竹山道雄『ビルマの竪琴』

竹山道雄『ビルマの竪琴』

 

そのビルマ僧は、水島上等兵なのか?。

2007年9月27日、ミャンマー(旧称ビルマ)で日本人ジャーナリスト長井健司氏が射殺されました。
そのニュースを見て、ふと、昔読んだ「ビルマの竪琴」を再読したくなりました。

やはりこの本は名著でした。
猫は出てきません、登場する生き物は青いインコだけです。
が、話の中でそのインコはとてもうまく使われていますし、何より、とにかく名作だと思うので、紹介させてください。

世界第二次大戦後。
南方で捕虜になっていた日本兵たちが帰国してきました。どの兵隊も、

疲れて、やせて、元気もなくて、いかにも気の毒な様子
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でした。
が、そんな中、大へん元気よくかえってきた一隊がありました。出迎えた人々は驚き、尋ねました

「きみたちはそんなにうれしそうに歌をうたって、何を食べていたのだね」。
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日本中が飢えていた時代ですから、まっさきに食べ物のことを尋ねたのです。

彼らの元気の源は、食事ではなく、音楽でした。二重奏三重奏で複雑な曲を歌うほど、歌が上手だったのです。

その隊にはかつて、水島上等兵という竪琴の名手がいました。
勇敢で、まじめで、目がきれいに澄んだ兵隊でした。

その水島上等兵は、ある重大な任務のため、隊を離れました。隊の兵隊も隊長も、水島上等兵がすぐに戻ってくると信じていましたが、どうしたわけか、いつまで待っても戻ってきません。イギリス軍の捕虜となった彼らには、いくら心配でも、探しに行く自由がありません。

そんな日本兵たちを、ひとりのビルマ僧がじっと見つめているのでした・・・

 

 

この本では、ビルマ人は、理想の国民として描かれています。現在のニュース映像の血なまぐさいミャンマーとは、まったくかけ離れた国となっています。

本の中で、日本兵たちはしばしば議論します。
日本のように、一生に一度は軍服を着る国と、ビルマのように、一生に一度は僧となって袈裟を着る国と、どちらが良いか。

一方は、人間がどこまでも自力をたのんで、すべてを支配していこうとするのです。一方は、人間が我をすてて、人間以上のひろいふかい天地の中にとけこもうとするのです。
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水島上等兵の言葉は日本の未来を予見しているようでドキッとさせられます。

・・・無気力でともすると酔生夢死するということになっては、それだけではよくないことは明らかです。しかし、われわれも気力はありながら、もっと欲がすくなくなるようにつとめなくてはならないのではないでしょうか。それでなくては、ただ日本人ばかりでなく、人間全体が、この先もとうてい救われないのではないでしょうか?
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今の日本人は、残念ながら、水島上等兵の言葉の真逆を進んでしまったような気がしてなりません。気力は無いのに、欲ばかりが異様なまでに増大してしまいました。

この本は子供用に書かれたものですが、どうぞ大人の方も読んでください、いえ、大人こそ読んでください。そして己の生き方を反省してください。昭和22年に発表された小説ですが、今読んでも古くないどころか、ますます新鮮です。

*この話はすべて竹山道雄氏の空想で書かれたものであることは頭にいれて読んでください。竹山氏はビルマに行ったことは無く、ビルマの文化や思想に精通していたわけでもないそうです。それはご自身が後書きでも書かれていることです。そのため、事実とかけ離れた部分が多いようです。しかし、そういう点を差し引いてもなお、文学作品として優れていると、私は思います。

(2007.12.18.)

竹山道雄『ビルマの竪琴』

竹山道雄『ビルマの竪琴』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ビルマの竪琴』

  • 著:竹山道雄(たけやま みちお)
  • 出版社:新潮社 新潮文庫
  • 発行:1959年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4101078017 9784101078014
  • 233ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:青いインコ

 

著者について

竹山道雄(たけやま みちお)

1903-1984。大阪生まれ。評論家、独文学者。東京帝国大学独文科を卒業と同時に一高の講師を務め、後に教授となる。戦前はシュバイツァー、ニーチェ、ゲーテ等の翻訳を手掛けた。1948(昭和23)年「ビルマの竪琴」で、毎日出版文化賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞。’51年からは教授を辞任し、批評を中心とした著作に専念する。『門を入らない人々』『昭和の精神史』『聖書とガス室』等、多数の著書がある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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