大山淳子『猫弁と魔女裁判』

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「猫弁シリーズ5」。

百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。

あらすじ

弁護士とは正義の味方と「勘違い」している百瀬太朗は類を見ないお人よし。

前作で百瀬は「三毛猫誘拐事件」を解決するために、動物愛護センターに「三毛猫が保護されたら連絡ください」と頼んだ。誘拐事件は無事解決した。が、百瀬はセンターへの届を取り下げなかったばかりか、連絡をもらうたびに三毛猫を引き取ってくるようになった。事務所の猫はみるみる増え、今では二十一匹。里親探しも追っつかない。

そんな百瀬が、およそらしからぬ案件を引き受けた。強制起訴の指定弁護士。しかも秦野弁護士と組んで。

秦野は、最大大手の弁護士事務所・ウェルカムの人間で、要するに「金儲けにならない案件は引き受けない」ような人間だ。かつての上司で、百瀬を事実上クビにした人物でもある。その秦野と百瀬が組む。しかも国際スパイ事件などという、金にもならない、きな臭い事件で。

あまりに奇妙だった。それだけでない。この事件にかかりきりになるため、百瀬は自分の百瀬法律事務所さえ、しばらく留守にし、かわりの弁護士を置いた。

その一方で、百瀬の婚約者・大福亜子は、百瀬との結婚を進めるべく、一人で奔走していた。結婚式の日取りを決め、場所を決め、衣装を決め、段取りを決めていく。百瀬は忙しすぎて何もかも亜子にまかせていた。結婚式の日だけは予定をあけると約束して。

亜子は幸せを感じつつも、一抹の寂しさと、かなりな不安を隠し切れずにいる。亜子にしても、なぜあの百瀬が国際スパイ事件なんかに積極的にかかわるのか解らない。あまりに「らしく」ない。

裁判の日が近づくにつれ、亜子の不安はさらに広がっていくのだった。

大山淳子『猫弁と魔女裁判』

感想

今までの「ペット訴訟」とはまったく異なる事件に、百瀬太郎が挑みます。それだけに、作品全体の雰囲気もかなり違ってきています。なんというか、ぐっと引き締まった感じ。

もちろん、今まで通りの、ほんわか・あったかな雰囲気もそこら中にちりばめてあります。といいますか、百瀬の事件部分以外は、すべて今まで通りのあたたかさです。それでも今までとはちょっと違うなと感じるのは、百瀬の登場場面がいつもより若干少ないということもあるかもしれません。

しかし、それだけ、この巻は重要な内容となっている、ということでもあります。

百瀬の過去がどんどん明らかになってきます。百瀬のやさしさ、さびしさ、百瀬をとりまく人たちの想い。いろいろな要素が複雑にからみあいながら、ゆっくりと、たしかな手ごたえに編み上がっていく感じ。今までの中でいちばん緊迫していて、いちばん悲しくて、いちばん底の暖かい作品。そんな感じ。

これ以上書いてしまうとネタバレになりかねませんし、この作品はシリーズ中もっとも「ネタバレ」すべきではない作品ですので、レビューもこんな抽象的な感想だけにとどめておきます。どうぞお読みください。

ところで、作品中にでてくる猫の名前にはニヤっとしてしまいました。その名前とは「ぶんぶん」。そして私が以前、ある子狸につけた名前は「ブンブン」。平仮名とカタカナの違いはあるものの、同じ音に懐かしささえ感じました。

その子狸は疥癬症にかかっていて、後肢も少し悪く、たったひとりでヨロヨロと歩いていました。私は餌付けして投薬し、疥癬症を治しました。後肢は治せませんでしたが、他のタヌキたちと同じように走り回ることができましたから、無理に捕まえて手術するほどではないと判断しました。

(動画をアップしています。よろしければご覧ください→『疥癬子タヌキ物語』

この『猫弁と魔女裁判』で、百瀬シリーズの第一部は終了となります。第二部の刊行も始まっていますから、どうぞお楽しみに。

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まとめ:大山淳子「猫弁」シリーズ

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

大山淳子(おおやま じゅんこ)

2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫弁と魔女裁判』

「猫弁」シリーズ5

  • 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
  • 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
  • 発行:2015年
  • NDC:(日本文学)小説 
  • ISBN:9784062931908
  • 357ページ
  • 登場ニャン物:テヌー、ぶんぶん、ぷくぷく
  • 登場動物:
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