野口卓『猫の椀』

野口卓『猫の椀』

短編集です。舞台は江戸時代。

全部で5作。うち、猫が出てくるのは表題の『猫の椀』だけです。

猫の椀

優れた漆職人の兼七(かねしち)は、良兼(よしかね)老人から、ある仕事を頼まれていた。期限は切らぬ、その代わり、納得のいく最高な品を作ってくれ。

簡単ではなかった。他の仕事もこなさなければならない。兼七が心底納得できる品に仕上がるまで、なんと五年もかかった。ようやく、自信を持って見せられる品にできあがったというのに。

たどり着いた門前で聞かされた言葉は、良兼さんが「亡くなられた」。茫然と立ちすくむ兼七。やっと、やっと、できたのに。

落胆して、静かなところで酒を飲みたいと、ちっぽけな店にはいった。そこで会ったのは、やわらかな女将と「お玉」と名乗る少女・・・

 

江戸時代の一庶民にすぎない兼七の、職人魂が光る作品です。

現代の拝金社会との違いを感じさせる作品でもあります。今の日本って、なにはともあれ、とにかくブランド名的な価値観が強くないですか?「タワーマンション」と呼ばれる高層集合住宅に住み、バッグは○○、財布は△△、食器類は□□で、ワインは¥¥¥¥のよ!なんてのがキャーキャーもてはやされて。

かと思えばミニマリストもあいかわらず流行っているようです。私としましては、物欲・自己顕示欲馬鹿より、ミニマリストのほうが断然好きですけれどね。

 

『猫の椀』は60ページあまりの小品ですが、本当に価値がある物を作り出せる者と、ほんとの価値を理解できる存在との、本当にあるべき関係が、鮮やかに描き出された作品といえると思います。読み終えた後にほわっとした何かが残る小説です。

野口卓『猫の椀』

ほかの作品の紹介

一緒に収録されている他の作品たちをごく簡単に紹介します。

糸遊(かげろう)

まずしい裏長屋で、ふたりは一緒になった。組紐職人の伊奈七とおのぶ。ふたりの夢は、いつか伊那七が独立して自分の店をもつこと。その夢を助けるため、おのぶも働きに出たが、そこで出会ったのが・・・

閻魔堂の見える所で

何をやってもうまくいかない。運がなさすぎる青年佐太が、世をはかなみ、これなら死んだほうがマシだとトボトボたどった山道で出会った山賊。その山賊と佐太の掛け合いがほとんど漫才のように面白い短篇。

えくぼ

邦衛は、親の残した商売を一生懸命守ってきたつもりだった。なのになぜか、急速に商売が傾いて。いよいよダメかと思ったときに現れた救世主。その救世主の征兵衛は、「恩返しですよ」というが、邦衛はその男の顔さえ覚えていない?

幻祭夢譚(まぼろしのまつりゆめものがたり)

栄心は、まだ修行中の僧である。師匠のお使いで、江戸から平泉までの遠路をひとり、細々と歩いていたが、山道は暗く暮れていくばかり、なんとも心細く、人っ子ひとり通らぬ不気味さに、道を間違えたか?そのとき、はるか向こうに小さく灯った、人家の火。やれやれ助かった!・・・と喜ぶが・・・?

※著作権法に配慮し、本の中見の画像にあえてボカシをいれる場合があります。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 猫の椀
  • 糸遊(かげろう)
  • 閻魔堂の見える所で
  • えくぼ
  • 幻祭夢譚(まぼろしのまつりゆめものがたり)
  • 解説 縄田一男

著者について

野口卓(のぐち たく)

平成5年一人芝居「風の民」で第三回菊池寛ドラマ章を受賞。著書に『軍鶏侍』『獺祭 軍鶏侍』『シェイクスピアの魔力』『落語こわい、こわい落語』『落語一日一羽~傑作噺で暮らす一年三百六十六日』ほか多数がある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫の椀』

  • 著:野口卓(のぐち たく)
  • 出版社:祥伝社 祥伝社文庫
  • 発行:2012年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784396337469
  • 304ページ
  • 登場ニャン物:玉
  • 登場動物:-
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