松尾由美『ニャン氏の童心』

松尾由美『ニャン氏の童心』

ニャン氏の事件簿シリーズ2冊目。悩める女性編集者のまわりで不思議な出来事が次々と。

あらすじ

田宮宴(うたげ)は、中堅の出版社「プラタナス書房」の編集者。担当は児童書。最近は児童書の需要が減っているのか、それとも単に会社が力を入れてないだけなのか、かつては複数名の編集者が在籍していたが、いまや宴ひとりだけ。おかげでてんてこ舞いの忙しさ、なんてことは全然なくて、むしろ暇。暇だから、あちこちの雑用に引っ張り出されたりもする。それはそれで、面白い体験もできて、悪くはないのだけど。

その日も、担当外のミステリー作家の自宅へ、原稿をもらいにでかけたのだった。その途中で奇妙な体験をする。人がひとり、煙のように消えてしまったのだ。宴はその顛末をミステリー作家にも話した。作家にも謎は解けない。

しかし、話を聞いただけで、瞬時に解いてしまう者が現れた。童話作家のミーミ・ニャン吉先生の、秘書だ。秘書?いや、説いたのはミーミ先生ご本人らしいが・・・

童話作家ミーミ先生の推理力が光る短編が6編。ところで、童話作家としてのミーミ先生というのはあくまで副業。本業は謎の実業家、アロイシャス・ニャン氏という。そして、そのアロイシャス・ニャン氏(=ミーミ・ニャン吉)の実体は・・・猫!

松尾由美『ニャン氏の童心』

感想

今回もアロイシャス・ニャン氏と秘書の丸山コンビが冴えまくります。どんな謎も、ちらりと聞いただけでたちまち解いてしまう、あまりに猫離れした頭脳のニャン氏。秘書の丸山は、黒いスーツ姿で無表情に猫の通訳に徹します。が、そんなニャン氏にも思わぬ弱点が?思いがけず、あまりに猫っぽい一面も見せたりもして、なんとも楽しいふたりです。

ミーミ先生の作品は人気です。児童書というものは、たとえば大人の視点で「子供はこういうのを喜ぶだろう」なんて書いてもヒットせず、一番よいのが

結局、子供のような心を持った作家が、それを前面に打ち出した本を書き、それを理解できる編集者(親のような心を持っている、というわけではないのだが)がうまくサポートしてできた本、というのが一番いいのではないかと思っている。
page210

なのだが、ミーミ先生は「子供のような心」どころか「猫」なのだから、およそ人間の枠をはるかに凌駕しちゃっているのでしょう。その担当編集者が宴のような、しっかりしているようで子供っぽい女性とくれば、その作品にもますます磨きがかかって当然。中には熱狂的なファンもいるようで、・・・でも、いくら熱狂的ファンでも、そんなことするかなあ?なんて事件もおこったりして。

ミステリーですが、人が殺されたり犯罪組織が暗躍したりというような、重苦しい話はありません。ちょっと不思議なことを見聞きして、なんだろうとおもって、それを猫がサラっと解いていく、心地よいリズムの短篇集です。読んでいて楽しくなるタイプのミステリーです。おすすめ。

ところで、読んでいるうちにある疑問が。もしや新美南吉も猫だった?にゃーんてね =^_^=

※ニャン氏シリーズ

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

ショッピングカート

目次(抜粋)

  • 袋小路の猫探偵
  • 偽りのアプローチ
  • 幸運の星の下に
  • 金栗庵の悲劇
  • 猫探偵と土手の桜
  • ニャン氏のクリスマス

著者について

松尾由美(まつお ゆみ)

1989年『維持g変カフェテラス』を刊行しデビュー。91年「バルーン・タウンの殺人」がハヤカワSFコンテストに入選。主な著作に〈バルーン・タウン〉シリーズ、〈安楽椅子探偵アーチー〉シリーズ、〈ハートブレイク・レストラン〉シリーズ、『雨恋』『九月の恋と出会うまで』『煙とサクランボ』『花束に謎のリボン』『わたしのリミット』『ニャン氏の事件簿』などがある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『ニャン氏の童心』

「ニャン氏の・・・」シリーズ2冊目

  • 著:松尾由美(まつお ゆみ)
  • 出版社:株式会社東京創元社 創元推理文庫
  • 発行:2018年
  • 初出:ミステリーズ!Vol.85(2017年10月)~Vol.90(2018年8月)
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784488439095
  • 243ページ
  • 登場ニャン物:アロイシャス・ニャン(ペンネーム:ミーミ・ニャン吉)
  • 登場動物:-
ショッピングカート

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA