『タヌキたちのびっくり東京生活』

タヌキたちのびっくり東京生活

副題:都市と野生動物の新しい共存。

宮本拓海・しおやてるこ・NPO法人都市動物研究会共著。

23区で野生暮らし その数なんと1000頭!?都会は人間だけじゃない 我ら!東京タ・ヌ・キ

表紙より

新宿駅にタヌキが出たとか、渋谷区の住宅街でタヌキが捕獲されたニュースが流れることがあります。そのたびに決まって「このタヌキ、何処から来たのでしょう?ペットが逃げ出したのでしょうか?」なんて言われたりしていますけれど、実は東京23区内に、意外と多くの野生タヌキが生息しているそうです。

東京都23区のタヌキは逃げ出したペットでもありませんし、郊外からはるばるやって来たのでもありません。23区内にはもともとタヌキが生息していたのです。しかし明治以降百数十年の間、ひたすら撤退を強いられてきたのが彼らの歴史だったのです。それでも、23区内でタヌキが絶滅したことは一度も無かったはずです。タヌキたちは、なんとか生活場所を確保して現在に至っているのです。
page 135

では現在、どのくらいのタヌキが生息しているのか?都市動物研究会は目撃情報からエリアを分け、各エリア内の頭数を推測、単純計算で600~1800頭、実態は

1000頭以上のタヌキが生息していると考えてよさそう

page 131

と計算しています。

東京23区の広さは622km²。そこに1000頭というのは、私としては「少ないなあ」の感想です。だってそれって、たとえば山手線の電車1本に乗っている人数より少ないのですから。

(※山手線の11両編成の定員は、立っている人と座っている人を合わせて1724人。1両あたりの定員は143~162人前後。)

でも多くの東京人は、この大都会に1000頭以上もの「野生の」タヌキが生息していると聞くと驚くのではないでしょうか。

この本は、そんな東京タヌキたちについて、その生態や生息地域、食性、観察方法など、さまざまなアングルから面白楽しく書かれた本です。マンガのページもあり、図や写真も豊富です(白黒ですが)。他の間違いやすい動物達との比較図もあります。この1冊を読めば、誰でもタヌキについてかなり詳しくなった気分になれるのではないでしょうか。

東京の生態系ピラミッド

東京23区内の生態系ピラミッドを考えますと、なんと最上位に位置するのがタヌキたちだそうです。

『タヌキたちのびっくり東京生活』

これは私も今まで考えたことのなかったことですが、言われてみればそうなんですよね!

昭和初期のように野良犬が多かった時代であれば、おそらく最上位は犬で間違いないでしょう。しかし、23区内の野良犬/野犬は徹底的に駆除され、今は限られた地域にわずかに残っているだけです。また、23区内にキツネやサルやクマはいません。となればタヌキのライバルとなり得るのは今や猫だけでしょうけれど、私自身の観察でも、猫はタヌキには譲歩します。タヌキは猫より一回り大きい上、猫と違って群動物ですから、ほとんどの猫はタヌキが来れば譲歩します(中にはタヌキに敢然と立ち向かって追い払うような勇猛な猫もいますけれどね。うちのまろが野良時代はそういう猫でした。そんな性格だから大怪我をして私に保護されるはめにも陥ったわけですが。)

ところで、タヌキとよく似た動物でありながら、なぜキツネは23区内に生息できなかったについては、おそらく微妙な生態の違い、食べ物がキツネの方がやや動物食に偏っていることや行動範囲がキツネの方が広いこと等が原因ではないかと推測しています(page145-146)。

ほかにタヌキと競合しうる動物として、アライグマとハクビシンがいます。どちらもタヌキと似たような大きさで、しかしタヌキよりはるかに器用な手(前足)を持ち、木登りも得意です。東京タヌキたちには、どうか彼らに負けないよう頑張ってほしいところです。

『タヌキたちのびっくり東京生活』
東京タヌキの分布図。西側に多い。

東京タヌキのための都市構築

「エピローグ」に「東京タヌキのための都市構築」という章があります。そこからの引用でレビューを締めくくらせていただきます。

これまでの都市計画は、まず「入れ物」(=建物)ありきでした。緑地は、そのすき間にぽちぽちとオマケのように配置されるものでした。しかし、タヌキの目で見るならばまず緑地を確保して、それから建物をぽちぽちと置いていくような逆向きの発想で都市構築を考えることも必要になってくる、と私は考えます。人口減少期に突入した現在、この考え方は非現実的な夢想ではなくなったはずです。
page 231

私も大賛成です。その方が人間にとっても良いに決まっていますもの。

『タヌキたちのびっくり東京生活』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • はじめに
  • 第1章 タヌキの基礎知識
  • 第2章 東京タヌキの都市生活
  • 第3章 東京タヌキはどこにいる?
  • 第4章 東京タヌキを見に行った
  • 第5章 もしもタヌキに出会ったら
  • Epirogue 東京タヌキの東京都市論
  • あとがき、謝辞、参考文献、索引

著者について

宮本拓海(みやもと たくみ)

NPO法人都市動物研究会理事。『マルチメディア昆虫図鑑』『マルチメディア魚類図鑑』『マルチメディア爬虫類両生類図鑑』などのCD-ROM書籍の編集・ディレクターを担当。著書に『動物の見つけ方、教えます!都会の自然観察入門』、『外来水生生物事典』など。

しおやてるこ

イラストレーター兼漫画家。

NPO法人 都市動物研究会

2002年設立(※)。都市動物と人間とのよりよき共生のあり方の調査・研究、人々へ普及・啓発、自然環境の保全を目的とする。都市動物に関連する調査・研究、資料の収集および保管、観察会・セミナーの開催、講師派遣、指導者育成、各種媒体への情報提供等の事業を行う。
(※)2013年7月12日解散。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『タヌキたちのびっくり東京生活』

都市と野生動物の新しい共存

  • 共著:宮本拓海(みやもと たくみ)・しおやてるこ・NPO法人都市動物研究会
  • 出版社:株式会社技術評論社 知りたいサイエンスシリーズ
  • 発行:平成20年(2008年)
  • NDC:489.56(哺乳類・イヌ科)
  • ISBN:9784774135250
  • 239ページ
  • カラー口絵、モノクロ挿絵・イラスト
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:タヌキ、ほか
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おまけ

この本には載っていませんが、東京23区内、それも皇居に住むタヌキたちについての研究もあります。ほかならぬ平成天皇(現在の上皇)様によるものです。書かれたタヌキ論文は2本。なんとご自身でタヌキの糞を収集し分析して食性を調べられたもので、その結果、糞の中から95種類もの植物の種子が見つかったとか。(Akihito et al.(2016)”Long-term trends in food habits of the raccoon dog, Nyctereutes viverrinus, in the Imperial Palace, Tokyo”Bull.Natl.Mus.Nat.Sci.,Ser.A,42(3),146-161)。

詳細は、長谷川政美著『ウンチ学博士のうんちく』の「第8話 平成天皇とタヌキの糞」(海鳴社、ISBN:9784875253464)をお読みください。こちらも楽しい本ですよ!

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