松尾由美『ニャン氏の事件簿』

アロイシャス・ニャン氏は、実業家で投資家で童話作家で、しかも、探偵?。
もともとはさる資産家と起居をともにするパートナーとして、晴れた日には日向ぼっこ、雨が降れば鼠のおもちゃを追いかけてノンキにくらしていたそうな。ところがその資産家が亡くなっって財産をそっくり引き継ぐと、めきめきと才覚を発揮、貿易・金融・缶詰製造・投資・執筆と、人間顔負けの大活躍。
そう、A.ニャン氏は猫である。というより、人間以上の超猫にゃのであった。
本の主人公は、しかし、ニャン氏ではなくて、佐多という大学生になっています。ある事情で休学中、現在は家電運送会社でアルバイトの日々。よくペアを組むのは岡崎というマッチョなベテラン配送員。
配送業ですから、色々な家をまわります。その配送先で、さらにピンチヒッターの臨時アルバイト先でまで、なぜか佐多は「未解決事件」の話をききます。そして、なぜかそこにはきっとニャン氏が現れます。そして、話を聞いただけで、あっさり解決してしまいます。
といっても、猫ですから、人語は話せません。ニャン氏の推理を理解し、ニャーニャーとしかいわない言葉を翻訳するのが、丸山という秘書。いつも黒づくめの、いかにも「秘書でございます」って感じの男で、常に控えめ、無駄口はゼロ、主人のニャン氏の横に、影のようにひっそり控えているタイプ。この丸山がなぜか猫語を完璧に理解し翻訳してくれるのです。
それにしても。
佐多は不思議でした。なぜこの奇妙な猫人コンビに、こんなに頻繁に出くわすのか?しかもしかも、驚いたことに、なんとなくだけど、自分にも、まだ全部とはいかないけど、なぜかニャン氏のニャー語が理解できる場合もあるような・・・?

楽しいミステリーです。全部で6話。
なかでも面白いと思ったのが、「ネコと和解せよ」。このタイトルの元となった「看板」もおもしろいし、登場人物もなんだか笑っちゃいました。我々猫派からすれば理解不能な人、むしろ可哀想な人?そしてここにはもう1ニャン登場します。こちらは普通の猫ですけれど。
殺人事件の話もありますが、何十年も前のことだったりで、おどろおどろしさはありません。たとえば明るい部屋でお茶を飲みながら、老人が昔遭遇した事件を思い出話に話す、それを聞くのも若い佐多や猫のニャン氏などといった風景、これじゃ深刻になれっていう方が無理です。
ちょっと話を聞いただけでたちまち事件解決してしまうニャン氏の推理力のすばらしさを、堪能してください。
※ニャン氏シリーズ
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。


目次(抜粋)
- ニャン氏登場
- 猫目の猫目院家
- 山荘の魔術師
- ネコと和解せよ
- 海からの贈り物
- 真鱈の日
著者について
松尾由美(まつお ゆみ)
1989年『異次元カフェテラス』を刊行しデビュー。91年「バルーン・タウンの殺人」がハヤカワSFコンテストに入選。主な著作に〈バルーン・タウン〉シリーズ、〈安楽椅子探偵アーチー〉シリーズ、〈ハートブレイク・レストラン〉シリーズ、『雨恋』『九月の恋と出会うまで』『煙とサクランボ』『花束に謎のリボン』『わたしのリミット』などがある。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『ニャン氏の事件簿』
- 著:松尾由美(まつお ゆみ)
- 出版社:株式会社東京創元社 創元推理文庫
- 発行:2017年
- 初出:2014年~2016年、書き下ろし
- NDC:913.6(日本文学)推理小説(短編集)
- ISBN:9784488439088
- 264ページ
- 登場ニャン物:アロイシャス・ニャン氏
- 登場動物:-
