林くりお『タヌキとつきあうための11章』

林くりお『タヌキとつきあうための11章』

「ふるさとの動物たち たぬきの本①」シリーズ

昔話・童話でおなじみの動物、タヌキ。どんな動物?人間達とどのように付き合ってきた?

かつて、タヌキは日本人にとってもっとも身近な動物のひとつだったのに

最初に、現代はタヌキとはすっかり縁遠い生活になってしまったと、著者はなげます。そして、

とりあえず、無力なボクは、ひたすら願うことにしよう。タヌキと共にある生活が、再びボクらの元に戻る日が来ることを。
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この文章を読んで、「ごめんなさいねぇ、わたくし、今もタヌキと密接に暮らしているのでございますのよ、ウフフ」と優越感に浸れる私って、本当に恵まれている!そうです、私の身の回りにはタヌキがいっぱい、これぞ田舎暮らしの醍醐味です。そしてだからこそ、タヌキについてもっと知りたくて、タヌキ本を探しては購入しているわけでして。

著者はタヌキ研究者でも動物学者でもありません。資料を集めまくってこの本を書かれています(それを研究者とか学者とかいうのではないかという話もあるでしょうが。)頭の固い学者が書く本と違い、著者の文章は軽妙で、心地よいテンポで読み進めることができます。タヌキと無縁になってしまった都会人も、タヌキに囲まれて暮らしている私のような田舎人も、楽しく読む事ができる本となっています。

以下、私が面白いと思ったエピソードを少しだけ紹介。

狸(タヌキ)=貉(ムジナ)!?

第1章は、おなじみの話題、「タヌキ・ムジナ・アナグマ」の区別について。

これは日本のタヌキ本にはたいてい書いてありますね。日本では長らく「タヌキ・ムジナ・アナグマ」は一緒くたにされてきましたから。でもふつうの本は生物学上の違い、よくて簡単な歴史を書いてあるだけです。

しかしこの本によれば、大正一三年、大審院(今の最高裁判所)でなんと「狸と貉は同じものである」という判決が下されたそうな!しかもそのそれ、七人の判事が専門学者を呼んで意見を聞いた結果だとか。

タヌキとアナグマ、大きさや食性は似ているものの、見慣れれば誰だってまったくの別種とわかる動物です。それもそのはず、タヌキはイヌ科でアナグマはイタチ科。とくに足先の形がぜんぜん違います。タヌキは趾行性(指行性とも。足指だけを地面につけて歩く。イヌ、ネコ、キツネ、等)で、アナグマは蹠行性(あしのうら全部を地面につけて歩く。クマ、イタチ、ヒト、等)。

でも、かつての日本では地域によってムジナ=タヌキだったりアナグマだったり、ときには両者ひっくるめてムジナと呼んだりと、ずいぶんいい加減な分類だったんですよね。

で、最高裁判所さえ、両者を同一視って、どんな専門家?

タヌキの毛皮と足

タヌキの毛皮は、野生動物の中で、トナカイの冬毛についで防寒力があるそうです。とくに北海道産のタヌキ毛皮の保温力については動物界でも抜きんでているとか。なのに。足裏の肉球は丸出しの裸で、足指も開きません。これでは足が冷たいだけでなく、雪にズブズブに潜り込んでしまい、足の短いタヌキは雪の日は苦労して全身ラッセルしなければなりません。

その点、キタキツネの足裏はフェルト状の厚い毛で包まれ、指も大きく開きます。防寒靴をはいた上にカンジキをつけているようなものですから、雪上を身軽に移動できます。

あれほど立派な防寒毛皮を着ながら、足はサンダル履きのままのようなタヌキ。こういう、どこかドジなところが、またタヌキの最大の魅力でもあります。タヌキが古来から日本人に愛されてきた理由もわかる気がしますね。

なお、「たぬきの本①」が面白かったので「たぬきの本② タヌキに化かされないための11章」もぜひ欲しいところですが、残念ながら今は入手不可能で、電子書籍にもなっていません。中古本ででてくるのを気長に待ちます。

林くりお『タヌキとつきあうための11章』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • なぜ、今タヌキなのか 薬につながれた犬と自由なタヌキの比較
  • 第1章 タヌキとムジナ 同じ穴のムジナの迷惑
  • 第2章 ルーツを知る 無責任な命名と、ゴルフ場のこと
  • 第3章 たぬきを食べる たぬきの料理法と民間薬
  • 第4章 たぬきが食べる タヌキの胃袋から見た環境汚染
  • 第5章 ライフスタイルを知る タヌキの生活と飼い犬の生活の比較
  • 第6章 狸寝入りにみるタヌキの性格 木登りタヌキと光子博士のこと
  • 第7章 八畳敷とイマジネーション うわさのはじまり
  • 第8章 捕らぬ狸の皮算用 とびっきり大きな夢を!
  • 第9章 毛皮とアニマル・ライト 迷信と実験動物のこと
  • 第10章 コックリさんと自己啓発 コックリさんの正しい遊び方
  • 第11章 たぬきを歌う そして、ボクの夢

『タヌキとつきあうための11章』

ふるさとの動物たち たぬきの本①

  • 著:林くりお(はやし くりお)
  • 出版社:株式会社 三省堂書店
  • 発行:1990年
  • NDC:489.56(動物学)タヌキ
  • ISBN:487701554x 9784877015541
  • 202ページ
  • モノクロイラスト
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:タヌキ
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※うちの庭にきたタヌキ兄弟。詳細はこちら

実はこのタヌキ兄弟、ヒゼンダニによる疥癬症に犯されていました。タヌキが疥癬症に犯されやすい理由は、あまりに毛皮が立派なのでヒゼンダニにさえ好まれるからでしょうか?こちらが治療前の憐れな姿↓

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