谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

 

動物を飼うという現実。

『「坊ちゃん」の時代』『狼王ロボ』等シートン動物誌などのマンガで知られる漫画家の谷口ジロー氏の、犬や猫のマンガ5作品と、エッセイを集めた一冊。

犬を飼う

著者の実体験に基づいたマンガ。

読みながら、なぜこの作品に「犬を飼う」というタイトルを付けたのか、一瞬疑問に思いました。だって内容は、最初から最後まで老犬の介護のこと。へろへろでも歩けたときはまだマシ、やがて歩けなくなり、食べられなくなり、寝返りさえ自力ではうてなくなって、それでもまだ生きていて・・・
でも、ついに・・・

こういう作品の場合、もっとしんみりしたタイトルをつける人が多いのです。「犬を飼う」というタイトルで、ふつう思い浮かべるような内容とはちょっと違っているのです。

でも、読み終わって、わかりました。すごくよくわかりました。著者谷口ジロー氏の気持ち。

著者は、若いころからずっと、犬を飼うことを夢見ていたそうです。中年になって、やっと念願の犬を得て、著者は喜びでいっぱいでした。これで憧れの「犬のいる生活」を楽しめるぞと張り切ったそうです。

しかし、著者はすぐに、「犬を飼う」ということの現実をつきつけられます。
毎日のお世話。毎日の散歩。しつけ。いたずら。後始末。それらは、毎日の義務となると、思いのほか大変でした。
それでも、若い時はまだよかった。犬も年を取るという事実に直面したとき・・・

老犬の世話というのは、それはもう想像を絶する、それは大変な作業だったのです。

「犬を飼う」ということ。

著者はきっと、犬初心者の人々に、伝えたかったのだと思います。犬を飼うとは、楽しいことばかりじゃないんだぞ、こんな大変なことが待っているんだぞ、これだけのことをする覚悟と時間と人手があるのか?これだけのことができる人しか、犬を飼ってはいけないんだぞ、並大抵のことじゃないんだぞ。

これだけのことをしてもなお、これだけのことをしてますます、犬はこんなにも愛しい大切な家族なんだぞ・・・

無心に、ただ生き続ける老犬タムに、感動を覚えずにはいられません。

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

そして・・・猫を飼う

壮絶な老犬介護のあと、夫婦はもう動物を飼うつもりはなかったのです。
なのに・・・

ある日、妻が猫を連れてきてしまいます。

「もう何件もたらいまわしにされているの。大人になった猫だから、なかなかなつかないんだって。
飼い主が見つからないと、動物保護協会の方で処分するんだって。」
「・・・・・ そんなこと聞かされて、返しに行けるのか?」
「・・・・・・」
「連れてきちゃったんだから、もう飼ってやるしかないだろう。」
「うん!」
そして、私たちは猫を飼うことになった。
page51

ボロと名付けられたその猫はペルシア猫でした。
しかも、妊娠していたから、さあたいへん!

ほっこりさせてくれる、よい作品です。

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

庭のながめ

ボロが子猫を産んで、夫婦はてんてこまい。
子猫たちは、そりゃあ可愛くて。

近所に、マルちゃんという老犬がいました。
夫婦はマルちゃんに、亡くなったタムの姿をうつして気にかけていました。
そのマルちゃんが、ある日、行方不明になってしまいます。
古い留め具が壊れていたことに、飼い主がうっかり気づかなかったのです。
もう目も見えず、寝るばかりの生活だったのに、マルちゃん、どこへ?

三人の日々

夫婦二人暮らし(プラス猫3頭)の家へ、姪っ子が家出してきた。
まだ中学一年生。
夫婦は夏休みの間、姪っ子を預かってあげることにする。

エッセイ サスケとジロー

マンガではなく、エッセイ(文章)です。『犬を飼う』『そして・・・猫を飼う』のもととなった犬猫体験がつづられています。

おどろきました。作品の老犬タムは、若いころは健康で元気な犬でしたが、著者の犬サスケはクル病の障害犬だったんです。
脚に障害をもった老犬の介護は、マンガのタムの介護より、もっと大変だったはずです。頭が下がります。

短いけれど、ずっしりした後味を残してくれる作品です。

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

百年の系譜

梅原家ではずっと犬を飼っていました。由緒あるジャーマン・シェパード。
なんと100年も血筋を絶やさず飼ってきた犬でした。

その系譜が、一度だけ、途絶えそうになったことがありました。
そう、あの、戦争中に。

一頭のシェパードがたどった、驚くべき運命。

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

戦争は、人も動物も不幸にしかしない。

エッセイ 思い出すこと

「あとがき」です。3ページ弱。

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

  • 著:谷口ジロー(たにぐち じろー)
  • 出版社:株式会社 小学館
  • 発行:2018年
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:9784091792563
  • 191ページ
  • 一部カラー
  • 登場ニャン物:ボロ、クロ、キキ、ゴマ、ポチ、テム、クロ
  • 登場動物:タム、サスケ、ベル、ほか(以上犬)

 

目次(抜粋)

犬を飼う
そして・・・猫を飼う
庭のながめ
三人の日々
エッセイ サスケとジロー
百年の系譜
エッセイ 思い出すこと

著者について

谷口ジロー(たにぐち じろー)

『父の暦』『遥かな町へ』『事件屋稼業』(関川夏央との共作)『神々の山嶺』(原作:夢枕獏)『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)など、幅広いジャンルで作品を発表。
1992年、『犬を飼う』で第37回小学館漫画賞審査委員特別賞を受賞したほか、手塚治虫文化賞マンガ大賞や、アングレーム国際漫画祭最優秀脚本賞などを受賞。また、2011年にはフランス政府芸術文化勲章・シュヴァリエが授与されるなど、その作品は世界中で高く評価されている。
2017年2月11日没。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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谷口ジロー『犬を飼う そして・・・猫を飼う』

9.3

動物度

9.8/10

面白さ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

9.0/10

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