水木しげる『猫楠 南方熊楠の生涯』
日本の誇る世界的変人、いえ、世界的偉人の話。
南方熊楠といえば、日本が誇る大博物学者で民俗学者である。
とにかくすごい人だった。
あらゆる点で規格外れだった。
まさに豪傑だった。
そしてまれに見る大変人でもあった。
1867年、和歌山県の金物商の次男として産まれる。
東京大学予備門時代の同期生には夏目漱石がいた。
1887年、ミシガン州の農科大学に入学、1892年にはロンドンへ渡る。
その後、大英博物館などに勤務しながら、「ネイチャー」などの科学誌に寄稿。
中国の孫文と親交を結んだりする。
1900年帰国、以後、和歌山を中心に、粘菌の研究や自然保護運動に身をやつす。
1941年死去。
享年75歳。
日本より外国での知名度の方が高い。
熊楠が発見した新種の粘菌は数知れない。
驚異的記憶力の持ち主で、語学の達人で、いつもすっ裸で家の中を練り歩き、大酒を飲み、巡査をぶっとばし、よい地位の斡旋があっても断り、熊野の森を守るために全力を尽くし、天皇が和歌山に来訪されたときは望まれて拝謁し、好き勝手して、そして在野の学者のまま死んでいった。
うらやましいような、しかし、こんな奇人は近い親族にはいてほしくないような、すごい生涯だった。
そして熊楠は、猫を愛したという。
このマンガは、南方熊楠の生涯を、水木しげるが描いたものである。
全編を通して猫が登場し、時には猫の視点から見た熊楠が描かれたりする。
マンガの中で猫と熊楠は自由に会話している。
熊楠なら本当に会話できたのかもしれないと思ってしまう。
猫は、熊楠の飼い猫の他にも多く出て来て、中にはネズミと猫の合いの子のような変な猫(?)もいる。
またある時は年一度の猫踊りに猫たちは熊楠を招待し、一緒に踊ったりする。
妖怪マンガで知られる水木しげるの絵だから、猫たちも熊楠も、また他の登場人物達も、皆なんというかどろどろした感じで少しも上品なところが無く(はっきり言えば実に下品である)、いくらなんでもあの偉人をここまで汚く描かなくても、と思わずにはいられない部分もあるが、実際のところ、熊楠は上品にはほど遠い人物だったらしいし、これはこれで熊楠らしい気もする。
とはいえ、正直、もう少し知的な顔も描いて欲しかったとは思う。
若い頃の写真を見れば、いかにも頭が鋭そうな、きりっとした眼光の好青年なのだが。
猫はずっと出てくるけれど全然かわいくないし、このマンガは、猫好きさんより、まず熊楠ファンに見て欲しいと思う。
私ももちろん、熊楠を読みたくて買ったのである。
猫がこれほど出てくるとは中を見るまで全然知らなかった。
熊楠と猫と両方を見られてちょっと儲けた気分だった。
(2006.6.14)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫楠 南方熊楠の生涯』
- 著:水木しげる(みずき しげる)
- 出版社:角川ソフィア文庫
- 発行:1992年
- NDC:726(マンガ、絵本
- ISBN:4041929075 9784041929070
- 427ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:猫楠(ネコグス)、ほか多数
- 登場動物:ねずみ猫