千石正一『世界のネコの世界』

副題:『にゃおよろずのくにぐに』爬虫類博士は半びょう人!?。
個性的な風貌に、恐ろしい知識量。知る人ぞ知る爬虫類博士、千石正一先生。
千石先生といえば、トカゲやヘビ、カエルなど、爬虫類・両生類のイメージがあまりに強いのですが、このセンセイ、変温動物だけではなかった!自ら「半猫人(はんびょうにん)」と称するほどの猫好きでもいらっしゃいました♪
この本は、そんな先生による、Necology(猫学)の視点から世界を見た、Necological Essayです。
Necologyはもちろん先生の造語でありまして、Ecology(生態学)にひっかけてあります。半猫人の爬虫類学者として、生態学的な視点も多くなっています。さらに、社会・政治・歴史などの観点からも分析。
・・・と書くと、いかにも硬そうですが、ぜんっぜん!なんせアノ千石先生のお書きになられたものですから。ひょろ~り、さらりと読めちゃって、面白い!しかもあとから考えさせられる。流石です。
ネコといっても、あなたの膝に乗っているようなイエネコばかりではありません。ネコ科全般が対象です。プーマ(ピューマ)、トラ、ジャングルキャット、ライオン、リビアヤマネコ、その他。いずれも野生のネコ科らしく、ほんのちらりと短い登場ばかりなのが残念ですが、それにしても豊富なネコ体験ではあります。うらやましい。
ところで、この本では、「猫」と「ネコ」の2種の表記が混在しています。誤植ではなくて、あえて別表記だそうです。生物学的な種として、イエネコを含むネコ科一般を、動物として表記するときは「ネコ」。人間の精神世界とかかわったとき、社会的・文学的ニュアンスを含むときは「猫」。あらこれ、私の区分けとぴったり同じじゃないですか♪ 私も「猫」「ネコ」さらに「ねこ」を区別して表記しています(タイピングするときは誤変換まであまり気を付けていないコトが多々がありますが(汗)、手書きの時は厳密に区別)。「猫」「ネコ」は千石先生と同じ。そして「ねこ」は、この動物の愛らしさを強調するときに使っています。子ねこ、とか、うちのねこ、等。
もうひとつ、「あら同じ」と思っちゃったのが、「はなくそはなちゃん」。キューバで出会った猫を、その模様から「はなくそはなちゃん」と呼んで店員に「ミミ」と訂正されているのですが、この、はなくそ⇒はなちゃん。はい、うちにいます。ハナちゃん。
千石先生は、こんなことも書いていらっしゃいます。
わが子殺しの確率は、ヒトのほうがよほどケモノより大きい。つまり一般的にいえば「ヒトのほうがケモノに劣っている」のが当たり前なのである。
どうしてそうなるのかというと、行動がほぼ遺伝的に決定されている(ヒト以外の)動物では「正しく自分の子を育てる」遺伝子しか生き残ってこられなかったからに過ぎない。倫理的な問題とは別なのだ。
それを尊大な動物である人間が、自分をエラく思わせたい、あるいはそう思い込みたいために、「ケモノはヒトより劣っているものである」というニセモノの常識をふりまいているだけである。
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これも、私自身、しばしば感じることであります。ケモノないし(ヒト以外の)動物たちの方がエラい、だんぜんえらい。地球上に、ヒトほどダメダメな種はないだろうと、本気でそう歎じています。なんたって、ヒトだけですからね、自分たちの種ばかりでなく地球そのものをぶっ壊しかねないような愚挙を重ねて喜んでいるのは。
動物が好きな人なら、文句なしに楽しめる本でしょう。別に動物好きというほどでなくとも、地球全体のことを少しでも考えたことのある人であれば、興味深く読めると思います。
千石先生の早すぎる死が残念でたまりません。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『世界のネコの世界』
にゃおよろずのくにぐに
- 著:千石正一(せんごく しょういち)
- 出版社:海竜社
- 発行:2005年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4759308873 9784759308877
- 181ページ
- カラー
- 登場ニャン物:イエネコたち、ヤマネコたち、大型ネコ科たち
- 登場動物:ジャコウネコ科、ヤモリ、犬、ワニたち、ヘビたち、他、多種多数
目次(抜粋)
はじめに ネコロジカル・エッセイ
Ⅰ アジア東部のネコ
Ⅱ 南北アメリカ・オセアニアのネコ
Ⅲ アフリカ大陸のネコ
Ⅳ アジア南部・西部のネコ
【推薦:まめまま様】
あの千石先生がネコ好きとは知りませんでした。
先生が訪れた先で出会ったネコ、その国におけるネコの様子などが書かれた旅日記のようなものです。
対馬やイリオモテのヤマネコの調査も行かれてたんですね。
ただ、1編のスペースが限られているため、どれも深く掘り下げているわけではありません。
その辺少々物足りない気分ではありますが、インドネシアでノラネコさんと同じ獲物(ヤモリ)を取りあったり、一緒に暮らした三毛猫チャコさんのお話しとか、軽~く読むには楽しい読み物です。
もしかすると、もっとページを割いて書きたかったのかな?という印象です。
(2006.9.26)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。