池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

 

『山古志村で被災したペットたちの物語』。

2004年10月23日、新潟県中越地方を震源とする大地震が発生した。
川口町、震度7。小千谷市、山古志村、十日町市、震度6強。
犠牲者67名、負傷者約5千名、避難者約10万人、損壊家屋約12万棟。

陸の孤島となった山古志村(現長岡市山古志)は、全村避難指示が発令された。
険しい山に囲まれた村、道路も電線も何もかも寸断され、ヘリコプターしか移送手段が無い。

人間だけが、自衛隊のヘリコプターに乗りこんだ。
動物たちは、猫も犬も全員、置き去りにされた。

けれども、完全に忘れ去られたわけではなかった。

新潟県は自然災害が多い。
大地震のわずか3か月前には、豪雨に襲われていた。
死者15名、被災家屋1万3千棟という大災害だった。

幸か不幸か、そのときの備蓄品がまだ残っていた。ペットフードやトイレ用品が。

新潟県は、大地震からわずか4日目には「動物救済仮本部」を立ち上げ、職員数名がヘリコプターで山古志村へ向かう。
着地できる平地があれば着地し、無ければ地上1mまで降下して、職員が飛び降りる。
ペットフードを担いで歩き、動物たちを見つけては給餌する。

全国のボランティアたちも動き出した。
こうして、多くのペットたちが救われた。

が。

全員が救われたわけではない。
また、様々な問題や軋轢が生じなかったわけでもない。

この本でも。

誤解を与えかねない書名なので、あえて暴露するが、ハルは無事保護され、動物病院で数ヶ月暮らした後、家族の帰村に先だって山古志村に戻り、そして震災から1年10か月後、家族も村に戻ることができた。
ハルだけは元の生活に戻ることができた。

が、チボはついに見つからなかった。

しばらく生存していた事は確かなのに、結局、行方不明となった。
おそらく冬を越せずにどこかでひっそり死亡したのだろう。

だから正確には、「地震野村で待っていた猫のハルと、消息不明になったチボ」の物語なのである。

なぜネタバレを書くかと言えば、読者の方々に、楽天的妄想は捨てていただきたいからである。
猫は野性味を残した動物だから、外にさえ放てば野良猫となって自力で生きていけるなんて、そんな考えはスッパリ捨てていただきたいからである。

飼い猫は、よほど逞しい子でない限り、置き去りにされたら生きていけない。

緊急時にまず人命第一となるのは当然だし仕方ないけれど、少しでも余裕があるなら、あるいは人間の避難が落ち着いたらただちに、他の小さな命たちをも思いやっていただきたいと切に願う。
いかにも困難とは知しりつつも、そこを無理に、何とかぜひ、どうにかならないものか、どうにかしていただきたいと、憂慮懇願する。

そして、・・・
どれほど困難だろうと、私は絶対に同伴避難してみせるぞ、出来なきゃ一緒に死ぬまでだと、鼻息荒く独り覚悟をあらためたりもする・・・。

この本は、子供向けの本である。
大きな字。
すべての漢字にふりがな。

けれども、大人にこそ、じっくり読んでいただきたい本だと思う。
だって災害時に指揮をとるのは、大人たちなのだから。
そして子供たちは、そんな親たちの背中を見て育つのだから。

(2012.3.21.)

 

池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

残された動物たちを救いに人々が村に入った

池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

救出された幸運な子。
その裏で、救われなかった子が少なからずいたことは忘れてはならない。

帯。「この犬(こ)は、家族も同然なんです。どうか、いっしょに乗せてください」ーーーー泣く泣く犬や猫を残してヘリコプターに乗った飼い主たちは、胸が張り裂けそうでした。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『地震の村で待っていた猫のチボとハル』
山古志村で被災したペットたちの物語

  • 著:池田まき子(いけだ まきこ)
  • 出版社:ハート出版
  • 発行:2007年11月
  • NDC:369(社会福祉)
  • ISBN:9784892955792
  • 157ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:チボ、ハル
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

はじめに
(1)震度七の巨大地震
(2)「全村避難」の山古志村
(3)置き去りにされた動物たち
(4)飼い主たちの悲しみ
(5)動物たちを救え
(6)チボとハルはどこへ
(7)ふるさとの姿を見つめて
(8)動物たちの居場所
(9)保護されたハル
(10)家の裏にたたずむチボ
(11)仮設住宅での暮らし
(12)ハルを村に帰そう
(13)一年十カ月ぶりの帰宅
(14)被災動物が教えてくれたこと
もうひとつの物語「ぼくたち、幸せに暮らしているよ」
おわりに

 

著者について

池田まき子(いけだ まきこ)

秋田県生まれ。雑誌の編集者を経て、1988年留年のためオーストラリアに渡って以来、首都キャンベラ市に在住。フリーランス・ライター。著書に「検疫探知犬クレオとキャンディー」「いのちの鼓動が聞こえる」「出動!災害救助犬トマト」「3日の命を救われた犬ウルフ」「車いすの犬チャンプ」(ハート出版)、「生きるんだ!ラッキー・山火事で生きのこったコアラの物語」(学習研究社)、「アボリジニのむかしばなし」(新読書社)、「花火師の仕事」(無明舎出版)、訳書に「すすにまみれた思い出・家族の絆をもとめて」(金の星社/産経児童出版文化賞推薦)などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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池田まき子『地震の村で待っていた猫のチボとハル』

8.3

動物度

8.5/10

おもしろさ

7.0/10

ウルウル度

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

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