映画『ハリーとトント』
家を失った老紳士は愛猫をかかえて旅立つ。
あらすじ
ハリー、72歳。妻を亡くし、子供たちも独立して、今はニューヨークで一人暮らし。常に愛猫トントと一緒で、外出時にも連れ歩く徹底ぶり。トントも、リードをつけられて犬のように散歩を楽しんでいた。
そのハリーが住むアパートが区画整理で壊されることになった。ハリーは抵抗したが、強制的に立ち退かされる。
仕方なく息子の家に同居したが、孫とは同室だし、嫁とは折り合いが悪い。いたたまれなくなって、シカゴにいる娘を頼ることにした。
ところが、飛行機に乗る際にひと騒動。トントを入れたキャリーを係員に預けなればならないと言われたが、ハリーは断固拒否。ハリーとトントは一心同体、離されてなるものか!
しかたなく長距離バスに乗りかえた。が、ここでもトラブルが。
とうとう、中古車を買って、それで移動することにした。これならトントと気兼ねなく旅できる。
車を買う時も、猫が映える色を選ぶハリー
途中、ヒッチハイクで家出少女を拾う。昔の恋人も訪ねた。彼女は老人ホームにいた。
やっと娘の家についたが、すぐに、同居は難しそうだと知る。家出少女を送り、少女に同行するという孫に中古車を譲り、自分とトントはヒッチハイクで、次男の住むロサンジェルスに向かう。
ふたりは途中、様々な人に乗せてもらう。酔っ払って立小便して留置所に入れられたりもする。
老いたハリーに、安住の地は見つかるのか?トントはどうなるのか?
感想
1970年代のアメリカ庶民の生活が、とてもよく現れている作品。
別に天変地異とかが起こるわけではありません。一番の大事件は、最初の強制退去でしょうか。その時もすぐに長男が駆けつけて、ハリーがいきなりホームレスになるとかいう悲劇にはなりません。
が、年老いたハリーの、居場所の無さ。住み慣れたアパートを失っただけで、こうも何もかも失ってしまうのか。あまつさえ、親友も亡くなります。高齢者の孤独。子供は3人もいて、3人とも親父に「一緒に住もう」と言ってくれているにもかかわらず、どこも居場所がありません。いるのは猫のトントだけ。大切な相棒のトントだけ。
旅の途中で出会う人々の人生も様々です。若い男に、家出少女。猫を売っていたこともあるというセールスマン。高級娼婦。留置場の中で会った男の罪科は、無許可で治療を行った、というものでした。ハリーも肩を治してもらいました。野良猫たちを「私の子供たち」と呼ぶ餌やりおばさんもいました。
日本人的にいえば、人生の「わび・さび」が丁寧に描かれた作品?緩やかな起伏が綴記ながら、物語は淡々と進んでいきます。老いの寂しさも気楽さも描かれています。ハリーの旅は辛そうでありながら、明らかにどこか楽しんでいる風も感じられます。永年馴染んできたものを捨て、しがらみも捨てて、禅僧のように悟って行くハリーの心情が、丁寧に、ゆるやかに綴られていきます。
若い人たちには単調で分かりづらいかもしれません。イケメンや超美少女も出てきませんし(苦笑)。でもある程度以上の年齢の方々には、とてもお薦めの映画でした。観た後はちょっとしんみりしてしまいます。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
映画『ハリーとトント』
“Harry and Tonto”
- 出演:アート・カーニー Art Carney、エレン・バースティン Ellen Burntyn、ジェラルディン・フィッツジェラルド Geraldine Fitzgerald、ラリー・ハグマン Larry Hagman、チーフ・ダン・ジョージ Chief Dan George
- 監督:ポール・マザースキー Paul Mazursky
- 脚本:ジョシュ・グリーンフェルド Josh Greenfeld、ポール・マザースキーPaul Mazursky
- 配給:20世紀フォックス Twentieth Century Fox
- 制作:1974年 アメリカ
- 時間:本編116分
- 登場ニャン物:トント Tonto
- 登場動物:-