大山淳子『猫弁と星の王子』

大山淳子『猫弁と星の王子』

「猫弁シリーズ6」。

百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。

あらすじ

正水直(まさみずなお)は、リュックひとつで単身、甲府から東京に出てきた。早稲田大学に入学するため。まだ手続きの書類が届いていないのが気になってはいたが、入学金等はもう振り込んであるので、なんの疑いもなかった。が、大学側に、あなたは合格していませんと言われて頭が真っ白。さらにちょっと人助けをしている間にリュックも置き引きされて、まだ18歳の少女は途方に暮れるばかり。

一方、百瀬法律事務所には、今回もかわった依頼が持ち込まれていた。ある男性が、老父が飼っている猫がまだ生きているのか見てきてほしいという。というより、その猫は何時死ぬのか、死ぬことがあるのか、百瀬に確かめてほしいというのだ。死なない猫?

そして。百瀬の婚約者、大福亜子は百瀬と同じ古アパートに引っ越してきていた。そこに、亜子の親友の春美も引っ越してくる。さらにもうひとりのお客も。

最初はバラバラに見えた事件が、しだいに合わさって、ひとつにまとまっていく。

大山淳子『猫弁と星の王子』

感想

コージーミステリーというより、コージー過ぎるミステリー、あるいは、ミステリー要素もあるほんわか小説?いえ、小説というより「童話」と表現したくなるような、優しさに包まれた作品です。

今回は百瀬より、彼を取り巻く女性たちが目立つ作品となっています。春美はますます活力にあふれ、事務員の七重はますます五月蠅く、初登場の直はウブで純粋、そして婚約者の亜子はますます慈母のようです。

そんな中、青木その子の主張にはおおいに疑問を感じざるを得ませんでした。

その子は「おにゃんこ隊」という地域猫保護NPOの隊員でした。ところが「おにゃんこ隊」の他の隊員たちのやる気なさに嫌気がさして、独自にある活動を始めます。そこまでは私にもまだ理解できるのですが、その後の彼女の言葉が私には「?」なのです。

「わたしたち活動家は全国の都市部にいて、地域猫の去勢と避妊手術を徹底的に実行しました。その結果、都市部の地域猫は一代限りで命が終わるようになった。外で暮らすの寿命って五年くらいですよね。活動が順調に進んだ結果」
(中略)
「都市部の地域猫は今、絶滅の危機にあります。(後略)」
page 176

まずここで疑問です。地域猫や外猫・野良猫は、まだ全然、まったく全然、絶滅の危機になんて陥っていません!それどころか、活動家が保護しても手術しても新たに捨て猫するバカがいるせいで減ってくれず、どこの団体も保護猫で溢れています。それはちょっとSNS等を覗いて見れば誰だってすぐ理解できることです。

「純血種はブリーダーが繁殖させます。
(中略)
一方、雑種は繁殖を許されない。ただの一度もです。
(中略)
不平等じゃないですか?雑種は恋を許されないって。一度も恋をせずに、ただ、生きていろって。殺しはしないけど、恋も出産も禁止って。
(中略)
すべて人間の都合ですよね。人種差別は悪とされるのに、猫種差別は推奨されるって、変ですよね」
まことは頭がクラクラしてきた。
page 176-177

「まこと」とは獣医師の柳まことのこと。私も頭がクラクラします。

猫の愛護・保護団体が目指しているのは、不幸な野良猫を減らすことだけではないはずです。それ以上に、現在の誤ったペット業界を正し、ペットショップでの生体展示販売や、購入者の身元も確かめないネット販売を無くすこと、それから何よりも、ブリーダーによる金儲け目的のブリーディングの廃止であるはずです。少なくとも私はそう理解しています。

と書きますとすぐ「世の中には良いブリーダーもいる」と反論してくる人がいますけれど、私は「生ませた子をお金と引き換えに渡すような人間で良いブリーダーなんてこの世に存在しない」と言っています。だってそうでしょう?本当に猫を愛しているのであれば、猫を増やして売るのではなく、まず猫を救助する方に向かうはずじゃないですか。売っている時点で、「愛しているのは猫より金」と断言してよい。自腹を切って、時には借金までして、雑種の猫だろうと血統書付きだろうと関係なく、猫を救っている人と、自分の猫に強制的に妊娠させて何回でも産ませて子猫を売り払って、産めなくなった親猫は捨てたり、保護団体や引き取り業者にお払い箱する人。どちらが猫を愛していると思いますか?幼稚園生だってわかることですよね。ブリーダーは、ブリーダーをやる時点で、もう猫を愛してなんかいません。だから良いブリーダーというものも存在しません。中でもスコティッシュ・フォールドのブリーダーは最悪。悪徳以外の何ものでもない。スコティッシュ・フォールドなんて猫種は即座に廃絶すべきなのに、可哀そうな猫を増やして何を考えているんだ!アホンダラな拝金鬼めらが!と、考えただけでムカムカします。

↑意味が解らない方は「スコティッシュフォールド 骨軟骨形成異常」で検索してみてください。スコティッシュ・フォールドとは、大変な痛みを伴う病気をあえて固定化させた病気猫種であることがわかると思います。耳が折れているのは軟骨が正常に形成されていないから。「スコ座り」も関節が痛くてまともに座れないから。大人しいのも、痛くて走り回れないから。

私としては、著者の大山淳子氏に、青木その子のような考え方がいかに間違っているかを、もっと書いてほしかったなあとは思います。これはハートフルミステリーであり、猫愛護本ではありませんから、そこまで求めるのは酷かもしれませんけれどね、それでも。

で、その子のように考える人達へ。猫保護活動家は、「雑種だから」不妊手術をしているのではありません。その猫が、ペットマーケットでは高額で売買される品種であっても、お外で暮らしている野良猫であれば関係なく手術はします。人種差別(猫の飼い主としてふさわしいか否か)はしますが、猫種差別はしません。それが本来の活動家。すべて長期的な視野で猫種全体の幸せを考えた結果だとご理解ください。

この作品で、猫弁の第二シリーズが始まりました。百瀬太郎も大福亜子もその他登場人物たちもあいかわらずのお人よし、善人ばかりです。あいかわらず、流血無し・残虐な犯罪とか物騒な事件も無しの、平和なミステリーでホッとします。惜しむらくはあいかわらず猫そのもの活躍度が低すぎること。・・・と思っていたらあとがきは猫が書いていました(笑)。

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まとめ:大山淳子「猫弁」シリーズ

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

大山淳子(おおやま じゅんこ)

2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫弁と星の王子』

「猫弁」シリーズ6

  • 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
  • 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
  • 発行:2021年
  • NDC:(日本文学)小説 
  • ISBN:9784065231326
  • 365ページ
  • 登場ニャン物:テヌー、ゴッホ、、五味(ごみ)
  • 登場動物:-
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