ライハウゼン『ネコの行動学』
ネコ科研究の古典的名著。
およそネコ学に関する本を出版するような著者で、この人の本を読んでいない人がいたとすれば、その著者はもぐりだろう。少なくとも私はそう思う。
ライハウゼン博士は1916年生まれ。ドイツのマックスプランク行動生理学研究所にネコ研究部門を設立、生涯をネコおよびネコ科の飼育・研究に捧げてきた学者である。その研究の基本姿勢は徹底した観察だ。先入観や既成概念はすべて捨て去って、中立無色な目で、カメラのように正確かつ詳細に、綿密に観察すること。 この本は、その膨大な観察および研究データに加えて、世界中の科学者達の成果をも満遍なく取り入れている。実に厳格で緻密で、データと情報にあふれた、、いかにもドイツ人科学者らしい本だ。
原書の第一版は1956年に出版された。以後、新しい研究成果とともに、何版も改訂を重ねられた。私が持っている和訳の元は第六版(1982年)のものである。全366ページ、2段組の大著だ。
「Ⅰ獲物に対する行動」では、ひたすら、ネコのハンティングが述べられている。どうやって忍び寄るか、どこをくわえるか、マウスとラットでの違い、食べ方、等々。イエネコのみならず、サーバル・オセロットなどの野生猫、さらにライオンやトラなどの大型ネコ科にも話は及ぶ。正直な話、今の完全室内飼いの飼い猫達にとってこのようなハンティングはかなり無縁な感じがしないでもない。自分の飼い猫について知りたくて読み始めた人なら、190ページ近い狩りの話にはうんざりするのではないか。が、これこそ本来のネコの姿ではあるだろう。ぬいぐるみのようにかわいらしいネコの中に、このようなハンターとしての素質が眠っていることを忘れてはならない。
「Ⅱ社会行動」では、未知のネコ同士の出会い、雄猫の闘争、防御行動、順位と過密化、性行動、子育て、人間との関係、などが語られている。といっても、最近普通に見られるネコ本と、内容はかなり違っているように思える。普通のネコ本は、ネコが人間の家に飼われている事を大前提に、人間との生活との絡み合いの中で書かかれているが、ライハウゼン博士のネコ達は、普通の意味で「飼われていない」。彼らは家庭の猫ではない。あくまで研究用にケージにいれられて飼育されているネコ達、または、ノラ的生活を送っているネコ達である。名前すらM5とかW3など、記号で呼ばれているだけだ。博士のねらいは、人間による干渉や影響を出来るだけなくし、ネコの本能や本来の姿をなるべく純粋に引き出そうということにあるのだろう。そのための様々な実験も繰り返している。食事が生きたマウスやラットだったりもする。
おそらく、ネコを生きたぬいぐるみと勘違いしているような女の子には、この本は読めないだろう。実験の仕方に反感を覚える人も多いだろう。しかし、貴重な資料であることには間違いない。本当にネコの事を知りたい人だけ、じっくりと読んでほしい。
(2003.1.31)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ネコの行動学』
- 著:パウル・ライハウゼン Paul Leyhausen
- 訳:今泉吉晴(いまいずみ よしはる)・今泉みね子(いまいずみ みねこ)
- 出版社:どうぶつ社
- 発行:1998年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
- ISBN:4886223036 9784886223036
- 366ページ
- モノクロ
- 原書:”Katzen—eine Verhaltenskunde” c1982
- 登場ニャン物:イエネコ・野生のネコ科多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- はじめに
- 1 獲物に対する行動
- 獲物への接近
- 獲物をとらえ、殺す
- 真空活動、獲物の代用物への反応
- 殺した獲物の扱い
- その他
- 2 社会行動
- 未知のネコの出会い
- ネコはネコのどこを見ているか
- 慣れ親しんだ空間でのネコの出会い
- 雄ネコの闘争
- その他
- 文献
- 索引
- 訳者あとがき