井上ひさし『吾輩はなめ猫である』
ユーモアたっぷりのエッセイ集。
昔々に読んだ本である。井上ひさし氏の訃報に思い出して、また本棚から引っ張り出した(ご冥福をお祈り申し上げます。)
私のうすらぼんやりとした記憶では、「なめ猫」がもっと出てきたかと思っていたけれど、わずか1章5ページだった。
「なめ猫」とはもちろん、1981年に大流行したキャラクターで、ごく幼い子猫に、学ランやセーラー服を着せて立たせ、写真を撮ったもの。かわいいかわいいと、私の周囲でも大人気だったが、当時から誰よりも猫好きだった私には、全然魅力的に見えなかった。せっかくの子猫なのに、あのポンポコリンなお腹も、アンバランスな体型も、ひょろひょろ細い手足も、パフパフと毛羽だった毛皮も、服の下に隠れて見えない。子猫は全身どこもかしこも可愛いのだ。そのせっかくの可愛さを隠して顔しかみせないならぬいぐるみでよろしいと憤慨した次第だ。
で、井上氏のなめ猫エッセイは、もちろん(?)猫について書かれたものではなくて、「吾輩は猫である」をもじりつつ、猫目線で人間社会を批評したものである。「吾輩は・・・」をもじったものだから、文章も旧仮名遣いだ。この調子で1冊あげてくれれば私なんぞ大喜びしたものを、たった5ページとは物足りないにも程がある。
そして本全体の構成は。
いかにも井上氏らしい本にできあがっている。最初のほうの、『日本亭主図鑑』より抜粋された各編は、平成の今なら女性諸君に袋だたきにされること必須な主張の羅列、もしこれを書いたのが、あの出っ歯で風采の上がらぬ頼りなさそうな井上氏でなかったならば(大変失礼いたしました)、私だってきっと途中で本を放り出しただろう。例の「関白宣言」を歌ったのが、あの細優男のさだまさし氏でなければ決してあんなにウケなかっただろうと同じだ。こんな内容をもし、堂々たる大丈夫が発表したのだったら、当時とて社会的大問題となっていたかもしれない。
が、井上ひさし氏ではね・・・
井上氏の婦人関係には他にも色々ウワサもあって、こんな思考回路の持ち主ならさもありなんとも思うけれど、ほかの部分では井上氏はすばらしいのだから、そこはグッと我慢して、どうせならじっくり読んでやろうじゃないかと、最初から最後までじ~っくりと読む。女性の皆様、もしこの本を読まれるなら、どうぞそのつもりでお読み下さい。
他のエッセイは。
くだらないダジャレオンパレードだったり、あきれるほど細かく調べた結果だったり、井上氏でなければ書けない、または、書かないような内容が多い。好き嫌いがあると思う。故に、井上ひさし初体験の方より、井上ひさしファンの方にお奨めしたい1冊。
(2010.6.7.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『吾輩はなめ猫である』
自選ユーモアエッセイ3
- 著:井上ひさし(いのうえ ひさし)
- 出版社:集英社文庫
- 発行:2001年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4087473570 9784087473575
- 302ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:-
目次(抜粋)
第1章 風吹けば桶屋が…
辞痴/もの集め/男女平等/理屈/家庭裁判所/ほか
第2章 コンチキ・バンバン
「浪曲一代」/「とても不幸な朝が来た」/下戸の屁理屈/東方見聞録/脱線余暇論/ほか
第3章 吾輩はなめ猫である
ピンクビラの文章/ラブホテルのらくがき帳/大学サークルの勧誘文/スポーツ紙の見出し/吾輩はなめ猫である/ほか