玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

 

『週刊ビッグコミック・スピリッツ』連載1997年~2000年。

Tenzingさんの推薦で、さっそくお買い上げ。 全巻一気読み。

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

獣医さんのマンガ、といえば、かわいいワンちゃんに愛らしい猫ちゃん、ペット命な飼い主や、無責任な馬鹿飼い主、なんてのが定番かと思いますが。

この『IWAMAL』こと岩丸先生が扱う動物は;

ヒョウ、トラ、アメリカバイソン、アカゲザル、ヒグマにツキノワグマ、アジアゾウにアフリカゾウ、イルカ、オランウータン、シロサイ、カバ、クロコダイルにアリゲーター、その他、その他。

まさに猛獣のオンパレード。T.レックスが混ざっていないのが不思議なくらい。ドバトやカラス、犬なども救いますけれど。

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

その「岩丸先生」、ふだんの生活はいい加減でだらしなく、人付き合いも商売も苦手。野生動物の糞尿を素手でかき混ぜて持ち歩き、くさい「牛糞」を「臭い」でも「ニオイ」でも「におい」でもなく「匂い」と表現する(第7巻 診療譚52「沖縄闘牛物語Ⅰ」p.31)ような、世間一般の常識から見れば、ちょっと困った変わり者である。

しかしこの30代の日本人が、なぜか世界中の、どんな種類のどんな動物にも精通している。荒れ狂う大型獣に平然と立ち向かい、絶望的な怪我や病気を治療してしまう。獣医界のブラックジャック先生?否、ブラックジャック先生のように法外な治療費は請求しないばかりか、しばしば交通費だけで帰ってしまう、まさにスーパドクター。

けれども、この作品。主テーマは、動物の治療ではないと思う。もっと大きなテーマが全体を貫いている。そしてそれは、話が進むほどに、よりクローズアップされていく。最後の方は、動物治療がそっちのけになってしまうほど、太く熱く扱われている。

そのテーマとは、地球の一員としての人間の存在意義、とでもいおうか。

岩丸先生は、なぜそれほどまでして動物を治療するのかと聞かれて、こう答える。

僕は・・・・・・
僕は・・・・・・

・・・・・・
死ぬのが
怖いから・・・・・・

人間が
死んでしまうのが
恐ろしいから・・・・・・
第8巻 診療譚62「像の牙・人間の牙Ⅱ」(p.32)

地球上の生き物は一枚の布だという。一本一本の〝種”という糸によってつむがれた一枚の布。どこかがほころび始めたら、早急に手をうたないと、穴はどんどん広がり、やがて全体に広がってしまう。そうしたら、人間も死に絶えてしまう。

それが恐ろしくてたまらないから、動物を治すのだと、岩丸先生はいう。

人間が生きるために!

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

・・・

ところで、この作品中で一番私の印象に残ったのは、次の言葉だった。アフリカはボツワナの、カバをトーテム(守り神)とする種族の、ひとりの老人の言葉である。

あんた、
助け合うってことを
甘く考えすぎてるよ。

助けるということは
己の肉体や精神、
すべてを相手のために
犠牲にすることだ。

自分の身の安全を
確保して置いて
相手を助けるなんて
そんなのは・・・・・・
余興にすぎん。

己の一生を
捧げ、肉体を
捧げるのだ・・・
第5巻 診療譚39「夢の中のカバ3」(p.129)

私の大嫌いな言葉に、ペットを飼う理由として「癒されるから」というのがある。

現代日本において、犬猫より、ヒトの方が優位に立つ種であることは、現実問題として、誰にも否定できない。その優位種のヒトが、弱位者である犬猫等に「癒し」を求めるなんて、とんでもなく身勝手で甘ったれた思考と思えてならないのである。

もちろん、猫といれば癒されますよ。これ以上に癒してくれる存在なんてありえないほどに癒されますよ。

けれども、それは、あくまで、単なる「結果」。断じて「理由」や「目的」とすべきではない。それを理由や目的とすることは、親が子供を育てる理由や目的として「自分たちの老後を世話させるため」とするのと同じくらい間違えていると、私は思う。

猫でも犬でも、動物をペット(伴侶動物)として飼うなら、その子をできる限り幸せにしてあげる、それが本来の「目的」ではないのか?大切なのはその動物が癒されることであって、人間が癒されるかどうかはまったく関係無いはずではないか?(結果的にはめちゃくちゃ癒されちゃいますけれど)。

自分自身が癒されることを前提に、動物の世話をするなんて、甘すぎる。 もし動物を助けるならば、自分自身の命を削る覚悟で挑まなければならない。

なぁんて・・・好き勝手書いちゃいましたが。

このマンガ、とてもお勧めです。

(2015.2.17.)

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』
全9巻&番外編

  • 著:玉井雪雄
  • 出版社:小学館
  • 発行:1998年(第1巻)~
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:4091850111 9784091850119(第1巻)
  • 登場ニャン物:ハル、ニャジ(以上猫)、虎丸(トラ)、ルイジ(ユキヒョウ)、無名(ピューマ)
  • 登場動物:バッファロー、馬、アカゲザル、ツキノワグマ、その他多数

 


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玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』

8.9

動物度

9.5/10

面白さ

9.0/10

猫活躍度

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

玉井雪雄『IWAMAL -岩丸動物診療譚-』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:Tenzing様】

    「動物を飼うということがどういうことだかわかっていますか?」

    「それは、あなたが最大限の努力をしてその命を守るということです。

    つまり、あなたの命を削って与えるというこということなんですよ。

    あなたの人生の何分の一かを与えることができますか?」

    隠れた名作獣医漫画と名高い玉井雪雄・著「IWAMAL -岩丸動物診療譚-」全9巻&番外編。

    普段はいい加減、でも動物を前に見せる医術は超一級の岩丸獣医。
    身近なペット問題だけでなく、地球環境問題から動物に関する社会問題までテーマが幅広く、また話も起承転結がしっかりしていて一気に読ませてくれます。

    治療する動物たちは身近な犬猫からアメリカンバッファローやイルカまで多種多様!
    そんな動物たちの絵が非常に上手で、治療シーンは見ごたえ十分!!

    一本筋の通った岩丸先生が、いい加減な飼い主や悪徳ペット業界、密猟者どもにカツを入れつつ動物たちを救うシーンは見もの。

    動物が病気になったりケガしたり死に別れたりするシリアスなシーンがものすごく苦手な私ですが、この獣医漫画だけは何度も何度も読み返してしまいます。
    つらいこと、腹立たしいこと、悲しく厳しい現実を描いた話もありますが、必ずどこかに救いがある、希望と動物愛に溢れた力強い動物漫画です。

    多彩過ぎる岩丸先生の活躍をぜひ大人買いして見てみてください。 電子書籍化もされてます!青年・大人向けのスピリッツコミックスですが、命とは何かを考える上でとても分かりやすく救いのある作品になっていますので、子どもさんにもぜひ読んでほしい漫画です。 性描写は一切ありませんが、暴力シーン(鉄拳制裁の岩丸パンチ含む)、猟銃で動物を殺すシーンはちょくちょく出てきます。

    (2015.2.12.)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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