宮沢賢治『なめとこ山の熊』
新潮文庫『注文の多い料理店』収録。
淵沢小十郎はすがめの「ごりごりしたおやじ」なんですよね。
熊を射つと、そばへよってきてこう言います。
「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。(中略)仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめも熊に生まれたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次は熊なんぞに生まれなよ。」
そして、
そんなときは犬もすっかりしょげかえって眼を細くして座っていた。
小十郎は、好きで殺戮しているのではありません、自分が生活していくために、仕方なく、そんな因果な商売をしているのです。
他にどうにも方法がないから、猟師をやっているのです。
そんな小十郎は、しかし町へ出るとからっきし意気地がないのです。
商売下手なんですね。
せっかくの熊肝も、安く買いたたかれてしまう。
そして、ついに小十郎にも最後の日が。
その時の熊の言葉が印象的です。
「おお小十郎おまえを殺すつもりはなかった。」
熊の方でもちゃんと知っているのです。
なぜ小十郎が熊をうつのか。
小十郎と熊とは、しっかり心が通じ合っているのです。
熊自身も肉食獣として、獲物をとることがある動物だからでしょう。
そして、これこそ、本来あるべき“またぎ”の姿だと、私は思います。
今年(2004年)は特に熊殺戮のニュースが多い年でした。
あまりに多くの熊が殺されました。
単に、人里に出てきたと言うだけの理由で。
熊と人との関係がすっかり壊れてしまいました。
この作品は小品ですが、名作だと思います。
心にずっしりと残ってあとあとまで尾を引きます。
(2004.11.21)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『注文の多い料理店』
- 著:宮沢賢治(みやざわ けんじ)
- 出版社:新潮社 新潮文庫
- 発行:1990年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4101092060 9784101092065
- 358ページ
- 登場ニャン物:無名
- 登場動物:熊
目次(抜粋)
イーハトヴ童話『注文の多い料理店』(全)
- 序
- どんぐりと山猫
- 狼森と笊森、盗森
- 注文の多い料理店
- 烏の北斗七星
- 水仙月の四日
- 山男の四月
- かしわばやしの夜
- 月夜のでんしんばしら
- 鹿踊りのはじまり
雪渡り
ざしき童子のはなし
さるのこしかけ
気のいい火山弾
ひかりの素足
茨海小学校
おきなぐさ
土神ときつね
楢ノ木大学士の野宿
なめとこ山の熊
注解・・・天沢退二郎
つめくさの道しるべ・・・井上ひさし
収録作品について・・・天沢退二郎
年譜
【推薦:ゆきこ様】
熊捕りの名人小十郎は誠実な人間で熊達からとても慕われています。
「なめとこ山の熊のことならおもしろい」という書き出しですが物悲しく切なくなる話です。
最近続いているくまの射殺の記事を見るたびになめとこ山の熊たちと尊い人生を送った小十郎の事を思い出し泣けてきます。
(2004.11.21)