藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

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藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

藤子・F・不二雄[異色短篇集]1『ミノタウロスの皿』収録。

「ドラえもん」他、多数の傑作を世に残した藤子・F・不二雄の作品。1969年に発表された34ページの短編です。

あらすじ

広い宇宙の真ん中を漂う宇宙船。修理不能、乗組員は一名を残し全員死亡、水・食料ともに底をついた。たった一人残った地球人宇宙飛行士は、救助が来るのは23日後と知って絶望する。

藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

が、幸い、すぐ近くに地球型の惑星を見つけて緊急着陸。そこには酸素もあり、住民もいた。地球人と瓜二つで言葉も通じる。それどころか美しい少女までいて男は大喜び。

藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

男は歓待され何不自由ない暮らしを送る。ただひとつ、草や木の実ばかりの粗食にはウンザリだが、「20日もたてば迎えがくるんだ。そしたらうまいビフテキが食える」と我慢する。

藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

が、じきにトンデモナイ事実を知る。なんとこの星の支配者層はウシたちで、ヒトはウシたちの家畜だった。

藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

そして、美しいミノアは、血統の優れた肉用種だという!

男は驚愕し、こんな残虐な風習をやめさせるべく、有力者たちの説得にかかる。ウシたちは忍耐強く話を聞いてはくれるが、

言葉は通じるのに話が通じないという・・・・これは奇妙な恐ろしさだった。
page 175

藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

果たして男は牛たちを説得することができたのか?それとも、美しいミノアは食べられてしまうのか?

感想

地球のヒトとウシの立場が「ほぼ逆転」した世界が描かれています。「ほぼ」と書いたのは、現在の地球で牛たちはあんなに大切に飼われていないからです。ミノアたちは肉用種としていずれ殺されて食べられる、そこは同じなんですけれど、同じなのはほぼそこだけ。その他は、ほぼ、あらゆる面で違っています。

●ミノアたちは自由に暮らしていてどこへも行ける
→日本の酪農場では牛舎で「つなぎ飼い」が7割以上。つなぎ飼いとは、ロープやスタンチョンで動けない様に繋ぎっぱなしで飼育する方式のことです。牛たちは体の向きを変える事さえできません。ただその場で立つか座るか足踏みするかだけの毎日となります。

●ミノアたちが住んでいる家は、自分達で掃除しているのだろうが、広くて清潔。
→日本の酪農はつなぎ飼いが主ですから、広いどころではありませんし、掃除も行き届かず、足元は自分の糞尿でドロドロな時間が多いです(参考:こちら)。

●ミノアたちは家族で暮らしている。
→牛は群れ動物ですが、日本では子牛は産まれ落ちるとすぐ親から引き離され、その後も親や他の子牛たちと仲良く接触する機会もなく、個別飼育されるものがほとんどです。

●ミノアたちは自分達の運命を知っていて、それを喜んで受け入れている
→「文化(洗脳)」に関しては賛否あると思います。しかし、ここでの問題は、地球の牛たちもミノアたちと同じように、自分が殺され食べられることに同意し、かつ、喜んで殺されているかどうか、ということでしょう。人間と牛は(ミノタウルス星と違って)言葉が通じませんから、人には牛の気持ちも分かりません。人間が確実に見て知ることができることは、どの牛も、殺されるとわかれば悲鳴をあげ、必死に抵抗し、涙も流すということです。

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藤子・F・不二雄『ミノタウルスの皿』

私がこの作品を知ったのは、掲示板である方が教えてくださったからでした。衝撃的な作品で「だいぶんいろいろ考えさせられました」とのことでしたが・・・ヴィーガンの中でも「エシカル・ヴィーガン」と言われる人たちは、一年365日、毎日ただの一日とて休むことなく、家畜たちが置かれた状況を考え身を震わせながら生きているんですよね。こんなミノタウルス星のようなやさしい環境ではなく、過酷過ぎる地球の家畜たちの現状を憂いながら。そして、動物解放活動家たちも「地球人の男」と同じ思いを繰り返し味わっているのですよね。言葉は通じるのに話が通じないもどかしさを・・・。

パンチの効いた、最後の1コマ。まさに今日の日本人たちの世情を良く表しているような気がして、さすが藤子・F・不二雄と思いました。

1969年発表ですから、もう半世紀以上も前の作品になります。けれども、今も生きています。むしろ今こそさらに輝く作品となっていると思います。昔のマンガですからコマ割りが細かいく、わずか34ページの短編なのに、その倍くらいの読みでがあります。ぜひお読みください。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • オヤジ・ロック
  • じじぬき
  • 自分会議
  • 間引き
  • 3万3千平米
  • 劇画・オバQ
  • ドジ田ドジ郎の幸運
  • T・Mは絶対に
  • ミノタウロスの皿
  • 一千年後の再会
  • ヒョンヒョロ
  • わが子スーパーマン
  • コロリころげた木の根っ子
  • 解説 北村想

著者について

藤子・F・不二雄

安孫子素雄とコンビを組み、藤子不二雄の名で執筆をしていたが、1988年にコンビを解消。代表作『オバケのQ太郎』、『ドラえもん』、『パーマン』等。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『ミノタウロスの皿』

[異色短篇集]1『ミノタウロスの皿』収録

  • 著:藤子・F・不二雄(ふじこ えふ ふじお)
  • 出版社:(株)小学館 小学館文庫
  • 発行:1995年
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:9784091920614 4091920616
  • 291ページ
  • モノクロ
  • 初出:「ビッグコミック」1969年10月10日号(ミノタウロスの皿)
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:ズン類、ウス
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