井上雅央『女性がやればずんずん進む 決定版!獣害対策』
「男は読むな!」って、どういうこと?
“獣害”対策は先入観が強いと進まない、しかし先入観が強すぎる男が多いと、著者は指摘します。”獣害”に悩む地域住民が集まって対策会議を開くときなども、男だけしか出席しない集落や協議会が多いとか。
「獣害の駆除は女の出る幕とは違うんじゃ!」なんてね。
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そして、著者自身が男性であるにも係らず、頭の固い男どもの批判が続きます。曰く、男は長年の間に、悪いのは動物だ、動物をなんとかするのが対策だっていう思いこみが、行政で何とかしろというほうにも、補助金をつけるほうにもしみついている。曰く、そのため動物をなんとかするための妙なメニューばっかりが推進されるし、メンツが邪魔をしてそれらが間違いだったなんていまさらいえない。曰く、被害をとめるのが目的だったのが、いつの間にか、被害がとまったかどうかはそっちのけwで予算いくら消費するか、柵を何キロ作るか、何匹殺すかというのが目的になってしまっている。(ref:page 16-17)等々と、もうボロクソです(笑)。
でも、上記の著者の意見。私もまったく同感でございます。
私自身、限界集落で農地を耕して暮らしています。野生動物が「出る」どころか、野生動物だらけ、文字通り野生動物達の中で暮らしているような場所。当然、いわゆる”獣害”も多く、選挙のたびに立候補者が主張するのは、誰もかれも「獣害対策を推進します!」ばかり。
そして、男たち。二言目には「駆除」しか言いません。獣相手だけじゃないです。”害虫”も、”雑草”も、なにもかも「殺せ!無くせ!駆除しろ」ばかり。あとは「補助金」。やれやれ、本に書いてある通りだワィ。
女性の柔らか頭こそ見習え
著者は、先入観に惑わされず、新しいことをどんどんやってみようという決断は女性のほうが絶対に上手だと書いています。女性は、男たちのようにメンツにこだわらないし、なんなら上下関係も気にしない。プランターでネギを数株育てているだけの女性であっても、専業農家相手に堂々と「そんな方法じゃダメよ」なんて言ってしまう。言われた方も、女性なら「どうしたらいいの?おしえて」なんて平気で返す。そしてダメ元でもとりあえずやってみる。そういう柔軟性こそ、動物を相手にするときに、もっとも大切な要素だということです。
キーワードは「ひそみ場」と「餌」
「ひそみ場」と「餌」をなくす、それも徹底的になくす、それが動物対策の最重要課題であり、かつ、唯一の方法だと、著者は語ります。
まずは「餌」。これはなにも、畑に実っているおいしそうな野菜だけではありません。人間にとっては収穫する価値もないようなクズ野菜、収穫期をすぎて放置された作物、空き地や空き家に放置された果樹、コンポストの生ごみ、さらに、人間は食べないが動物によってはごちそうとなる樹木や草。人間はそれが生えていることさえ気づかないような、しかしシカたちにとっては栄養豊富な若芽、若葉、蕾、等。
もうひとつの重要事項、「ひそみ場をなくす」こと。ひそみ場、つまり安心して隠れることのできる場所。
ここで著者が何回も強調しているのが、田んぼでも畑でも、防獣柵ギリギリまで作物を植えるなということ。柵からは人間が3人横に並んで歩けるくらいの幅で、なにも植えずにあけて置く。これがとても効果的。
でもこれこそ、なかなかできないことなんですよねえ。作付け面積を減らしたら収穫も減っちゃうと考えるからです。だから皆、防獣柵は自分の田畑の境界線ギリギリに張って、畝もギリギリまで立ててしまうのです。当然、かぼちゃの蔓ももさつま芋の蔓も、柵にからみつき、あるいは柵を超えて外まで伸びてしまいます。動物達に「さあさあ、いらっしゃい」と呼びかけているようなものです。
もし、本気で”獣害”を防ぎたいのなら
ぜひこの本をお読みください。めちゃくちゃ役に立つと思います。専業農家はもちろん、家庭菜園レベルの人にとっても、すばらしい知恵満載です。高額な投資を必要とするようなことは何も書いてありません。防獣柵さえ設置してしまえば、あとはノコギリや植木ばさみや草刈り機があればできるようなことばかりです。
ただし、1か所だけ。柵周辺に除草剤をまくことも良い対策の一つと提案しているのだけは、私としてはいただけません。除草剤って、つまり、草を枯らしてしまう恐ろしい薬。、もちろん、メーカーも政府も安全ですの大合唱ですよ。それでも私は信用できません。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』ではありませんが、自然界に自然に存在しない”毒薬”を撒いた場合、どんな影響を引き起こしてしまうか、我々愚かな人類にはまったく予測不能だと思うのです。もしたとえ、メーカーがいうとおり「無害」だとしても、それはあくまでヒトの大きな体にとっては直接の影響は少ないという意味だけで。土中の虫たち、微生物たち、彼等から栄養をもらっている小さな生物たち、それを捕食するもう少し大きな生物たち、さらにそれを捕食するもっと大きな生物たち。どこでどんな影響がでるか!?土に置かれたものは、水に流れ、風に飛ばされて、最終的には海にたどりつきます。ありとあらゆる成分が海で混ざっていきます。人類にすべてを都合よくコントロールする力なんてないというのに。除草剤は止めましょうよ。地球の生き物たちのために。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
- なぜなぜ?女性なの??まえがきみたいなもの
- 1章 基礎の基礎
1.田畑の害獣なんとかならない?
2.えっ、どうして自分の田畑と集落なの?
ほか - 2章 餌付けは、ひそみ場と餌のセットで進む
1.ひそみ場ってそんなに重要なの?
2.ひそみ場の見つけ方と、餌が何かさえわかればいいわけね!
ほか - 3章 ひそみ場の消し方
1.かくれんぼできなくすればいいって想像はつくんだけどね
2.キクk汁だけでも握力いるのにモミジやマキ、こんなに切れるkじゃなあ?
ほか - 4章 なくせる餌はなくす
1.簡単になくせる餌から教えて下さい
2.その次になくせる餌は?
ほか - 5章 抜本的対策とはまさに…
1.守れる田畑に変えるって女性にもできますか?
2.さっそくだけど、守れる田んぼってどんな田んぼなの?
ほか - 6章 柵も餌付けをやめる手段。「柵さえ張れば」を卒業しよう
1.策ってトタンとかネットとかいろいろあるけど何が一番いいの?
2.不安にさせるだけじゃなくて怖がらせるってできないの?
ほか - 7章 どこまでも広がる地域の元気
1.なんか元気になったし、夢が広がるなあ
誰にでもすぐできるメニューがこんなにあったなんて
ほか - あとがきみたいなもの
著者について
井上雅央(いのうえ まさてる)
著者に、『これならできる獣害対策』『山の畑をサルから守る』『山と田畑をシカから守る』『60歳からの防除作業便利帳』『ハダニ』などがある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『決定版!獣害対策』
女性がやればずんずん進む
- 著:井上雅央(いのうえ まさてる)井上雅央(いのうえ まさてる)
- 出版社:一般社団法人 農山漁村文化協会
- 発行:2014年
- NDC:615(作物栽培. 作物学)
- ISBN:9784540131080
- 148ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:シカ、イノシシ、サル、他