石田祥『猫を処方いたします。』

大抵の悩みは猫で治るもんです。
怪しげなメンタルクリニックで処方されたのは、薬ではなく、猫!?第11回京都本大賞受賞。
ストーリー
『中京こころのびょういん』へ行くには、京都市内特有の、独特すぎる住所表記を解読しなければならない。その住所とは
京都市中京区麩屋町通上ル六角通西入ル富小路通下ル蛸薬師通東入ル
(page 6)
ようやくたどりつくと、そこにあるのは、ただのスキマのように細い路地の奥に建つ、古ぼけた雑居ビル「中京ビルジング」。その五階が、めざす『こころのびょういん』だ。
訪ねてくるのは、人づてにうわさを聞いた患者ばかり。なにしろスマホ検索でも表示できない場所なので。
中に入ると、まず看護師が出てくる。美しく、まだ若そうなのに、かなりくせのある京都特有の訛りで、とっつきにくい。殺風景な診察室にいる医者は、三十歳くらいの、なよっとした優男。妙に軽いかんじ。こんな若造が評判の心療内科医師?
その医者は、ろくに話も聞かずに、猫を処方してきた。
「本物の猫?」
「もちろんですよ。よく効きますよ。昔から猫は百薬の長って言いますからね。ああ、つまりそこらへんの薬よりも、猫のほうがよう効くいう意味ですわ」
(page 14)
あまりに当然とした態度に、患者はとまどう。とまどうあまり、ほぼ反論もできずにおとなしく猫を受取って連れて帰ってしまう。そして、指定された期間――1週間とかせいぜい二週間の短期間――猫と暮らし始める。
こんな怪しげなメンタルクリニックを尋ねるほど追い詰められていた患者たちは、猫で本当に治るのか?
感想
はい!猫は百薬の長です!猫さえいてくれれば、人生のたいていの悩みは乗り越えることができます♡
かのシュバイツァー博士だって仰っているじゃないですか。

「人生には心の避難所が二つある。音楽と猫だ」アルベルト・シュバイツァー
処方された猫たちは何もしません。ただそこにいるだけです。猫らしく甘えたり、ニャーニャー鳴いたり、爪とぎしたりしながら、そこにいるだけです。猫ミステリー小説でよくあるように、人間のために活躍したり、問題解決のヒントを出したりするわけではありません。
それでも。猫と暮らすと、人々はたちまち、治っていきます。長い間笑わなかったのに、猫の愛らしさについ微笑んだり。コチコチに固まっていた頭が猫を見ているうちに溶けだしたり。冷え切っていた人間関係が猫をはさんで会話をはじめたり。
猫薬の効果は、それはもう、抜群なのです。疲れた心に、これ以上の万能薬はないくらいに(=^・^=)
全部で五話。短い中に、ほっこりふんわり、やさしさと愛おしさがつまった話となっています。猫好きさんはもちろん、猫嫌いさんにもお勧めしたい一冊。京都本大賞受賞も納得の内容でした。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

著者について
石田祥(いしだ しょう)
2014年、第9回日本ラブストーリー大賞へ応募した『トマトの先生』が大賞を受賞しデビュー。他の著書に「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』がある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『猫を処方いたします。』
- 著:石田祥(いしだ しょう)
- 出版社:株式会社PHP研究所 PHP文芸文庫
- 発行:2023年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784569902883
- 301ページ
- 初出:(書き下ろし)
- 登場ニャン物:ビー、マルゴ、ブチロク、タンク、タンジェリン、ちーちゃん(千歳)、ミミ太
- 登場動物:
