古谷経衡『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』

古谷経衡『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』

プーチンのヒトラー化を予言した本。

2022年2月、世界を震撼させる大事件が勃発した。ロシアによるウクライナ侵攻である。

2014年のクリミア危機以降、あの地域でずっと紛争が続いてきたことくらいは私だって知っている。ロシアがもっと大がかりな軍事作戦に出るかもしれないとのウワサは、平和ボケな日本のマスコミでさえ小声で流していた。とはいえ、だ。まさかこの2022年という現代に、あんな酷い戦争を本当にロシアがしかけるとは!私としては、もー信じらんない!!!どーした、ロシア!どーなってんの、この世界!なのである。しかも当初の大多数の短期決戦予想(希望?)に反し、戦闘はズルズルと長期化してしまっている。2月に始まった戦争が7月の今も終わりが見えない。

戦争なんかする独裁者の気持ちというものがあまりに不可解で想像もできないので、この本を読んでみた。『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。

読み始めて、いきなり吹いた!ヒトラー、蒋介石、ヴィクトリア女王、チンギス・ハーン、ナポレオンという錚々たるメンバーと並んで、

そして、独裁者かどうかまだ歴史の判断にゆだねるべき段階だが、西側自由主義国の人々から現在進行形で激しく憎悪されているプーチン露大統領もメスのラブラドール(名前はコニー)を溺愛している。 page6

この本は2016年の発行。その時点ですでにプーチンの名前が出ていた!

2022年の今、世界中がプーチンとヒトラーを重ね合わせるようになっている。SNSにはヒトラーxプーチン風刺画があふれている。プーチンをきっかけに世界中が不気味な軋み音を立てはじめた実感がある。

古谷経衡『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』

「犬性の社会」と「猫性の社会」

著者は社会を大きく二形態に分類する。

犬を偏愛し、犬的な性質(忠誠、従順、服従、上意下達の縦型構造)を良しとする社会を、私は「犬性の社会」と命名する。一方で猫を偏愛し、猫的な性質(自由、放任、個人主義)を、私は「猫性の社会」と命名する。 page8

ヒトラーがどれほど犬を溺愛したか、著者は細かく語る。犬と、犬を愛する独裁者に率いられたナチス。なるほど、犬だよなあ、猫じゃ絶対だめだよなあ、と納得してしまう。

それから、日本論。

令和の現代は平成から続く猫ブーム。飼育頭数も長く続いていた犬優勢は2016年に逆転し、以来、猫の飼育頭数は増加し続けているのに対し、犬は減少する一方。「ネコノミクス」なんて造語もすでに古く感じるほど猫だらけになりつつある。

しかし、周知のとおり、少し前までは犬の方が一般的な人気は高かった。

著者によれば、その変換期は1995年頃だという。高度成長期が終わりバブルがはじけきった頃。それまでは犬性の社会だった。

が、それよりもっと以前の日本は、猫性だったという。それが犬性に変じたのは、著者によれば、明治も中頃、1930年代になってからだそうだ。儒教色の強い江戸時代から明治の初期にかけては、まだ猫性の社会。日本史において犬性の社会だった時代は思いのほか短い。

群雄割拠の戦国時代まではともかく、「江戸時代は犬性じゃないの?」と思う人は多いかもしれない。身分制だの、儒教だの、たしかに一見犬っぽく見える部分は多い。

が、私も著者の分類に賛成だ。江戸時代の日本人は、現代の我々が想像する以上に自由で独立した精神の持ち主だったと思う。それは江戸時代に書かれたものを読めばわかる。あの忠義だ仁義だでガチガチに見える『南総里見八犬伝』でさえ、原文で全文を通して読んでみたら、あらま随分と自由じゃないの。犬士たち、皆好き勝手なことばかりしています。あれじゃあ昭和のサラリーマンの方がよほど不自由に縛られた生活を送っていたなあ、と、苦笑したのを覚えている。現代人がつくる江戸時代劇は随分不自由に描かれているけれど、江戸時代に江戸時代人が描いた江戸の世界は、実ははるかに自由だった。あれほどに自由な精神の持ち主たちだったからこそ、明治維新をあんな形で成功させ、たちまち欧米に追いつけたのだ。

その、自由だった猫達が、なぜか犬に変化させられて戦争に突進し敗北し、モーレツ社員に着替えてさらに突進しつづけたが、ついに息切れしちゃったのが、前世紀の終わりごろ。以来、長らく日本が停滞してしまったのはご存じの通り。

その後にはじまった猫ブーム。終わりを知らぬ猫、猫、猫。

日本衰退論が叫ばれて久しい。日本という国はもうお先真っ暗、みたいな悲観論も多い。

けれども、私はそうは思っていない。この『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』を読んで、ますます確信した。今の日本が停滞しているのは、世の権力を握っているのがまだ昭和の残骸、犬達だからだ。日本人は本来猫なのだ。それが、明治~昭和の短期間だけ、無理矢理犬に形を変えられた。しかしまた猫に戻っちゃった。今の支配層の犬達がすっかり猫にいれかわる頃には、きっとまた日本も輝きを取り戻すんじゃないかな?逆に、もし万が一でも、「犬好き」程度ではなく「犬偏愛」な指導者が日本を牛耳るようになったら要注意、ということか。

・・・と、かくいう私も昭和生まれで、犬も飼っているんですけどね。しかも「よほど犬が好きなんですね!」といわれるほど他人には犬好きに見えるらしい。はい、犬は好きです。でも猫の方がもっと好き。比較の対象にならないほど猫の方が好き。生まれた時からのバリバリな猫派でございます。

なので、上記感想文も私の猫贔屓を考慮にいれた上で読んでください(汗)。

に、しても。面白い本でした。ロシアによるウクライナ侵攻なんて不条理が続いている今こそ、まさにタイムリーな本でもあります。社会情勢に興味のある人、犬派猫派論に興味のある人、戦争だけは許せない平和論者な方、ぜひお読みください。

戦争反対!!

古谷経衡『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • はじめに 「ヒトラーの犬」VS「チャーチルの猫」
  • 第1章 猫を愛するすべての自由人へ
  • 第2章 ヒトラーとナチスと犬
  • 第3章 大成長と合理主義、江戸の「猫性の社会」
  • 第4章 戦時体制から戦後日本の「犬性の社会」
  • おわりに 「犬性」から「猫性」へ 変動する日本人
  • 主要参考文献

著者について

古谷経衡(ふるや つねひら)

著書に『左翼も右翼もウソばかり』、『愛国ってなんだ』、『若者は本当に右翼化しているのか』、『欲望のすすめ』、『クールジャパンの嘘』、『ネット右翼の終わり』、『戦後イデオロギーは日本人を幸せにしたか』等多数。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』

  • 著:古谷経衡(ふるや つねひら)
  • 出版社:株式会社コアマガジン コア新書
  • 発行:2016年
  • NDC:200 歴史
  • ISBN:9784864368728
  • 190ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:チャン太、他
  • 登場動物:
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