ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

井上太一訳。副題:真の非暴力へ、《軍事-動物産業》複合体に立ち向かう 

(前略)軍事という人間の営為は人間以外の生きものを、人間以上に苦しめる。(中略)最大の被害者は彼等であり、戦争が起これば我々はどのような立場の人間であれ加害者になる(後略)
「訳者あとがきに代えて」より page261

私は、ロシアがウクライナに侵攻して以来、Twitterにアカウントを作って、1日1回だけだが毎日欠かさずツイートしている。内容はずっと同じ。「NO WAR」の文字と動物写真が1枚。それと #戦争反対 #NoWar 等のハッシュタグ。

そんな、どうしようもないアカウントだけど、開設当初=戦争開始直後は、毎日300~400以上のアクセスがあった。それが戦争が長引くとみるみる減って、1年たった今は1日30アクセス程度。

アクセス目的のツイッターではないから私の数字はどうでもよいけれど、このアクセス減少こそ人々の戦争に対する無関心ぶりを如実に表していて、そこが非常に残念だ。どうしてみんな、そんなに無関心でいられるの?戦争ほど馬鹿らしく且つ恐ろしい行為はないというのに。

この本は、人間が戦争をすることで苦しめられる動物たちに焦点を絞って書かれている。戦争論の視点としてはちょっと珍しいのではないかと思う。けれども、ウクライナの惨状を見るにつけ、こういう事も知っておかなければならないと購入した。

ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

 

読み終えるのにひどく時間がかかってしまった。難しいからではない。苦しくて。今もウクライナでは、いや、平和な国々でも軍事訓練や実験動物という名のもとで苦しんでいる動物たちがどれほどいるかと思うと。

最初の《序章》。これはいかにも難しげな論調で、文章も堅苦しく、正直、とっつきにくかった。でも内容的にはそれほどすごいことを言っているとも思えず(汗)。もっと平易な文章で誰にでもわかりやすく書いてくれたら、もっと賛同者も得られるだろうにと残念に思ったほど。

その後の各章はずっと読みやすい文章だった。まずは、戦争に駆り出される動物たち。象は、かつては、砲弾を積んだ戦車のような効果があった。馬は戦場では欠かせない動物だった。マシンガンや戦車が登場したあとでさえ、騎兵隊は存続しつづけ、たとえば1918年のフランス・モレイユの森の戦いでは、「カナダのストラスコーナ卿騎兵連隊がマシンガンを配置したドイツ軍陣地への突撃を命じられた。」その後騎兵の役割は後退したものの、牽引動物として馬は利用され続ける。ラクダ、ロバ、ラバも使用された。犠牲になった数も膨大で、たとえば南北戦争では馬100万頭以上が殺されたといわれている。

ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

 

軍用犬も多用された。隠れた敵の存在を嗅ぎつけて味方に知らせるだけではない。攻撃力としても積極的に利用されたし、荷物を引かされたりもし、さらに、例えば軍事車両の下に潜り込んで自爆させるなどの利用法もあった。そして軍用犬は、敵地から撤退するときは、殺されるか置き去りにされるのが常だった。連れて帰られることは稀だった。

鳩も重要な存在だった。通信技術が現在のように発達する以前は、伝書バトこそ最速な通信手段であり続けたからだ。そのため、何万羽もの伝書バト達が軍に飼育され、戦争となれば同行し、そして、通信妨害のために、無数の鳩たちが――伝書バトたちと、その数倍の一般のハトたちが――殺された。

海ではイルカたちが訓練された。濁った水の中での人命救助が目的ならまだ良い。軍が使えば自爆装置に過ぎない。

それからもちろん、環境破壊。爆弾等で直接的に破壊されるはもちろん、陸に爆撃音が鳴り響き空に軍用機が飛び回るだけで、そこの自然は破壊的なダメージを受けてしまう。敵が隠れられないようにと森林が焼き払われることもある。枯葉剤等の薬品散布は何世代にも渡り悪影響をおよぼす。

では平時や戦争をしていない国なら安心かというと、残念ながらそうもいかない。たとえば、生きたブタに繰りかえしナイフを突き立てて切り刻む訓練なんてものがある。兵士たちがいざ本戦で躊躇なく戦えるよう、殺戮に馴れるためだそうだ。あるいは、生きた動物の手足を撃ち、あるいは体の一部を吹き飛ばしたあと、その治療をする訓練なんてものもある。戦場で仲間を救うための練習だそうだ。動物実験に使われる動物達の数は、そのような「訓練」に使われる動物達よりさらに多い。しかも軍事関連のものは決して公表されず、全て秘密裡に行われることが多い。つまり、実体の把握さえほとんど不可能。

ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

 

読めば読むほど、落ち込む内容ばかり。苦痛すぎてなかなか読み終えられなかったという気持ちも分かっていただけると思う。

でも、これが、これこそが、戦争の真実なのだ。戦争の愚かしさ、戦争の残酷さ、戦争の無意味さ。やはり、何のどこをどう考えたって、私は戦争という行為は許せない。絶対に。訪問者の皆さまも、頑張って読んでほしい一冊だと思う。読むのはつらいけど、もし戦争なんか始まろうものなら、比べ物にならないほど苦しく辛いことだらけになるのだ。戦争を回避するためには、戦争のむごたらしさをしっかりと知って、その上で反対するしかない。

なお、訳者の井上太一氏による「日本軍国文化考―――訳者あとがきに代えて」も面白かった。とくに以下の文章。

思うに戦後日本の自然破壊は、米英に髷を着られた武人らが、その敗戦コンプレックスを物言わぬ自然につぶけた結果でもあるのではないか。乱開発は侵略戦争の代用品になり「ブナ征伐」が行われた。虫という虫は「農林害虫」「都市害虫」もしくは「不快害虫」として根絶される羽目に陥った。人間に害をなす動物、害をなす可能性がある動物は「害獣」として成敗される習わしとなった。「勧善懲悪という言葉が好きで、その考え方が教条的にインプットされているから、悪いやつは退治しなければならず、そのことによって世の中は明るくなると信じられているかのようである。その思想が、近年悪玉動物に対してどんどん加速度を増していっている」(可合、1995)。こうした例に表れている通り、現代日本人が自然に対してとる態度には、どこか言い知れぬ嫌悪と憎悪、さらには支配欲が見て取れる。(中略)民は自然界に善悪の観念を持ち込み、野生生物を「敵」とみなし、その駆逐を幸福と繁栄に到る手段と信じるまでになった。
page258

こういう視点から自然破壊をみたことは今までなかったけれど、そういわれてみればそうかもしれない。なぜ日本人は野生動物が人間の暮らす横を歩いただけであんなに大騒ぎする?すぐ駆除だ殺せとなる?シカの一頭や二頭、市街地の河原にいたって、どうってことないのに。

この地球は人間だけのものではないし、人間だけしかいなくなったら、その人間もたちまち滅びるしかない。もっと地球を大事にしなければならない。それには、まず、戦争や紛争なんて愚かなものは即刻止めること!!

ノチェッラ二世他編『動物と戦争』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

ショッピングカート

目次(抜粋)

  • 日本の軍事、自然の驚異ーー訳者はしがきに代えて
  • 叢書『批判的動物研究、理論、教育、方法論』監修者のことば
  • 『動物と戦争』書評/献辞/緒言/はじめに/謝辞
  • 序章 《軍事ー動物産業》複合体(コリン・ソルター)
    産業複合体/人間至上主義/人間以外の動物と戦争/困難に立ち向かう
  • 第一章 戦の乗り物と化した動物たち(ジョン・ソレンソン)
  • 第二章 動物達の前線(ジャスティン・R・グッドマン、シェイリン・G・ガラ、イアン・E・スミス)
    「生体組織訓練」/化学負傷訓練/気管内挿管訓練/人間以外の動物に対する傷害、殺害行為が持つ社会的機能/人間以外の動物の殺害を容易にする
  • 第三章 兵器にされる人間以外の動物たち(アナ・パウリナ・モロン)
     先史時代、有史以前/古代/中世/近世/近代
  • 第四章 戦争ーー動物達の被害(ジュリー・アンジェイェフスキ)
     隠蔽と支配権力/秘密主義と検閲/動物の抑圧/現代の戦争のどのような中心要素が動物に長期影響を及ぼすのか/環境戦術(爆発兵器、化学兵器、生物兵器、放射能兵器、環境改変兵器)は動物にどのような長期影響を及ぼすのか/特定集団の動物は戦争の余波によってどのような影響を被るのか/戦争活動のあおりを受ける中、動物はどのような選択肢を持っているのか/どちらが答えか──社会運動VS根本解決
  • 第五章 戦地の動物(ラジモハン・ラマナタピッライ)
     動物は平等以上/飼い馴らし──動物の新たな地位の発達/戦地の動物/馬の運命/ゲリラ戦術と野生/結論
     断片をつなぎ合わせて/軍内部の研究/大衆メディア、娯楽作品からの着想/結論
  • 第六章 戦争と動物、その未来(ビル・ハミルトン、エリオット・M・カッツ)
  • 終章 動物研究、平和研究の批判的検討──全ての戦争を終わらせるために(アントニー・J・ノチェッラ二世)
    人間以外の動物との戦い/人間の戦争は全生命に影響する/エコテロリズムとの戦い/エコテロリズムに対する緑の犯罪学の見方/変革と戦争放棄
  • 日本軍国文化考――訳者あとがきに代えて
  • 参考文献一覧
  • 総索引
  • 執筆者紹介/編者紹介

著者について

アントニー・J・ノチェッラ二世 Anthony J. Nocella II

米・ハムライン大学教育学部客員教授を務める著名な教育者、執筆家、平和活動家。

井上太一(いのうえ たいち)

主な関心領域は動植物倫理、環境問題。訳書にダニエル・インホフ編『動物工場ー集約畜産場CAFOの悲劇』など。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『動物と戦争』

真の非暴力へ、《軍事-動物産業》複合体に立ち向かう

  • 編:アントニー・J・ノチェッラ二世 Anthony J. Nocella II、コリン・ソルター Colin Salter、 ジュディー・K・C・ベントリー Judy K.C. Bentley
  • 訳:井上太一(いのうえ たいち)
  • 出版社:株式会社新評論
  • 発行:2015年
  • NDC:480(動物学)
  • ISBN:9784794810212
  • 306ページ
  • モノクロ
  • 原書:”Animals and War-Confronting the Military-Animal Industrial Complex”
  • 登場ニャン物:無名の猫たち
  • 登場動物:犬、馬、象、ラクダ、ロバ、イルカ、ウサギ、他多種多数
ショッピングカート

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA