森見登美彦『有頂天家族』
京都市内には、今でも狸が大勢!
それも、動物園で見るような、平凡なタヌキじゃない。変化自由、人語も操り、人に交じって仕事も遊びもする。なんせ京の都は実は
平家物語において、ミヤコ狭しと暴れ廻る武士や貴族や僧侶のうち、三分の一は狐であって、もう三分の一は狸である。残る三分の一は狸が一人二役で演じたそうだ。
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・・・と、いうのは、流石に狸長老の大法螺だそうだが、そこまでいかなくとも、今日もなお、洛中には大勢の狸たちがくらしている。驚くほど大勢の狸たちが、人に交じって、人にバレずに暮らしている。
狸だけじゃない。
王城の地を覆う天界は、古来、もうひとつの生物の縄張りでもあった。
天狗である。
洛中にも、その周辺にも、今なお、天狗たちが生息している。その天狗的威厳を発揮して下界へ遍く唾をはきつつ、しかし思いのほか平和に人間と共存している。
この小説は、そんな狸たちの側から書かれた小説である。
主人公は、下鴨矢三郎。4人(4匹)兄弟の三男だ。父狸は「偽右衛門」に選ばれ、狸界の長を立派に勤めていたが、人間につかまり狸鍋にされた。以来、洛中の狸界は派閥争いにあけくれている。狸の世界だって、そう平和ではいられないのである。
ほかのおもな登場人(?)物は;
まずは、赤玉先生。本名は如意ケ嶽薬師坊という。由緒正しき天狗で、狸たちの先生でもあった。が、今は見る影もなく落ちぶれて、ボロアパートの四畳半で「赤玉ポートワイン」を飲むばかり。
もう一人は、弁天と呼ばれる美女。れっきとした人間の生まれなのに、赤玉先生の弟子となり、自在に天空を飛翔する神通力まで身に着けてしった。天狗の赤玉先生より、今やよほど天狗っぽい。性格も自由気ままで、天狗も狸も人間の男をも、ひらりひらりともてあそぶ。
矢三郎の天敵は、夷川一族である。夷川早雲と、出来損ないの息子たち、金閣・銀閣は、ことあるごとに矢三郎たちに絡んでくる。早雲は次期「偽右衛門」の座を、下鴨家の長男・矢一郎と争っていた。
京の都を、狸たち・天狗たち・天狗のような美女・狸鍋を喰いたい人間たちが、縦横無尽に駆け回る。狸たちの壮絶な化かし合い、天狗たちのちょっかい、恐るべき「金曜倶楽部」の存在、これでもかの大騒動、愛あり、姦計あり、ロマンあり、阿呆あり、もうハチャメチャな大ファンタジー!
荒唐無稽×抱腹絶倒!
しばしば人間をも凌ぐ能力を見せながら、狸たちはどこか抜けてて可愛いし。天狗の爺さんはどーしようもない頑固ジジイだし。ひとり自由気ままで楽しそうな、美女弁天は小気味よいし。ついでに、舞台は京都で著者も関西の出身ながら、登場人物は全員標準語だし!(実は私、今でこそ関西在住だけど、もとは関東出身、未だに標準語の方が読みやすくてよいのです☆)
最初から最後までどんちゃん騒ぎ、息もつかせぬ空騒ぎ、したい放題の乱暴狼藉、「面白きことは良きことなり!」。
どうぞお楽しみください。
残念ながら猫は、金閣・銀閣が化けた化け猫くらいしかでてきませんが、猫が出なくても十分おもしろいにゃりよ!
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『有頂天家族』
- 著:森見登美彦(もりみ とみひこ)
- 出版社:株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫
- 発行:2010年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784344415263
- 423ページ
- 登場ニャン物:ー
- 登場動物:狸、蛙、
目次(抜粋)
第一章 納涼床の女神
第二章 母と雷神様
第三章 大文字納涼船合戦
第四章 金曜倶楽部
第五章 父の発つ日
第六章 夷川早雲の暗躍
第七章 有頂天家族
解説 上田誠(ヨーロッパ企画)