オーウェル『動物農場』
人間を追い出し、動物達は、自力で農場をはじめる・・・。
イギリスの片田舎の、とある典型的な農場。
ジョーンズ夫婦が経営する「荘園牧場」では、豚、馬、牛、羊、驢馬、鶏、山羊、犬、猫など、多くの動物たちが飼育され、使役されていた。
老いた雄豚メイジャーが、ある日、その動物達に夢物語を語る。
動物達よ、我々のこの生きざまは何だ?
かつかつの食料、休みのない重労働、卵もミルクも搾取され、用がなくなれば直ちに惨殺される、まさに奴隷の生活!
すべてニンゲンのせいだ。
ニンゲンが悪い。
いつかは、諸悪の根源・ニンゲンを追放し、動物だけの楽園を作ろうではないか。
革命だ!
その「いつか」は、思いがけず早くやってきた。
動物達は偶然の力を借りて、ジョーンズ夫婦と作男たちを追い出し、動物達だけで農場を運営しはじめた。
動物達は、動物の規律を作り、今まで以上に熱心に働いた。
彼等はもう奴隷ではなかった。
誰もが平等だった。
作物は豊かに実り、動物達は幸せだった。
ニンゲンにかわって新しく指導者の地位を得たのは豚たちだった。
豚たちは、抜きんでた知性を示し、たちまち読み書きを覚え、中には計算式を駆使して設計図を書く豚さえあらわれた。
特にナポレオンとスノーボールの二頭が傑出していた。
しかし、両雄並び立たず。
権力闘争がおこり、スノーボールは放逐された。
ナポレオンの独裁がはじまった。
それは、ニンゲン支配時以上の、恐慌政治だった。
・・・
ロシア革命を痛烈に皮肉った不朽の名作。
老豚メイジャーのモデルはレーニン、ナポレオンはスターリン、スノーボールはトロツキーとされる。
またその他の登場動物/人物たちにもそれぞれ、象徴する人物や団体、階級、国家がある。
しかしそれらモデルを抜きに読んでみても、単なるストーリーとしても抜群に面白い。
かく言う私にとっても、ロシア革命は学校の授業でならった歴史にすぎない。
隣国・北朝鮮の方がはるかに興味もあれば実感もある。
その北朝鮮にこの小説を当てはめて読むのも面白い。
よくまあここまで、と感心するほど、現代の北朝鮮がピシャリと予言されている。
読んでいる最中は可笑しくて笑ってしまうのだが、本を置いた後に、じわじわと恐怖がおそってくる。
「支配者」というものに対する恐怖である。
なにも社会主義国家に限ったことではない。
小は家族単位から、大は地球規模まで、支配者は常に被支配者を欺し操り搾取し続けている・・・
さて、猫だが、農場に猫はつきものだから、この小説にも一応は登場するのだけれど、端役のさらに端役的存在に過ぎず、それも、あまり良い役回りではない。
猫はずる賢い怠け者とされ、投票時には対立候補両者に票をいれちゃうし、労役はさぼり、しかし食事時にはちゃっかり現れる。
ちょっと残念な扱われ方ではある。
それでも、犬よりはマシか?
この小説では、犬は、権力者に盲従するだけの、暴力ばかりで知性のカケラもない、動物達の敵とされているのだから。
・・・・・
2011年3月11日、東北関東大震災がおこった。民主党の菅政権の手に余る大災害となった。
4月5日の今(=注:書評執筆時)、民主党と自民党の大連立がひそひそ論議されているようだ。
これほどの規模の災害だから、党を超えた一致団結が必要なのは当然である。
日本人全員が、党派も地域も年齢差も宗派も超えて、それこそ一丸となって復興をめざさなければならない大災害である。
しかし。
どうか、なし崩し的に一党独裁となることだけは避けて欲しい!
これが、こんな時期にこんな本を読んでしまった私の、いちばんの感想だ。
なお、私が持っているのは廉価なペーパーバック版(英語)だけです。
世界が認める名作なだけあって、和訳は各社から出ていますが、どれも読んだことは無いので(すみません)、ネット書店へのリンク先は、私が最も信頼する出版社・岩波書店の版にしておきます。
(2011.4.5.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『動物農場』
おとぎばなし
- 著:ジョージ・オーウェル George Orwell
- 訳:川端康雄
- 出版社:岩波書店 岩波文庫
- 発行:2009年
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:9784003226247
- 原書:”Animal Farm – A Fairy Story” c1945
- 登場ニャン物:(無名)
- 登場動物:豚、ウマ、ロバ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、犬、ニワトリ