ボズワース『帰らざる渡り鳥』
「世界動物文学全集3」収録の作品。
リョコウバト、ドードー、オオウミガラス、モア、日本原産のトキ、それから、エスキモー・コシャクシギ。
これらの鳥類に共通する事とは?
そう、いずれも、人類によって絶滅させられた鳥たちであるということ。
「帰らざる渡り鳥」の主人公は、一羽の(おそらく最後の)雄エスキモー・コシャクシギである。
エスキモー・コシャクシギは、学名Numenius borealis。チドリ目シギ科ダイシャクシギ属に分類される(された)鳥類だ。
「かつて大陸ではもっとも数の多い猟鳥の部類に数えられていた。毎年春と秋に大群をなして銃弾をくぐり、南北への渡りを繰り返した。」
その”渡り”の距離がすごかった。夏をカナダで過ごしたあと、アメリカ大陸を延々と南下し、冬はチリやアルゼンチンで過ごす。地球を縦に約半周である。それを毎年繰り返す。それも数千羽とか数万羽とかという巨大な群れを作って、海を、陸地を、累々と連なって渡っていたのだ。空が暗くなるほどのコシャクシギの群れ。さぞ壮観だっただろう。
しかし人類にとって、それは、動く食物庫にすぎなかった。
「エスキモー・コシャクシギがおびただしい大群をなして、ずっと北部の繁殖地からラブラドル海岸に到着した。(中略)群れはときに数万羽を数えた。(中略)そこに六人から八人のハンターが陣取って、哀れなシギの群れに、つぎつぎ銃弾を浴びせていた。一発ごとにシギは束になって撃ち落とされ・・・(後略)」
一人のハンターがひと朝で数十羽。一日に二千羽も撃ち落とされることがあった。大群で行動し、ヒトをあまり恐れず、しかも、「味はとてもよかった。」絶滅は時間の問題だった。
小説では、一羽のコシャクシギの生活が淡々と語られる。変な擬人化は一切無い。
何年も雌との出会いを待ちわびながら、そして雌を見つけて小躍りしながら、毎回、別種の鳥と知って落胆する雄。それでもめげずに縄張りを主張し、むなしく巣を守る。秋になれば渡りの開始だ。広大な海を渡り、嵐の中も、吹雪の中も、ただひたすら飛んで南下する。飛びつつも雌を探す。いない。季節はあわただしく過ぎ去って、もう北上の時期だ。仲間がいないコシャクシギは、他種の鳥たちを率いて飛ぶ。アンデスの高山を越えるのも大変な苦労だ。そして、これほどの苦労と時間をかけて渡ってきた繁殖地には、しかし、今年も雌はいない・・・
章の合間に、博物館の資料や文献が引用されている。いかに無茶な殺戮がされたか、詳細な資料に、戦慄を覚えずにはいられない。
この作品は発表された当時、海外で「熱狂的な支持を受けた」そうだが、それも当然だと思う。力作である。人類がこのような過ちを二度と侵さないことを願いつつ、・・・しかし、それが不可能な夢であること、今日もまた絶滅した種があるかもしれないことに、どうしようもない無力感を感じる。
(2011.4.15)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『帰らざる渡り鳥』
「世界動物文学全集3」収録
- 著:フレッド・ボズワース Fred Bodsworth
- 訳:藤原英司(ふじわら えいじ)
- 出版社:講談社
- 発行:1979年
- NDC:933(英文学)
- ISBN:(9784061405035)
- 358ページ(うち、『帰らざる渡り鳥』は161-230ページ)
- 原書:”Last of The Curlews” c1954
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:エスキモーコシャクシギ
目次(抜粋)
ライオン
帰らざる渡り鳥
子羊アスカの死の舞踏
ハリック
解説・藤原英司