クラークソン『ハリック』灰色アザラシの物語

「世界動物文学全集3」収録の作品。
1頭のハイイロアザラシが生まれてから、一人前になるまでの物語。
イギリス近海の島で、そのハイイロアザラシは生まれた。男の子で、名前はハリック。
その海岸ではアザラシの子が5頭生まれていた。が、ある程度まで育ったのは3頭だけだった。せまい浜で、すぐ後ろは断崖だった。
ある日、嵐が浜を襲い、まだ幼いハリックは波にさらわれてしまう。
ハリックの生存のための大冒険が始まる。
初めて自分でとった餌。ほかのアザラシたち。強大な捕食者たち。漂流。人間と銃。性の芽生え。雄として戦い。
ストーリーは終始ハリックの冒険談なのだが、その根底にずっと流れ続けているのは、自然保護の思想だ。
乱獲や、自然破壊。あちこちに、それとなく、あるいは露骨に、人類の愚挙が述べられる。ハリックも銃で撃たれたり、銛で狙われたり。アザラシたちは数を減らしていたので、法律では保護動物となっていた。が、人間はアザラシを憎む。漁師たちは、アザラシが網を破ると怒る。他の男たちは、単なる征服欲や、さらには根拠のない憎悪により、アザラシに狙いを定める。さらにタンカーの転覆による重油流失などが、海の生き物たちを苦しめる。
性悪な密猟者は天の裁きを受けたりもするけれど。
・・・・2002年、多摩川にアゴヒゲアザラシの個体が迷い込み、1年以上も関東の川に居ついた。「タマちゃん」と名付けられ、横浜市から住民票を送られるなど人気者となった。
しかし、アザラシと人間の関係は、常にこんなに平和とは限らない。むしろ逆だ。世界中でアザラシは殺されてきた。日本でも、・・・アザラシではないが、かつて日本周辺の海には「ニホンアシカ」が生息していた。明治時代まで数万頭が日本近海にいたといわれる。
が、1950年頃、絶滅した。原因はもちろん、人間である。肉用、毛皮用、また魚網を破る害獣として。
そして、今も・・・。
ネット上で、カナダのアザラシ猟に対する反対署名が募られている。カナダでは、年間30万頭という大量のアザラシが殺戮されているそうだ。毛皮をとる目的で。
狙われるのは、産毛が抜けたばかりの生後数週間から数ヶ月の幼いアザラシたち。毛皮をよりよい状態で確保するため、銃ではなく、金属が先端についた棒で殴り殺される。まるで「スイカを割るように」。
そして、
「現状は頭を叩き割られ半殺しのまま何時間も鼻や口から血を吐きながらもがき苦しむアザラシたちも数多くおり、また、気絶した状態を死亡したものと勘違いされ、まだ意識の残った痛みや恐怖の感情の残った状態で皮を剥がされるアザラシたちも毎年多数確認されています。」(引用:http://sora.ne.jp/seal/index.html)
ハリックの物語が書かれて40年。まだ人類は学習できずにいるのか。生物の多様性を守るということは、単なる感情論ではない。さまざまな生物がいるからこそ、我々人類も生存できるのだ。 ひとつの生物が絶滅するたびに、我々人類も滅亡へ近づくのだ。
少なくとも、日本の大都会の真ん中で、毛皮を着る必要は無い!
(2011.4.20.)

世界動物文学全集3 箱入り、中の本は布張りです。

2段構えの構成です
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ハリック』灰色アザラシの物語
「世界動物文学全集3」収録
- 著:エイワン・クラークソン Ewan Clarkson
- 訳:藤原英司(ふじわら えいじ)
- 出版社:講談社
- 発行:1979年
- NDC:933(英文学)
- ISBN:(9784061405035)
- 358ページ(うち、『子羊アスカの死の舞踏』は231-242ページ)
- 原書:”Halic : The story of a gray seal” c1970
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:アザラシ、その他
目次(抜粋)
ライオン
帰らざる渡り鳥
子羊アスカの死の舞踏
ハリック
解説・藤原英司