島泰三『アイアイの謎』

島泰三『アイアイの謎』

珍獣アイアイの、詳細な観察レポート。

動物が好きで、生き物の観察記録や研究レポート等を読むのも大好き、なんて人たちには、たまらなく魅力的な一冊。

はい、私もそんな一人です。ですから夢中で読みました。すっごぉい!きゃー、ホントに?あら、うらやまし~!え、そうなの?等々(笑×笑)。

アイアイという動物は、その奇妙な姿等から動物系の番組で時々とりあげられることや、「アイアイ」という童謡(相田裕美作詞・宇野誠一郎作曲、1962年発表)が流行ったことなどから、その名前だけは日本でもよく知られた動物だと思います。

島泰三『アイアイの謎』

 

でもアイアイの詳細、まして野生状態での生態等については、今でもほとんど知られていないといって良いでしょう。

この本はおそらく、アイアイについて書かれた世界で最も正確かつ詳細な一般書だろうと思います。

 

島泰三『アイアイの謎』

 

アイアイは、マダガスカルに生息する、究めて特徴的な動物です。発見当初は、サルの仲間かリスの仲間かで議論が分かれたほどでした。現在は霊長目/原猿亜目/アイアイ下目/アイアイ科/アイアイ属に分類されています。

アイアイで目立つのは、その大きな耳と大きな目、それから何より、奇妙な手の形!体のわりに長すぎるように見える指、その長い指のうち、中指だけが異様に細くて、ナニコレ?どう使うの?

 

島泰三『アイアイの謎』

 

さらに歯もすごく特徴的だったのでした。私もこの本で初めて知りました。原猿なのに、つまりヒトと同じサルの仲間なのに、リスのように伸び続ける前歯!うっそぉ~!?

著者はマダガスカルの原生林に分け入って、野生のアイアイたちを調査します。その困難なこと!真っ暗な森の奥、葉の生い茂るはるか樹上に、ひっそりとたたずむ、小さな黒いサル。まず発見するだけで大変なのです。空振りの夜が何日も続いて、というより、見つけられる日の方が多い。運よく見つけられても、幹の後ろに回られたらもう見失うほど難しい。あまりに困難なので、ある外国人の研究者はアイアイに発信機をつけテレメーターで追跡しようとしたのですが、それでも見つからない。それほど困難な野生動物を著者は自分の目で見つけ観察しつづけたのですから、もう驚異的な根気力です。並の人間にできるコトではありません。

著者の主な観測地のひとつは「ヌシ・マンガベ島」という無人島でした。GoogleMapでの表記は「ノジー・マンガブ(Nosy Mangabe)」となっていますので、そちらで検索した方が見つけやすいでしょう。この面積520ヘクタール、最高標高331メートルという小さな熱帯雨林に、1967年、マダガスカル本土で捕獲された9頭のアイアイが放されました。そのアイアイたちは無事繁殖し、それを著者が観察に行った、というわけです。

と、そこでの保護は成功している・・・ように見えますが、とはいえ、小さな島です。著者の推測では、島にいるメスの数は15頭よりは多いだろうが69頭よりは少ない、とのこと。世界人口が80億を超えたなか日本人口が1億2千万で「少子化だ少子化だ」と大騒ぎしているような人類とは比べようにも比べられない数字です。あまりに少ない数です。

アイアイだけではありません。マダガスカルの自然環境は非常に厳しい状態にあります。もちろん原因は人間です。ジャイアント・アイアイは絶滅しました。著者は、マダガスカルのほぼ全土をアイアイを探して歩きますが、2年間にも渡ったその調査ほどつらい旅はなかったそうです。

脱水症で筋肉溶融症を起こし、腰が抜けるという珍しい経験をしたほどに、各地が砂漠のように感想したたいへんな場所だったけれど、それだけならつらいというほどのことはない。つらいのは、訪ね訪ねて水源の林にたどりついても、そこではいつもいつも決まって、枯死しはじめた林、焼けた林の断片にしか出会えなかった。それがつらかった。
そして、そこにもまだサルたちば生きているのを見るのが、つらかった。数年後にはなくなってしまうのが分かりきっている林にしがみついて、健気に生きている姿を見ることは、つらく悲しかった。
page80

日本では上野動物園でアイアイを見ることが出来ます(2023年1月現在)。あまりにユニークなお猿さん。アイアイをはじめ、マダガスカルの希少動物たちの将来を祈らずにはいられません。

 

島泰三『アイアイの謎』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 1 アイアイの森
  • 2 アイアイの発見
  • 3 彼らの生涯
  • 4 彼らの社会
  • 5 彼らの食性
  • 6 アイアイの保護について
  • あとがき
  • 引用文献

著者について

島泰三(しま たいぞう)

マダガスカル国第5頭勲位「シュバリエ」。房総自然博物館長、雑誌「にほんざる」編集長、日本野生生物研究センター主任研究員、天然記念物ニホンザルの生息地保護管理調査主任調査員、国際協力事業団マダガスカル派遣専門家などを歴任。主要論文に「ニホンザルの分布」、「ヤクシマザルの社会生態学的研究」「Feeding behaviour of the aye-aye on nuts of ramy」、「An ecological and behavioral study of the aye-aye」、「房総丘陵のニホンザルの生態」などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『アイアイの謎』

  • 著:島泰三(しま たいぞう)
  • 出版社:どうぶつ社
  • 発行:2002年
  • NDC:480(動物学)
  • ISBN:9784886223173
  • 175ページ
  • 白黒
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:アイアイ
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