バンドデシネ評論家協会Prix Asie de la Critique ACBD2023受賞など、数々の賞を獲得した。他作に『ユートピアズ』『一匹と九十九匹と』『ピンキーは二度ベルを鳴らす』『えれほん』など。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『ダーウィン事変』09巻

  • 著:うめざわしゅん
  • 出版社:株式会社講談社 アフタヌーンKC
  • 発行:2025年
  • NDC:726(マンガ、絵本)漫画
  • ISBN:9784065394687
  • 159ページ
  • モノクロ
  • 初出:「アフタヌーン」1~5月号
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:-
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