石田祥『猫を処方いたします。2』

石田祥『猫を処方いたします。2』

大人気シリーズ第二弾。

「中京こころのびょういん」のニコニコ軽いニケ先生と、きつく無愛想な千歳看護師。今日も、薬ではなく、本物の猫を患者に処方しています。

ストーリー

大学生の女の子は、恋人に別れ話を持ちかけられそうで悩んでいる。妻を亡くした高齢男性は引きこもりってばかりで家族に心配されている。しかもその孫まで引き籠もりの疑惑あり?

さらに、浪人中の若者、同じ大学に3度目の挑戦するべきか悩み中。自分の猫の様子が変で長らく悩んでいる男も。

彼らは皆、人づてに「とてもよいメンタルクリニックがある」と聞いてやってくる。そして薬ではなく猫をあてがうという治療法に困惑する。困惑しつつも、あまりに軽いニケ先生と、あまりにキツい千歳看護師の勢いに押されて、つい猫を連れて帰ってしまう・・・。

感想

猫治療が必要な人にしか見つけられない、不思議なびょういん。狭い暗い路地の行き止まりに細長く建つ、見るからに古い雑居ビルの5階。重そうなドア。なぜか、隣室の入居人は「空き部屋。ドアも鍵がかかっている」といい、実際、彼が押しても開きません。しかし治療が必要な人が押せば、なぜか軽く開きます。そして、中は明るく清潔で、ちゃんと受付や診察室もあります。

第1巻では、話はそれぞれ独立していて、登場人物に関係性はありませんでしたが、今回は4話のうち3話に関係性があります。とはいえ、続けて読まなくてはわからないほどの強い関係ではありません。どの話も読み切りに近い構造です。

そして、どの話でも、猫と接するだけで、患者や家族やその周囲の人たちの硬直状態に変化が生じます。ほんのちょっと見方を変えたり、ほんの少し違う角度から考えたりすることで、あるいは慣れない猫の世話にてんやわんやするだけで、小さなほころびが広がって全体を崩すように、それまで固く詰まっていた思考がほぐされ、どん詰まり状態から脱出できてしまうのです。まさに猫こそ最高の治療薬!猫で治らない人はいない!

とくに最後の話がよかったです。本編もよいのですが、その中に出てくる家族の話もとても良い。幼い男の子と、その両親の話です。家族で保護猫の譲渡会にやってきて、保護猫たちの現状を知り、幼い男の子がどんどん成長していきます。すばらしい(拍手!)。

今の日本では「純血種」とよばれる猫たち、私にいわせれば「商用種」と呼ぶべき猫たちがもてはやされています。とくに目立つのが「折れ耳」のスコティッシュ・フォールドや、「短足」のマンチカン。スコティッシュ・フォールドは骨軟骨異形成症を固定して無理に耳を変形させた猫として海外では強い批判を浴びている猫種ですし、マンチカンも骨軟骨異形成症や関節炎にかかりやすいという問題があります。また、日本の蒸し暑い気候に大型長毛種(ラグドール、ノルウェージャンフォレストキャット、他)は合わないだろうことは、猫嫌いの素人でさえ一目でわかること。その他、商用種(純血種)には数え切れないほどの問題(とくにブリーディングや販売サイドの問題)があり、少しでもその内情を知れば、とても平静ではいられないほどヒドイ、それが日本のペット業界の実情です。

そんな中、あの幼い男の子家族のような人が増えてくれればと、どれほど願わずにはいられないか。物語全体からみれば、とても小さなシーンです。けれども、とびきりに輝いているシーンでもあります。

暖かい小説がお好きな方、猫好きの皆様、ただ本を読んで暇つぶしをしたいだけの方、どなたにも満足できる作品だと思います。おすすめシリーズです。

石田祥『猫を処方いたします。2』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 第一話
  • 第二話
  • 第三話
  • 第四話

著者について

石田祥(いしだ しょう)

2014年、第9回日本ラブストーリー大賞へ応募した『トマトの先生』が大賞を受賞しデビュー。他の著書に「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』がある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫を処方いたします。2』

  • 著:石田祥(いしだ しょう)
  • 出版社:株式会社PHP研究所 PHP文芸文庫
  • 発行:2023年
  • NDC:小説 914.6 小説
  • ISBN:9784569903552
  • 274ページ
  • 初出:書き下ろし
  • 登場ニャン物:虎徹(こてつ)、ノエル、ビビ、みちこさん、ハジメ、シャシャ
  • 登場動物:-
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