サイエンス・サイトーク『ウソの科学 騙しの技術』日垣隆、他
4人の学者が、「科学」を語る。
作家でジャーナリストの日垣隆氏と、アナウンサーの有村美香氏が、科学者たちと会談し、その内容をまとめた本です。
この番組の総タイトルは「サイエンス・サイトーク」といいます。「サイエンス」はもちろん科学。「サイトーク」は、インターネットで出会いの場を表す「サイト」と、対話を意味する「トーク」を併せた、私たちがつくった造語です。 page7
テレビと、インターネットと、文庫本という、3つ形で複合的に発信することを最初から決めてスタートしたそうで、2000年の当時はきわめて新しい取り組みだったようですが、・・・出版から20年以上が経過した今、普通にみられる形になりましたね(汗)
とまあ、そんなことは置いておいて。
第一講 科学はただの仮説である 山梨大学・池田清彦
池田清彦氏は「構造主義生物学」の理論家。構造主義者の考えを生物学にも応用、ということらしいですが、私にも実はよくわかりません(汗)。
話題は、ダーウィンの進化論、メンデルの遺伝学からはじまって、原子論だの巨大科学だのとあらゆる方面に言及が飛んで、それら全部をひっくるめて、科学って何だ、というような話になって。宗教と迷信と科学、
日垣:最先端科学の粋を尽くした農ふょうより、昔ながらの営農のほうが味覚も良くて収穫量も多くて土壌も肥沃だ、という例には事欠きません。(後略)
なんて話も出てきて。
最終的には「何事も無常ですね」なんて、もうほとんど禅の世界?
第二講 記憶は嘘をつく 筑波大学・中西陽二
中西陽二氏は、精神病理学専攻。この本ではもっぱら、犯罪者の精神鑑定などの話です。
精神鑑定とは、心神喪失状態とは、精神病とは。ことに犯罪者の場合、心神喪=無罪、ってことになりますから、人権を守るためにも、また危険人物を野に放たないためにも、精神鑑定は非常に重要になってきます。そのあたりの話が、かなり具体的な内容も含めて放されています。有名な「宮崎務」について、天性の(?)詐欺師について、オウム真理教について。ビリー・ミリガンの多重人格、なんかも出てきますけれど、私もダイエル・キイスのミリガン本は全部読みましたけど、なんか読めば読むほど、ビリーの24人格は嘘っぽく感じられたことを思い出したり。3人格くらいなら「多重人格」もあるだろうと、そういう精神構造は全然疑っていないんですけれどね、
第三講 これが動物の情報戦略だ 自然環境研究センター・千石正一
千石先生については、説明の必要もありませんね。テレビでも引っ張りだこの超人気者、爬虫類や両生類のイメージを大改善してくれた動物学者でした。2012年に62歳の若さで亡くなられたときは驚きましたし、日本の宝がまたひとつ失われたと思いました。
私がこの本を購入したのも、そもそも千石先生の章を読みたかったからです。
内容は、なにしろ千石先生ですし、会談ですしで、話題はあっちに飛びこっちに飛び、千石先生との会談だけカラー口絵もあるし(1枚だけですけど)、主に爬虫類について語っているのですが、ナナフシやミツバチや鳥類・哺乳類まで出てきて、要するに面白いのなんの!
とはいえ、最初は猫本サイトにレビューを載せる気はなかったんです。千石先生がいくら楽しくても、4つの章のうちのひとつ、本の1/4でしかないし、肝心の猫の話題はないし。
でも、最後から2番めのページに載っていた先生の次の言葉に大きく頷いてしまったのです。
日垣:(人間以外の)他の生き物の「嘘」とか「騙し」は、なかまや周囲にダメージを及ぼす、ということはありませんね。
千石:嘘には白い嘘と黒い嘘があるっていう、そういう言い方をするときがありますよね。周りに被害がなくて、どうしてもぎりぎりのときにつく嘘が白い嘘だというふうにいわれているわけですが、そういう意味で生き物の嘘は白い嘘だと思う。他者を騙くらかして余計にふんだくろうとか、そういう黒い嘘ではない。自分の命一個を守ることが最大の目的なのであって、それ以上のことを望んでいるわけじゃないからです。
日垣:人間は魚に対して、よく毛針を出したり(笑)、これも一種の人間による騙しだと思うんですが、かわいそうに魚たちは騙されてしまう。
千石:人間がルアーで魚を釣るのは、あんまり褒められたことではないという感じはします。昔のようにね、たとえば原始人みたいな状態で、魚を釣って食べなかったら死んでしまうとかいうふうなときには、それはしょうがないと思うけど、余暇で人が動物を騙すっていうのと、動物が自分の生存のために擬態して騙しているっていうのは、それはちょっと次元が違うという気がしますよね。(以下略)
page162-163
私、「趣味が釣り」という人が大っ嫌いで。「殺生をして楽しいのか」と聞くと、中には「キャッチ・アンド・リリースしているのだから殺生じゃない」と猛抗議してくる人もいます。でも私の目には、おのれの欲望のために他者を騙して怖がらせて傷つけて喜んでいるヤカラって、「いいじゃないか、触って減るもんじゃなし」の痴漢と同じだと思うんですよね。それにリリースされた後に、多くの魚が死んでしまうとも聞いています。魚にとって、釣りあげられるということは、それほどショッキングでダメージの大きい事件だということです。
千石先生と同じく、もしその魚を釣って食べなければ自分が飢え死にしてしまう、とかいう状況なら、釣ってぜんぜんかまわないと思いますけれど。
第四講 信じる者は足すくわれる? 信州大学・守一雄
守一雄市は教育学博士。主な著書に「認知心理学」「よくできたウソの本」「チビクロこころ:中学生高校生のための心理学入門」等、それから、絵本「チビクロさんぽ」。これは黒人差別論議により絶版となった「ちびくろサンボ」を、主人公を黒い子犬にかえたものだそうです。私はまだ読んでいませんが、見てみたいですね。
会談の内容は、手品とか、占いとか、迷信とか、ジンクスとか、さらに新興宗教など、科学が発達したといわれる現代でになっても、なぜか多くの人が信じているものについてです。最初は疑っていたはずなのにいつの間にか信じていたり、そればかりか、積極的に信じたいと思っているとしか思えない行動なんてのもしばしばで、冷めた頭で考えればバカバカしいとわかっているのに、つい、・・・・なぜ?
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
- はじめに
- 第一講 科学はただの仮説である 山梨大学・池田清彦 第二講
- 記憶は嘘をつく 筑波大学・中西陽二
- 第三講 これが動物の情報戦略だ 自然環境研究センター・千石正一
- 第四講 信じる者は足すくわれる? 信州大学・守一雄
『サイエンス・サイトーク『ウソの科学 騙しの技術』
- 著:日垣隆(ひがき たかし)、他
- 出版社:株式会社 新潮社 新潮OH!文庫
- 発行:2000年
- 初出:書き下ろし
- NDC:404(自然科学)論文・講演集、科学評論、雑著
- ISBN:9784102900604 (4102900608)
- 209ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:多数