御伽草子『鼠の草子』

鼠の草子

鼠が、ある美しい姫を妻にするが・・・

あらすじ

何時の時代か、京の四条堀川の院のほとりに、鼠の権頭(ごんのかみ)という、とても長生きな鼠がいた。その鼠がある時、家臣の穴掘の左近尉(あなほりのさこんのじょう)を呼んで言うことには、

「まったく何の因果で鼠なんかに生まれてきたのだろう、こうなったら誰でも良い人間と夫婦となって子孫が畜生道からのがれられるようにしたい」

左近尉も賛成し、とはいえあなたはそんなにすばらしいお方なのだから誰でもというわけにもいくまい、自分はすばらしい姫も知っているが、まず神々にお祈りに行け、と助言する。権頭ももっともだと思い、さっそく清水へ参拝に行く。

一方、都の五条の油小路に、柳屋の三郎左衛門という長者がいた。美しい娘をひとり持っていたが、なぜか嫁げない。長者は嘆いて方々に祈り、娘を清水に参詣に行かせる。ちょうどそれは、権頭が二十一日間のおこもりをしてお祈りしていたのと同時期だった。

観音さまは権頭の言葉を聞いて、鼠とはいえその信心に感心し、柳屋の姫こそ妻になるべき人だと夢に告げる。権頭は大喜び。姫の付き添いの侍従の局に、観音様のお告げだから姫をくれと申し込む。侍従の局も、この人こそ観音様のおつげの人なのかと信じ、姫様とついていくと、案内されたのは趣を凝らした豪華絢爛な御屋敷。婚礼の儀が盛大に行われて、姫はそれはそれは大事にされる。

鼠の草子

が、姫はどうも違和感を覚えた。自分が嫁いだのは人ではなく、よもや魔縁、畜生ではないか?侍従の局と相談して罠をしかけたら、はたして鼠の姿の権頭がかかった。姫は絶望してただちに逃げ出す。かけつけた左近尉に権頭は助け出されたが、姫は行方知らず。権頭の嘆き悲しむこと、この上ない。

とうとう、高名な占い師を呼び寄せて姫の行方を尋ねた。その占いがいうには、姫はすでに他の人と結婚していて、夫婦の仲もむつまじく、笛吹きの猫の坊を飼っているという。この猫の坊とは、手先がすぐれ、嗅覚鋭く、口も素早く、どんな穴の底にも難なく入り込んで鼠を獲るという、都でも有名な猫なのだとか。

権頭は、もうどうしようもないと、左近尉に出家の相談をする。左近尉も、「御歳もすでに百歳を二十年も超えているのだし、出家が良いでしょう」と同意する。そこで権頭は、御うち庵のそせい寺に行って上人にあう。、上人は五戒(殺生戒・偸盗戒・邪淫戒・盲語戒・飲酒戒)を守れと諭すが、権頭は、はい固く守りますが鼠なのだから少しずつは破っても許してね、なんてことをいう。ねん阿弥という法名をつけてもらい、仏道の修行に出た。

道中、二百歳あまりの猫の御坊に出あう。ねん阿弥は慌てるが、よく話せば、お互い気の毒な身の上。猫と鼠は連れだって奥の院に参拝にむかうのだった。

鼠の草子

感想など

鼠が立派な屋敷を構えていたり、人間の姫を妻に迎えたりと、御伽噺ならではの世界です。異類婚姻譚は世界中にみられますが、動物と人間が対等な立場で結婚するという話は、かなり日本的だそうですね。少なくともキリスト教色の強い西洋にはないそうです。たしかに「美女と野獣」にしても「カエルの王様」にしても、魔法によって姿を替えられているだけで、野獣やカエルは最後にはすてきな人間男性に戻ります。

しかし権頭は鼠です。一生懸命、人間の男に化けたり、贅を尽くして姫をいたわったりしますが、本来の姿は鼠。しかも年齢は120歳余?また、出家するには五戒を守らなければならないといわれて、はい守ります、固く守りますが、少しは海老や小魚を殺して食べたり、盗み食いしたり、女と罪なことをしたり、猫から逃れるための方便として嘘をいったりすることは許してくれ、また自分は酒で生きているようなものだから酔っぱらうほどは飲まないようにするから認めてくれ、なんて、好き勝手なことを言っているのも、いかにも鼠らしくて笑っちゃいます。

猫の坊も不思議な存在ですね。最初は鼠取りの名手として紹介されます。

(前略)都に隠れなき手さき、鼻きき、口つきのはやさ、いかなる穴の底までもわりなく入りて、鼠取り給ふ、笛吹きの猫の坊(後略)

が、その後に登場する猫の坊は、にゃんと200歳あまりの長寿猫で、妻に別れられて出家し、鼠の話に涙し、一緒に仏道を歩もうというような猫なのです。

人間の姫は、夫の正体を知ってさっさと逃げ出し、他の男と結婚してしまう。それにひきかえ、仇敵同士であるはずの猫と鼠は、最後にはふたりそろって仏の道を歩み出す。この対比が面白い話となっています。

『鼠の草子』絵巻物の画像

こちらで見る事ができます。すばらしい時代に感謝。

東京国立博物館画像検索鼠の草子

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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『鼠の草子』

日本古典文学全集26『御伽草子集』

  • 校注・訳者:大島建彦(おおしま たてひこ)
  • 出版社:株式会社 小学館
  • 発行:1974年
  • NDC:913.49(文学)小説.物語
  • ISBN:4096570362
  • 534ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:虎猫
  • 登場動物:鼠
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御伽草子集

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