大山淳子『猫弁と少女探偵』

大山淳子『猫弁と少女探偵』

「猫弁シリーズ4」。

百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。

あらすじ

百瀬法律事務所の玄関ドアは目立つ黄色だ。猫お世話係 事務員の七重が塗った。そのドアーに、毎日のように張り紙が貼られる。「猫専門」等、猫弁を揶揄する悪戯に七重は怒っているが、百瀬はのんきにもその達筆ぶりに感心している。

百瀬は、また野口美里に呼ばれた。タワーマンションの最上階でチンチラゴールデンを飼っているソフィア・ローレン似の美女にして、シンデレラシューズの社長の妻だ。彼女の知り合いの女の子が飼っていた三毛猫が「誘拐された」ので助けてほしい、という依頼。身代金は五百万円。

三毛猫の飼い主は小学生の女の子だった。お金だけはあるようだが家庭に問題がありそうで、母親はいない。百瀬は彼女を「探偵」に指名し、三毛猫誘拐事件を一緒に解決しようともちかけた。

そんなある日。百瀬の元に「弟」を名乗る人物が尋ねてくる。百瀬は自分に弟がいたとは知らなかったが、妙になれなれしいこの男と、一晩、和気あいあいと飲み語る。

少女の三毛猫は無事に戻るのか?百瀬の弟とは?張り紙の犯人の正体は?

大山淳子『猫弁と少女探偵』

感想

とても暖かくすてきな作品でした。ミステリーでありながら犯罪・流血・暴力・詐欺などありません。暖かさだけで構成された作品です。

百瀬太郎の、婚約者亜子に対する扱いにはちょっと、いえ、かなり不安を感じずにはいられない部分もあり、この二人どうなっちゃうのかと心配になります。百瀬があまりにウブすぎといいますか、女性の心理をわからなさすぎて、もう完全に浮世離れ。本当に40年も生きてきたの?しかも弁護士という、人間のドロドロな心理に頻繁に接するであろう職業で?さらに3年間も熱心に婚活までしたのに?

でも、どうぞご安心を。亜子は百瀬にゾッコン、何をされてもその気持ちに揺らぎはないようです。ふつうの女性なら一瞬で心が離れてしまうような扱いをされても。

と、ここまでは、一般的な感想です。とにかく良い本です。超おすすめです。

以下は、「Animal Liberation=動物の解放」を願うひとりのヴィーガンとしての発言となります。

百瀬は、誘拐された三毛猫を探すために、動物愛護センターにも届け出をしました。この「動物”愛護”センター」というのは、かつては保健所と呼ばれていた施設であり、名前負けの代表みたいな存在です。動物を「愛護」する場所ではないという意味で。私は、正しく「動物処分管理センター」か「動物収容所」とでも名前を変えてほしいと思っていますが、国民を欺瞞することが大好きな政府のことですから、決して名称変更はしないでしょうね。

さて、百瀬に話を戻しますと、彼は実に立派です。

動物愛護センターに依頼した「三毛猫が持ち込まれたら連絡を」は、取り下げてない。持ち込まれるたびに連絡をもらい、うちでひきとり、里親を探そうと思う。
いずれは殺処分というシステムそのものをこの国からなくしたい。
page 296

おお、これこそ「正義の味方」!♡!

しかし残念ながら、著者の大山氏の動物愛も、我々ヴィーガンから見れば非常に限定的なようです。蛸を扱う場面でそれがわかります。

京子は小学生の女の子。学校でフナの生体解剖の授業があり、それに耐えられず、不登校になったような、繊細で優しい子でした。美里は、京子と同じマンションに住む、ソフィア・ローレン似の女性です。このふたりが、百瀬のために料理するシーンです。

美里は正しい方法で蛸をしめた。つまり、先が鋭くとがった包丁で、蛸の眉間をぶすりと刺した。
そう、刺したのだ!
蛸の生命力はたくましく、それだけでは動きを止めない。
次に美里は、蛸の頭の付け根に軽く包丁を入れて、頭をぐるっと内臓ごと裏返した!
百瀬は京子を見た。京子はびっくりした顔でうごめく蛸を見ている。
ああ、どうしよう?百瀬は髪をかきむしった。
そんな手の込んだ料理、しなくていいのに!
(中略)
その後、夕食に出された蛸の天ぷらを京子がおいしそうに食べるのを見て、百瀬は心からほっとした。
もうだいじょうぶだ。
page 293-294

私としては非常に残念な描写でした。フナの生体解剖が耐えられなかった京子と、同じく、小学時代にカエルの生体解剖が耐えられなかった百瀬、この二人の目の前で、生きた蛸を刺し殺して切り刻み内臓ごと裏返す!この二人には「止めて!」と叫んでほしかった。「そんな手の込んだ料理、しなくていいのに!」ではなく「殺さないで!」であってほしかった。おいしそうに食べてほしくなかった。それをみて心からほっとしてほしくなかった。蛸を海に逃がしてほしかった。

「種差別」=猫や犬は大事にかわいがるが、タコやエビや牛や豚や魚や鶏等の苦痛には無関心。平気で殺して食べる。とくに声を出して叫べない「海産物」には無頓着。食べ物(モノ)としか思っていない。

そんな一般的な現代日本人の思考が如実に出てしまいました。作品全体がすばらしかっただけに、ほんとうに残念です。

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まとめ:大山淳子「猫弁」シリーズ

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

大山淳子(おおやま じゅんこ)

2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫弁と少女探偵』

「猫弁」シリーズ4

  • 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
  • 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
  • 発行:2015年
  • NDC:(日本文学)小説 
  • ISBN:9784062930260
  • 305ページ
  • 登場ニャン物:テヌー
  • 登場動物:
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