ベリンダ・レシオ『数をかぞえるクマ サーフィンするヤギ』
副題:「動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語」。
動物達のはかり知れぬ能力。その愛情の深さは人類より深く、その知力はしばしば人類にも勝る。なのに、なぜ、人間は動物達をこれほどまでに貶め続けてきたのか?なぜ、動物達の能力に気づかなかったのか?
気づこうとしなかったのだ。彼らとヒトと、なんら違いがないことを知られてしまったら、ヒトにとってはあまりに不都合だったから。
・・・本では、実はそこまで強い言葉では書かれていません。気づかなかったのはあくまで「ヒト目線で」計測なり実験なりをしてきたからだ、とやさしく書かれています。でも、その「ヒト目線」こそ、人類の驕り以外のなにものでもないと、私なんかは思っちゃうんですよね。
たとえば。
動物は「話せるか」。昔の「科学者」たちは、チンパンジー等に「人語」、たとえば英語を人間と同じように発音させようとしてきました。舌も喉も構造が全然違うというのに。もちろん、いくら教えても、彼らは正しい発音で英語をヒト同様に話す、ということはできませんでした。それをみて人類は満足し、「チンパンジーは言葉を持たない、言語を操れるのは人類だけである」と宣言してしまったのです。
が、ごく最近になって、ようやく。
人々は、動物達の立場にたって、その動物の目線から動物達を観察したり、その動物に合った実験方法を考案したりしはじめました。本当に、つい最近のことです。
とたんに、世界が開けました。ようやく、人々は気づき始めました。動物達にも豊かな感性があり、動物達の知性は驚くほど高く、つまり、ヒトと変わらない存在であるということを。
そうなんです。動物達もよく笑い、あるいは悲しみ、また友情を大切にするとわかりました。人の感情を鋭く読み取るだけなく、好きな人が嬉しければ自分も嬉しく、つらそうなら自分もふさぎこんでしまう。←と、これなんかは、動物と暮らしている人なら誰でも当たり前に知っていることなんですけどね。でもなぜか「科学者」たちは公然と、かつ絶対的に「無視」してきたものでした。「ケダモノに共感力なんてあるわけがない。そんなものは無知な民衆の愚かな思い込み、擬人化だ」と。
たとえば、イエネコ。我々の膝で寝ている、もっとも身近な動物の双璧のひとつ、猫。
この猫が「社会的参照」をするかどうか科学的に証明されたのは、にゃんと2015年だというのです。「社会的参照」とは、
共感に似ていて、状況について情報をえるために、そばにいる人や動物の感情のシグナルを読み取ること
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だそうです。実験したのは科学者のイザベッラ・メローラ、36組の猫と飼い主が使われました。
その結果。
これは、(人間なら)幼児や子ども、おとなもするし、犬と類人猿もする。けれども、独立独歩で、どきには冷淡な猫もするというのは驚きだった。
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もう一例。
研究者のモライア・カルヴァンとジェニファー・ヴァンクが行った実験では、一二匹の猫を使って、飼い主の気分や気持ちに合わせて猫が行動を変えるのかどうか調べた。猫は、飼い主がほほえんだり、楽しそうにしたりしているときには愛想よく振舞い、喉をゴロゴロ鳴らし、体をすり寄せて膝によじ登った。ところが、飼い主が眉をひそめたり、けんか腰で話したりすると、それほど愛想がよくなかった。
どちらの実験結果も、決定的とまでは言えないが、猫には共感する能力があることを示している。少なくとも、情動感染のレベルで。
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いやいや、あたりまえでしょ、そんなこと!猫という動物は、実に鋭く人間の感情を読み取り、それを基に状況判断し、的確に行動します。うちの猫たちの例でも、たとえば見知らぬ客が現れれば、レオはまず私を見ました。そして私の反応次第で、その客への対応を変えました。私の友人ならレオも安心して初対面から平気で触らせましたが、よく来る人でも友人とはいえない間柄=宅配の方など=の場合はずっと警戒し、ときには唸ることさえありました。レオだけでなく、どの猫も、私が嫌いな人や警戒する相手からは逃げようとします。多分、多くの飼い主さんが、・・・歴代累計何千万人、もしかしたら何億人という飼い主さんたちが、同様な体験をされてきたことでしょう。
にもかかわらず、いまだに「決定的とまでは言えないが、」なんて断っている著者の姿勢の方が私には理解不能です。
本には、ほかにも様々なエピソードや実験結果が書かれています。オマキザルが公平な扱いを、自分に対してだけでなく、友猿に対しても求めていること。その同じサルたちが、他者を嘘をついたり騙したりすることもあること。生後数日のヒヨコが、足し算や引き算をしていること。ドングリを森に隠すリスたちの、驚くべき記憶力。哺乳類・鳥類だけではありません。アリが道具を使うことや、スカラベが天体図を利用していることなども分かってきました。
私が面白いと思ったことの一つに、それら「事実の実証」に科学者ならぬ一般人も多くかかわるようになってきた、という指摘でした。つまり、SNSです。専門知識も偏見ももたず、つまり純然たる第三者の立場でその事象を見られる一般人が、生き物たちの様子を動画等に撮って日々アップしています。いくら偏見に満ちた「専門家・科学者」でも、そのあまりに膨大な証拠画像を前に、さすがに昔ながらの定説=人間以外の生き物に感情や知性は無い=を唱え続ける事は不可能になったのだとか。にゃはは。
動物好きな方なら誰でも、読んで楽しい本です。動物達をますます身近に感じるようになると思います。文章は平易で、写真も多く、さらっと読めちゃう本ですが、読み終えた後、動物達を見る目が少し違ってくるかもしれない内容です。おすすめです。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
- 序文
- はじめに
- 謝辞
- PARTⅠ 感情
第1章 人間を笑う:ユーモアといたずら
第2章 おしみなく与える:恩返しと強力
ほか - PARTⅡ 知性
第8章 私は誰?:自己意識
第9章 動物とおしゃべりしたい:言語
ほか - 参考文献
- 原注
著者について
ベリンダ・レシオ Belinda Racio
「オーガニック・スパ・マガジン」誌の編集者。動物と社会に関する革新的な研究で米国動物愛護協会賞を受賞。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『数をかぞえるクマ サーフィンするヤギ』
動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語
- 著:ベリンダ・レシオ Belinda Racio
- 訳:中尾ゆかり(なかお ゆかり)
- 出版社:NHK出版
- 発行:2017年
- NDC:480(動物学)
- ISBN:9784140817292
- 246ページ
- カラー
- 原書:”Inside Animal Hearts and Minds; Bears That Count, Boat That Surf, and Other True Stories of Animal Intelligence and Emotion” c2017
- 登場ニャン物:無名
- 登場動物:クマ、ヤギ、ネズミ、カラス、ヒョウモンアザラシ、イヌ、イルカ、オマキザル、ボノボ、ゴリラ、チンパンジー、オウム、フクロウ、ヒヨコ、スカラベ、他多数