荒島康友『ペット溺愛が生む病気』
副題「しのびよる人畜共通感染症」。
人畜共通感染症(ズーノーシス)について、素人にもわかりやすく書いた本。
「第1章 変貌する感染症」は、ズーノーシスについての一般的な知識が書いてある。そもそも感染症とはどういうもののことか。病原体はどこにいるのか。どうしてペットからうつるのか。
「第2章 身近に迫る人畜共通感染症データ<各編>」では、主な感染症をひとつひとつ取り上げて説明している。例えば、狂犬病。日本では現在狂犬病は撲滅されたことになっている。が、安心して良いのか?狂犬病が見られないのは、日本、韓国、旧西ヨーロッパ諸国の一部、オーストラリアの一部、ニュージーランド、東南アジアの一部の諸島くらいである。アメリカ合衆国でさえ、まだ狂犬病の撲滅には成功していない。なぜか。
狂犬病には2種類ある。都市型と森林型。都市型はイヌを感染源とする狂犬病で、だから予防接種などを積極的に行うことで日本やイギリスではなくすことが出来た。が、今でも世界の多数の国々では患者数が多い型である。それに対し、森林型では、キツネ・オオカミ・コウモリ・アライグマなど野生動物が感染源となる。これはなかなか駆除できない。
日本では動物の輸入に関する規制が信じられないほど杜撰で、まったくの野放し状態といっても過言ではないほどだ。いつ狂犬病が日本に再輸入されても不思議ではないのである。
恐ろしいのは、狂犬病は人にも感染するということ。感染すればほぼ100%死ぬということ。生前診断が不可能に近い病気である上、今の日本には、狂犬病を診たことのある医師はほとんどいない、つまり経験による診断も出来ないということ。世界中では、現在でも毎年4~5万人も死亡しているそうだ。安易で無責任なペットブームが続く限り、いつ日本で狂犬病が大流行してもおかしくないのである。
「第3章 情報簿総で身を守る-知るワクチン」では、だから、感染症ついて勉強し対策を知ることで、感染しないように対処しましょうという章である。野生動物に触れない、飼わない。飼育環境を清く保つ。等々。
荒島氏の書いていることはすべてもっともなのである。感染したくなければ、犬を触るたびに石けんで手を洗い、台所や食堂には動物を入れず、猫と一緒に寝るなんてもってのほか。部屋はいつも掃除・換気し、ヒトと「動物」のけじめをはっきりとつけろ、と。
はいはい、仰るとおりです、と、本を読む私の膝には、猫。甘えて私の手や顔をペロペロ舐めている。猫を台所から閉め出せるような設計の家ではないし、そもそも私にはそんな気は全然ない。人畜共通感染症が怖いことはわかっている。が、人ヒト感染症の方がもっと感染力が強力で恐ろしいのは自明のことである。人畜共通感染症を恐れて動物たちを排除するなら、まずあらゆる人間を排除しなければつじつまが合わない。
こういう本を読んで知識を蓄えておくことは、非常に大切なことだと思う。いざというときのために。
が、あまりに神経質になる必要もないと思う。
なにより、まずは自分の体を健康に保つこと。
そして、著者の提唱する「知るワクチン」。
知識があるのと無いのとでは雲泥の差。
動物が好きなら、好きだからこそ、知っておかないと。
荒島康友氏は、日本大学医学部勤務の医学博士で獣医師。
(2003.7.12)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ペット溺愛が生む病気』
しのびよる人畜共通感染症 ブルーバックスB-1376
- 著:荒島康友(あらしま やすとも)
- 出版社:講談社ブルーバックス
- 発行:2002年7月
- NDC: 493(医学:内科学)人畜共通感染症
- ISBN:4062573768
- 222+Vページ
- 白黒
- 登場ニャン物:
- 登場動物:
目次(抜粋)
- はじめに
- プロローブ あなたの人畜共通感染症危険度をチェックする
- 第1章 変貌する感染症
- 1-1あなどれぬ感染症
- 1-2人畜共通感染症とは?
- その他
- 第2章 身近に迫る人畜共通感染症データ〈各論〉
- 2-1ペットをはじめとする動物たちから感染するズーノーシス
- 2-2ズーノーシス番外編
- 第3章 情報武装で身を守る―知るワクチン
- 3-1「知るワクチン」
- 3-2感染源としての動物にどう対処するか?
- その他
- 謝辞
- さくいん