椋鳩十『モモちゃんとあかね』
動物文学で有名な椋鳩十の短編集
山男と子ども
深い山の天辺に住んでいる山男は、おそろしく背が高く、歌も上手なのでした。
そんな山男にあこがれた少年は悪い魔法使いに捕まってしまい・・・
動物のスケッチ
まず最初に「ネコ」。
それから、ブタ、ウマ、ノミ、ウシ、ニワトリ、カバ、・・・と、15種類ほどの生き物たちが、1ページほどの短い文章で描写されます。
赤い花
山窩(さんか)とよばれた人たちを知ってますか?
世の偏見を鋭く問うた作品。
悪石島の少年
戦後間もない話。
広い海の、小さな島には、誇り高い少年が暮らしていたのでした。
吹雪の中のハト
男の子の家の中に、ある日突然、ハトが迷い込んできました。
男の子はいっしょうけんめい、ハトのお世話をします。
カモのひっこし
登場動物=カルガモ
ため池で、八羽のヒナを育てていたカルガモのお母さん。
雨が降らず、ため池の水はどんどん水田に流れて、もう池が干上がりそうです・・・
モクレンの花
寂しくて仕方のない少年の、ある日のできごと。
いたずらサル
登場動物=サル
ちょっとほっこりする文章があります。
おばあさんは、サルに、ひどい目にあいながら、はらをたてているようすがないのでした。
孫のいたずらでも、話すように、したしみの心をこめて、サルのいたずらを、話してくれるのでした。
page117-118
きっとそれは、山に住むこのおばあさんは、山のサルたちがしていることは「イタズラ」ではなく、生きるために必死なのだとわかっているからでもあるのでしょう。
昭和37年に発表された作品ですが、その時代より、今の時代の方が、人々の生活はずっと豊かになっています。山の奥でも、電話は通じますし、インターネットも使えます。山の奥でも、飢える心配はまずない世の中です。
なのに・・・
今の世の人々は、このおばあさんのような、おおらかな心を、かえって失ってきているように思えます。サルに畑のものを少し取られただけで、サル害だサル害だと、とさも憎々し気に怒る人が多いのです。ちょっと残念です。
赤い足あと
登場動物=キツネ、カケス
ふつうは春に生まれる子ギツネですが、そのお母さんは夏に出産しました。弱弱しい子ぎつねたち。お母さんキツネは必至で育てます・・・
カイムのいずみ
冷たい氷に閉ざされたその町は、人々の心まで冷え切っていたのでした。
林の木々さえ枯れはて、人々はわずかに生えるコケをむしり取って食べてやっと生きている状態。青い草なんて誰も見た事もありません。
ネズミ
登場動物=ノウサギ、ノネズミ
かつての同級生と、由緒ある寺で、思い出話にふける主人公。
そこへ、冬も夏も一年中、山で過ごしている猟師もやってきて、ウサギやネズミの話をします。
将軍さまのゾウ
登場動物=アジアゾウ
江戸時代の人々はゾウなんて見たことありませんでした。
安南(今のベトナム)から二頭のゾウが長崎の港にやってきました。八代将軍吉宗にお目見えさせるためです。
長崎から江戸まで、巨大なゾウたちを移動させなければならないのですから、そりゃもう大変です。南蛮船から降ろすだけでも大工事を必要とするような大騒ぎ。
さて、ゾウたちは無事に江戸につくのでしょうか?
モモちゃんとあかね
登場ニャン物=モモ、その他。
モモは、あかねちゃんがまだ赤ちゃんだったときに、水兵さんからもらった猫でした。あかねちゃんは文字通り、モモちゃんと一緒に育ちました。もう13年もべったり一緒なのですから、大変な仲良しなのです。でも、猫の寿命は、人の寿命より、ずっと短いのです・・・
猫と子供の絆にじんわり来てしまう小品です。甘えん坊な猫と一緒に暮らしている人なら、なおさら心に響くでしょう。世の中、なにかといえば「猫は家につく」だの「猫はツンデレ」だのと、猫のつれなさが強調されがちですが、猫って実は人間が大好きな動物なんです。猫ほど深い愛情を返してくれる動物はそういません。
解説/大藤幹夫
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『モモちゃんとあかね』
- 著:椋鳩十(むく はとじゅう)
- 出版社:(株)ポプラ社
- 発行:1978年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:
- 229ページ
- 登場ニャン物:上記
- 登場動物:各種多数
【推薦:シェラ様】
時代は、戦後すぐあたり。
主人公の女の子が、父親と波止場に散歩に行き、金髪碧眼のセーラー服を着た船乗りの少年から、彼がどうしても飼えなくなった白いチンチラのような長毛種の子猫をもらいます。
その猫が成長して子猫を生みますが、主人公の女の子のすぐ横で眠れるのはその猫だけ。
二人の間には強い絆ができます。
その後は、女の子が大きくなるにつれて白猫が年老いていき、動けなくなり、最後は女の子の指に触れられながら旅立つというお話。
淡々としたストーリーですが、細部がとても丁寧に語られていました。
初めて読んだのは幼稚園の頃ですが、当時、子どもながら猫の死が悲しく、しかしそれ以上に、こういう形の愛情もあるのだと漠然と感じた最初の本だったと思います。
私は、生まれる前からたくさんの動物に囲まれていましたが、この本を読んで初めて、一緒に生活している犬や猫が、自分よりも早く旅立ってしまう生き物であることを実感として感じました。
また、だからこそ、何とかしてずっとそばにいてほしいと思ったり、何かしてあげなければと強く思ったものでした。
(2004.12.21.)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。